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《英国》地層処分施設に関する地域社会との協働プロセス案の公衆協議が開始

英国政府は2018年1月25日に、地層処分施設(GDF)に関する地域社会との協働プロセス案(イングランドと北アイルランドが対象)の協議文書を公開し、同日より2018年4月19日まで意見募集を行うことを公表した。また、ウェールズ政府も同日、ウェールズにおけるGDF設置に関する地域社会との協働プロセス案についての協議文書を公開し、同日より2018年4月20日まで意見募集を行うことを公表した。今回の協議文書において英国政府は、地層処分事業の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)、GDFの受入れに関心を持つ地域と、その地域を内部に含む自治体議会等の複数の地方自治体との三者が係わり合う協働プロセスに関する提案を示している。

英国政府は現在、2014年7月の白書『地層処分の実施-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み』(以下「2014年白書」という)に沿って、地層処分施設のサイト選定プロセスの初期活動を進めている。英国政府は、サイト選定プロセスを進める上で「地域(コミュニティ)」に係わる問題を最も難しいものと位置づけており、地域社会との協働プロセスの策定に向けて、2015年から「地域の代表のための作業グループ」(Community Representation Working Group、CRWG)を設置して検討を進めてきた。また、2015年12月から2016年3月にかけて、科学コミュニケーションの促進を目的とした英国政府のプログラム「サイエンスワイズ」(Sciencewise Expert Resource Centre)を活用して、地層処分と地域社会との協働に関する公衆対話を実施していた。今回の協議文書は、これらの成果を踏まえて作成されたものである。

■新たなサイト選定プロセスにおける「地域」の捉え方

今回の協議文書では、サイト選定プロセスとは、地層処分施設の立地の可能性がある「地域(エリア)」を領域内に含む「地域(コミュニティ)」の特定を目指したアプローチであり、その開始から約20年にわたる時間経過と共に、「エリア」と「コミュニティ」の両方が、それらの数と大きさの面で狭められていく変化の過程として捉えられている。こうした認識のもと英国政府は、サイト選定プロセス初期の「調査エリア」を、「エリア」と「コミュニティ」の範囲が一致するように、選挙区を最小単位とし、地層処分施設の開発によって影響を受ける選挙区を含む全ての自治体を包括する形で定義するという考え方を提示している1 。また、サイト選定プロセスの途中段階では、調査エリアを包括する立地コミュニティを構成する自治体メンバーも変化することになる。そうした立地コミュニティは、サイト選定プロセスの開始当初から必ずしも存在しているとは限らないため、サイト選定プロセスを通じて発見あるいは新たに創設されることになる。地層処分施設の立地に関して意思決定する資格をもつ1つの<潜在的立地コミュニティ>が明らかになるまでは、当該エリアでの立地プロセスの継続に関する支持を調査・確認(test)する対象住民の範囲を明らかにできない。このような理由から、英国政府は、潜在的立地コミュニティが明確になるまでは、サイト選定プロセスに関係する個々の自治体が地層処分施設の受け入れ可否に関する意思決定を行う必要性に迫られることはないとしている。このことは、サイト選定プロセスへの参加にあたって、自治体が関心表明を行う必要はないことを意味している。

■新たなサイト選定プロセスにおけるパートナーシップ

今回の協議文書では、今後のサイト選定プロセスの開始にあたり、最初に地層処分の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)が、RWM社と協働する「コミュニティパートナーシップ」の構築を目的として、事前に公衆や様々なステークホルダーと対話を行う「関与形成チーム」(formative engagement team)を組織することとしている。このチームの構成員として、RWM社の職員のほか、独立したチーム長、ファシリテーター、別途提案される「調査エリア」に含まれる自治体組織(市議会、州議会など)、地元企業パートナーシップの代表2 が挙げられている。英国政府は、関与形成チームに地元企業パートナーシップが参画することによって、当該コミュニティにおける社会経済や産業基盤に関する影響に関する情報が入手できることを期待している。

