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《英国》放射性廃棄物管理会社(RWM)が地質学的スクリーニングのガイダンスを公表

高レベル放射性廃棄物等の地層処分の実施主体である原子力廃止措置機関(NDA)の放射性廃棄物管理会社(RWM)は、2016年4月21日、英国全土(スコットランドを除く)を対象とした地質学的スクリーニングのガイダンスを公表した。RWMは、本ガイダンスに基づいて地質学的スクリーニングを実施し、2017年までにスクリーニング結果を公表した上で、自治体を含む地域との正式な協議を開始する予定としている。

RWMは、地質学的スクリーニングにより、地層処分施設の長期安全性との関連性の高い地質学的な情報を取りまとめ、アクセスしやすい形で利用可能にすることを目標としている。地質学的スクリーニングの成果は、地層処分施設の立地に係わる地質学的可能性に関して、地域との初期の検討を行うために使用することになる。

RWMは、地層処分施設に係わる長期安全要件に関して考慮すべき5つの地質特性として、①岩種、②岩盤の構造、③地下水、④自然プロセス、⑤資源の賦存に着目し、過去に英国で実施された採鉱活動に関する情報を収集した資料などに基づいて、スクリーニング作業を進める。スクリーニング作業から得られた成果情報は、当該地域の地質環境の重要な特性と安全性とがどのような関連性を持っているかについて、一連の簡略な説明文書として提示するとしている。地質学的スクリーニングの成果情報の概要を下表に示す。

英国地質学的スクリーニング置ける地域区分

図:BGSが「地域別指針」(Regional Guide publication series)を発行するために採用している地質学的地域(スコットランドを除く)

RWMは、英国の地質学的状況に関して信頼すべき情報の多くを有する「英国地質調査所」(BGS)と協力して地質学的スクリーニング作業を行い、BGSが「地域別指針」(Regional Guide publication series)を発行するために採用している地質学的地域ごとに、「成果情報パッケージ」を作成する。なお、地質特性の一部については、13の地質学的地域のいずれに対しても当該情報がきわめてまばらであるか、あるいは、ほとんどばらつきが存在しないため、全国レベルの情報のみを示す場合があるとしている。

また、BGSは13の地質学的地域に関して一連の「技術情報レポート」及び「マップ」を作成することになっている。これらの技術資料の作成手順及び実施要綱(プロトコル)についてRWMは、BGSと協力して技術文書に取りまとめており、今回公表した地質学的スクリーニングのガイダンスとともに公表している。

 

表:地質学的スクリーニングにおいて着目する地質特性と成果情報の提示方法

地質特性

地質学的スクリーニング成果情報の提示方法
内容 地図(62万5千分の1)

岩種

  • 地層処分施設が設置される深度にある、母岩となりうる岩種(比較的高強度の岩石、低強度の堆積岩、蒸発岩)の分布
  • 母岩の周囲にある岩石層の特性

候補対象となりうる母岩、その深度、及び特性・場所に関する不確実性についての記述

候補対象となりうる母岩周辺の岩層と安全性に寄与しうる特性についての記述

当該地域に存在する岩盤全体を示す地質柱状図による岩種の表示

地下200~1,000mの深度にある、候補対象となりうる母岩の分布を示した地域図(一般的な3種類の岩種(比較的高強度の岩石、低強度の堆積岩、蒸発岩)の分布図)

少なくとも候補対象となりうる母岩が1つ存在する地域の概要地域図

岩盤の構造
(断層・破砕帯、褶曲の位置等)

  • 多数の褶曲が発達した地域
  • 大規模な断層が存在する地域

地域内にある、安全性に関連する岩盤の構造の性質(大規模な断層、断層帯、複雑な特性を持つ褶曲した岩石のある地域など)についての説明

岩盤構造の分布を示した地域図

地下水

  • 帯水層の存在
  • 浅部地下水と深部地下水の分離を示唆する地質特性と岩種の存在
  • ニアフィールド環境に地下水が急速に流れ込む可能性がある地域
  • 地下水の年代と化学組成

既知の浅部・深部の地下水流動、地下水化学、塩分濃度、年代についての説明

当該地域における地下水流動及び浅部地下水と深部地下水との相互作用に影響を及ぼしうる岩種及びその他の地質特性についての考察

深部ボーリング孔、鉱物、温泉の所在を示す地域図

自然プロセス
(地震・断層活動、氷河作用等)

  • 地震活動の分布とパターン
  • 過去の氷河作用の範囲

英国全土の地震活動、隆起速度、侵食速度、過去の氷河作用中の氷冠に関する情報を当該地域へ適用した解釈

最近の地震活動分布に関する英国全土の地図

過去の氷河作用の程度を示す英国全土の地図

資源の賦存

  • 深部鉱物の存在地域
  • 集中的に深部掘削が実施された地域
  • 将来における開発または資源探査の可能性

当該地域における将来の資源開発の可能性を考慮した、深部の資源探査と開発の歴史についての記述

深度100m以深における、過去及び現代の金属鉱石、工業用鉱物、石炭及び炭化水素の開発状況を示した地域図

■地質学的スクリーニングのガイダンス公表までの経緯

RWMは、2014年7月にエネルギー・気候変動省(Department of Energy and Climate Change, DECC)が公表した白書『地層処分の実施-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み』に基づき、地層処分施設のサイト選定プロセスの初期段階において、英国全土(スコットランドを除く)を対象とした地質学的スクリーニングを実施することになっている。地質学的スクリーニングは、自治体を含む地域が地層処分施設の設置について検討を行う際、安全面において重要な地質に関する情報を利用できるようにするため、既存の地質情報を活用し、地質学的スクリーニングのガイダンスを適用して実施するものである。なお、地質学的スクリーニングの結果は、地層処分施設の設置に「適格」または「不適格」なエリアの判定やサイトの絞り込みに使用されるものではないと位置づけられている。

RWMは、2015年9月8日に地質学的スクリーニングのガイダンス案を公表し、意見提出期限を2015年12月4日まで公開協議を実施していた。RWMは、公開協議で得られた意見を踏まえ、ガイダンス案を更新し、独立評価パネル(IRP)  の評価を受けた後、最終化したガイダンスを2016年4月に公表した。

放射性廃棄物管理会社(RWM)は公開協議において、地質学的スクリーニングのガイダンス案について4つの質問事項を示し、一般からの意見を募集した。この公開協議では、学会、学術界、地域自治体、地球科学の専門家、NGO、関心を有する個人などから合計78の意見が寄せられた。ガイダンスにおける不明確さを無くすよう改善を図るべきとの意見が多数あったものの、その多くがガイダンスの内容に肯定的なものであったため、ガイダンス案を大きく変更する必要はないと判断したとしている。

独立評価パネル(IRP)は、地質学的スクリーニングのガイダンス案において、RWMが作成したガイダンスは技術的に健全であり、RWMが既存の適切な地質情報を利用して実施する地質学的スクリーニングに適用できると評価している。また、IRPは、RWMがガイダンスに示している、より詳細な調査を実施する地域を特定するための基本情報となる地質学的スクリーニング結果の提示方法(上図参照)を支持するとしている。その一方で、IRPは、RWMによって作成される各地域の報告書の品質と利用可能性の向上、コミュニケーションの改善を今後の課題と指摘している1

【出典】

  1. IRPは、RWMが作成する地質学的スクリーニングのガイダンス案の評価だけでなく、今後RWMが実施する地質学的スクリーニング作業におけるガイダンスの適用状況についても評価も行うことになっている。 []

(post by f-yamada , last modified: 2023-10-11 )