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《スイス》NAGRAが高レベル放射性廃棄物のキャニスタ封入施設の立地オプションを比較する報告書を公表

スイスの処分実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、2020年8月17日に、ガラス固化体をオーバーパックする施設及び使用済燃料をキャニスタに封入する施設(以下、両者を合わせて「キャニスタ封入施設」という)の立地オプションを比較する報告書を公表した。キャニスタ封入施設は、地層処分場の地上施設を構成する主要な施設の一つ1 であり、サイト選定プロセスの第3段階に残っている3つのサイト地域2 に設定されている地上施設設置区域に建設するケースをメインのオプションとしているが、高レベル放射性廃棄物の大部分が貯蔵されているヴュレンリンゲン放射性廃棄物集中中間貯蔵施設(ZZL)に建設するケースも想定されている。今回のNAGRAの報告書は、前述の2ケース以外のオプションとして、原子力発電所にキャニスタ封入施設を建設するケースなどを加えることにより、立地オプションに関する検討を充実させたものである。

検討の経緯

高レベル放射性廃棄物のキャニスタ封入施設については、地層処分場の地上施設の設置区域に設置する想定で検討が進められてきた。しかし、サイト選定プロセスの第2段階において、処分場の地上インフラ配置案を検討する過程で、チューリッヒ北東部の地域会議はNAGRAに対し、キャニスタ封入施設等をサイト地域外に設置することのメリット及びデメリットを説明して欲しいとの要望を表明していた。これを受けて連邦評議会3 は、2018年11月のサイト選定第2段階終了時にNAGRAに対し、地域会議の要望を考慮した上で、キャニスタ封入施設等をサイト地域外に設置する可能性を検討するよう要求した   。

この検討要求に応えるためにNAGRAは、高レベル放射性廃棄物のキャニスタ封入施設について、①「地層処分場サイトの地上施設設置区域内」での立地をレファレンスケースとして、②「ヴュレンリンゲン放射性廃棄物集中中間貯蔵施設(ZZL)サイト内」、③「ベツナウ中間貯蔵施設(ZWIBEZ)4 サイト内」、④「原子力発電所5 サイト内」、⑤「新規立地」の5つの立地オプションを想定して、輸送、追加で必要となる敷地面積、既存インフラや経験を有する熟練作業員の利用可能性、セキュリティと保障措置、コストといった項目の比較・検討を以下の通り行った。

  • ①「地層処分場サイトの地上施設設置区域内」での立地
    長所:地層処分場の地上施設の設置区域内のキャニスタ封入施設から地層処分場への輸送のみであり、輸送の負担が非常に軽い。②や③の中間貯蔵施設サイト内での立地と比較すると、既存の施設が現時点で存在しないことから、設計上の制約が少ない。
  • ②「ヴュレンリンゲン放射性廃棄物集中中間貯蔵施設(ZZL)サイト内」での立地
    長所:現状、使用済燃料とガラス固化体の輸送貯蔵兼用キャスクの大部分が貯蔵されており、高レベル放射性廃棄物用の廃棄体積み替えセルを備えている。既存のインフラを利用することにより、施設面積を小さくできる。また、熟練作業員の活用が見込める。コストの面では①「地層処分場サイトの地上施設設置区域内」での立地と比較すると、同等あるいは最大5%の軽減が期待できる。
  • ③「ベツナウ中間貯蔵施設(ZWIBEZ)サイト内」での立地
    長所:ZZL同様、既存インフラを利用することによって施設面積を小さくでき、熟練作業員の活用も可能である。
    短所:現状、廃棄物の輸送貯蔵兼用キャスクの大部分がZZLにあることから、ZZLからZWIBEZへのキャスク輸送を行わなければならなくなる。コストの面では、①「地層処分場サイトの地上施設設置区域内」での立地と比較すると、同等あるいは最大5%増大する。
  • ④「原子力発電所サイト内」での立地と⑤「新規立地」
    短所:既存インフラや熟練作業員の活用等の面では利便性はない。コストについては、①「地層処分場サイトの地上施設設置区域内」での立地と比べて20%程度増大する。

上記の検討の結果、NAGRAは、ケース①と比較してケース②と③のみ、敷地面積を小さくすることが可能であり、採用する余地があるとしている。このうち、ケース②のヴュレンリンゲン放射性廃棄物集中中間貯蔵施設では、使用済燃料の貯蔵容器への詰め替え作業を行っているため、キャニスタ封入施設と類似する作業経験をもつ熟練作業員の活用を見込むことができる。こうした理由から、NAGRAは、①「地層処分場サイトの地上施設設置区域内」での立地と②「ヴュレンリンゲン放射性廃棄物集中中間貯蔵施設(ZZL)サイト内」での立地が好適であるとした。NAGRAは今回の検討結果をもとに、地上施設の設置箇所の決定に向けて、地域会議や関係する州と議論を進めていくとしている。

 

【出典】

 

  1. 地層処分場の地上施設には、低レベル放射性廃棄物の廃棄体製作施設も含まれるが、今回のNAGRAの報告書では、その立地オプションについては検討していない。 []
  2. サイト選定第3段階におけるサイト地域は、地上施設、地下施設、地上・地下のインフラの一部または全てが立地する「インフラ立地自治体」と「その他関係自治体」で構成される。 []
  3. 日本の内閣に相当 []
  4. ZWIBEZはベツナウ原子力発電所内に立地する []
  5. ゲスゲン、ライプシュタット両原子力発電所サイトを想定 []

(post by yamamoto.keita , last modified: 2023-10-17 )