 RWM社と協働するコミュニティパートナーシップの構築は、その活動方法、参加者の役割、意思決定方法などを定めた合意書に対する署名をもって有効になるものとしている。また、英国政府は、この時点から当該コミュニティに対し、経済振興、環境・福祉向上を目的とするプロジェクトに限定した形で、年間最大100万ポンド(1ポンド=149円として、1億4,900万円)、また、地下深部ボーリング調査の実施に至った際には年間最大250ポンド(約3億7,300万円)の資金提供を行うとしている。さらに、この資金提供は、RWM社を通じて行うとの考えを提示している。なお、この資金提供の給付申請を行う資格は、当該コミュニティに属する個人も可能としており、コミュニティパートナーシップとRWM社で構成される投資パネルの審査を受けることを条件としている。

■今後の予定

今後、英国政府は、公衆協議で得られた意見を検討した上で、協議の回答と最終的な政策を公表するとしている。また、RWM社は、英国政府が示す地域社会との協働プロセスに関する政策を、実際の地層処分施設のサイト選定プロセスの中で、どのように連携させるかについて、より詳細なガイダンスを作成するとしている。

 

【出典】

 

【2018年5月14日追記】

英国政府の諮問機関である放射性廃棄物管理委員会(CoRWM)は、2018427日に、地層処分施設に関する地域社会との協働プロセス案への意見書を公表した。意見書においてCoRWMは、英国政府が公衆協議文書で意見を求めていた事項に関して、次のような意見を述べている。

■関与形成チーム(formative engagement team)の活用

本協働プロセス案では、サイト選定プロセスにおいて、地層処分の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)が、RWM社と協働する「コミュニティパートナーシップ」の構築を目的として、事前に公衆や様々なステークホルダーと対話を行う「関与形成チーム」を組織することになっている。しかし、CoRWMは、本協働プロセス案に示された説明だけでは、この関与形成の意味を公衆が正確に理解することは困難であると考えている。本協働プロセス案において、関与形成に関するガイダンス文書は、今後用意されると説明されているものの、その文書をRWM社が作成し、RWM社が関与形成チームに参加する場合には、関与形成が偏ったものになると見られる可能性があるとCoRWMは指摘している。

■協働するコミュニティパートナーシップの構築方法

CoRWMは、RWM社と協働するコミュニティパートナーシップの構築はできるだけ柔軟であるべきと考えているが、本協働プロセス案では選挙区を有する自治体組織(市議会、州議会など)の役割が強調され過ぎているとの認識を示している。また、コミュニティパートナーシップを形成するという目的において、選挙で選ばれた代表で構成される行政機構は重要であるが、そうした行政機構がコミュニティパートナーシップの構築を主導する役割を担う必要があるとは必ずしも言えないとしている。さらに、関与形成の段階においては、潜在的なホストコミュニティのメンバーと開発者としてのRWM社の間に、知識の不均衡が存在するのは避けられないため、政治的な意欲が強すぎると、問題を招く可能性があると指摘している。このためCoRWMは、パートナーシップのメンバー間の交流や情報伝達のペースが、弱者と見なされるコミュニティメンバーの意思で進むような配慮がされるべきであるとの意見を示している。

【出典】

• 英国政府ウェブサイト、CoRWM Consultation Response to BEIS and DAERA on ‘Working With Communities: Implementing Geological Disposal’、2018年4月27日、https://www.gov.uk/government/publications/corwm-consultation-response-to-beis-and-daera-on-working-with-communities-implementing-geological-disposal

  1. 「調査エリア」の定義は、イングランドと北アイルランド、ウェールズのそれぞれの地方自治制度に依存することとなる。 []
  2. 地元企業パートナーシップ(Local enterprise partnerships)とは、イングランドの地方行政組織と地元企業間が自発的に参加するパートナーシップであり、地元経済の発展や雇用創出に関する政策決定をサポートする役割を担っている。この制度は2011年当時のビジネス・イノベーション・技能省(Department for Business, Innovation and Skills)の政策によって導入された。 []

(post by f-yamada , last modified: 2023-10-10 )