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《英国》放射性廃棄物管理会社(RWM社)が地層処分施設(GDF)のサイト選定プロセスを開始

英国政府は2018年12月19日、2014年7月の白書『地層処分の実施-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み』(以下「2014年白書」という)に代わるイングランドの政策文書である『地層処分の実施-地域社会との協働:放射性廃棄物の長期管理』(以下「2018年政策文書」という)を公表するとともに、地層処分事業の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)による地層処分施設(GDF)の新たなサイト選定プロセスが開始されたことを公表した。一方、2018年政策文書の公表に併せてRWM社は、2014年白書に基づいて取り組んでいた英国全土(スコットランドを除く)を対象とした「地質学的スクリーニング」(National geological screening exercise)の結果を公表するとともに、今後のサイト選定プロセスを通じて地域社会と協働して進めていく「サイト評価方法案」に関する協議文書を公表した。サイト評価方法案に対する意見募集は、2019年3月31日まで行われる。

■サイト評価方法案に関する協議文書で提案されたサイト選定で考慮する立地要因と評価項目

図:サイト選定プロセスの全体像

英国政府は、2018年政策文書で新たなサイト選定プロセスとして、今後約5年間を「サイト評価期間」(site evaluation)とし、複数の「調査エリア」(Search Area)を探すことを計画に盛り込んだ。RWM社は、ボランタリーなワーキンググループ(下記参照)との初期対話において、今回提示した既存の地質情報に基づく地質学的スクリーニングの結果を活用しつつ、自治体組織が参加する「コミュニティパートナーシップ」(下記参照)の設立を目指すとしている。今回RWM社が提示した協議文書では、地層処分施設の立地要因(Siting Factor)として、①安全、②コミュニティ、③環境、④工学的成立性、⑤輸送、⑥コストの6つを挙げている。このうち、2番目の「コミュニティ」では、「コミュニティの福祉」と「立地コミュニティの将来ビジョン」を評価項目(Evaluation consideration)として位置づけている。6つの立地要因間での序列や重み付けはなく、定性的な評価方式を採用するとしている。

■新たなサイト選定プロセス:初期対話とワーキンググループの設置

2018年政策文書で設定されたサイト選定プロセスでは、地層処分施設(GDF)の設置に関心を示す者、または設置候補エリアを提案したい者であれば、RWM社との初期対話(initial discussion)を開始できる。初期対話の関心表明は、必ずしも自治体当局である必要はなく、土地所有者や企業、団体、個人であっても可能であるとしている。初期対話において、GDF設置に向けた更なる検討を進めていくことに合意した場合には、当該地域の自治体組織(市議会、州議会など)に報告して、コミュニティ全体での協議に発展させることになる。これを目的として、RWM社、関心表明者の他、独立したグループ長とファシリテータを加えた準備組織「ワーキンググループ」を設立することを2018年政策文書において取り決めている。英国政府は、ワーキンググループに自治体組織が入ることが望ましいとする見解を示しているが、必須条件とはしていない。

ワーキンググループは、その設置を当該地域の自治体組織に報告した後、RWM社がGDF設置の潜在的な適合性を確認する「調査エリア」の特定作業を進める。調査エリアは、自治体組織の選挙区を最小単位にするように設定するとしており、これにより、コミュニティや自治体組織等の協議への参加可能者が特定されるとしている。

■コミュニティパートナーシップの設立

英国政府は、「調査エリア」の地理的範囲はRWM社の協議文書「サイト評価方法案」で定めた立地要因に基づく検討が進むに従って変化するものであるとしており、ワーキンググループの活動によって調査エリアの範囲が定まっていくにつれて「コミュニティパートナーシップ」の範囲に収斂していくと見込んでいる。2018年政策文書では、「コミュニティパートナーシップ」を当該コミュニティにおける情報共有、地層処分・サイト選定プロセス・地域の便益に関する対話と理解を促進するために設置されると位置づけている。コミュニティパートナーシップの設立には、調査エリアにある自治体組織の合意が必須であり、同パートナーシップの構成メンバーには、少なくとも一つの自治体組織が参画する必要がある。英国政府は、同パートナーシップを形成するコミュニティに対し、経済振興、環境・福祉向上を目的とするプロジェクトに限定した形で、年間最大100万ポンド(1億4,900万円、1ポンド=149円)、地下深部ボーリング調査の実施に至った際には年間最大250万ポンド(約3億7,300万円、1ポンド=149円)の資金提供を行うとしている。

■サイト選定プロセスにおける住民支持の調査・確認の義務と撤退権に関する取り決め

英国政府は、今回の2018年政策文書の公表に先立って、2018年1月25日から4月19日まで、地域社会との協働プロセスに関する公衆協議を実施した 。この公衆協議を通じて寄せられた意見に基づき、英国政府は、サイト選定プロセスにおいて、自治体組織(市議会、州議会など)が果たす重要な役割である「住民支持の調査・確認(test)」と「撤退権」に関する条件を明確にしている。

英国では、地層処分施設及びその候補サイトを評価するために必要な地上からのボーリング調査を「国家的に重要な社会基盤プロジェクト」(NSIP)と位置づけており、地上からのボーリング調査の実施前、及び地層処分施設(GDF)の建設前において、計画審査庁からの勧告を受けた担当大臣による開発同意令(Development Consent Order ,DCO)が必要となっている。コミュニティパートナーシップに参画する自治体組織は、遅くともRWM社が地層処分場の建設許可申請を行う前までに、地層処分施設(GDF)の設置受け入れに関して、住民支持の調査・確認(test)を実施する必要がある。また、サイト選定プロセスにおいては、住民支持の調査・確認が実施される前であれば、自治体組織はサイト選定プロセスから撤退する権利を有することが認識されている。

英国政府は2018年政策文書において、住民支持の調査・確認を行う時期を決定する権限は、コミュニティパートナーシップに参画する自治体組織が有するとしつつ、コミュニティパートナーシップに複数の自治体組織が参画している場合には、全ての自治体組織がその実施時期に合意しなければならないことを明確にした。また、自治体組織がサイト選定プロセスから撤退する権利を行使する際には、当該コミュニティパートナーシップに参画している全ての自治体組織が撤退に合意する必要があることを明確にしている。

【出典】

 

【2019年6月7日追記】

英国政府の諮問機関である放射性廃棄物管理委員会(CoRWM)は、2019年6月4日に、地層処分事業の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)による「サイト評価方法案」への意見書を公表した。意見書においてCoRWMは、RWM社が示した地層処分施設(GDF)の立地要因の一つである「コスト」については、建設コストがGDFの安全性やサイト選定プロセスを阻害することにならないことを条件とすべきである点を指摘している。また、サイト評価方法の説明文書が、コミュニティとの初期対話において役立つものとなるよう、次のような意見を示した。

  • 現時点ではおそらく、複数の調査エリア内から、サイトを絞り込む方法を詳しく説明するのは時期尚早であるが、サイトを見出す目的で、調査エリア内を地質条件の違いで色分け(differentiate)する方法を説明しておくことは有益と考えられる。その作業でどのような種類の情報が重み付けされるかを人々が考えることができれば、各エリアがどのように比較判断を受ける可能性があるかを理解する上で役立つ情報となる。同様に、サイト選定プロセスの各段階において検討されるサイト数の目安、並びに次段階に進むサイト数を絞る観点から、いつ比較が行われるのかを解説しておくことも有益と考えられる。
  • 潜在的コミュニティがサイト選定プロセスに参加する時期は、コミュニティによって異なるうえ、参加後の進み方を左右する個別の事情を抱えている。もし、後から参加した潜在的コミュニティが先行するコミュニティに対して引け目を感じたり、十分な情報を得ることなく除外される可能性があると考えるようなことがあれば、立地に適したサイトが初めから除外されるおそれがある。したがって、プロセスの全体的な進行がどのように管理されるのかに関する情報が重要である。
  • 地層処分施設(GDF)の立地要因には「地質」(geology)が含まれていないが、サイト評価方法案において、GDFにとっての地質の重要性を概略的に説明しておくことは有益と考えられる。同様に、現行の英国政府の政策である「地域社会との協働」に関する情報やサイト選定プロセスの全体的な背景情報を盛り込むことも有益と考えられる。
  • RWM社のサイト評価方法案では、非常に技術的な表現が散見される。文書の理解を助け、親しみやすくするだけでなく、人々の関与を後押しするものとするため、人間味のあるものとする(humanising)ことを考えるべきである。また、地層処分施設(GDF)のサイト評価の方法について、他の原子力施設やインフラプロジェクトの場合との比較分析(ベンチマーク)の情報が役立つと考えられる。

【出典】

(post by f-yamada , last modified: 2023-10-10 )