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《韓国》使用済燃料管理政策の見直しが本格化

韓国の産業通商資源部(MOTIE)は、2019年5月29日のプレスリリースにおいて、「使用済燃料管理政策再検討委員会」(以下「再検討委員会」という)を設置し、使用済燃料の管理政策の見直しに本格的に着手したことを公表した。今後、再検討委員会は、2016年に策定された「高レベル放射性廃棄物管理基本計画」(以下「基本計画」という)について、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の漸進的な脱原子力政策に沿った場合の使用済燃料の発生量予測の変化などを踏まえて、使用済燃料の管理政策の枠組みに関する検討を行い、勧告書をMOTIEに提出する予定である。再検討委員会は当面の作業として、原子力発電所の立地地域住民を対象に使用済燃料の管理政策に対する意見を収集する。

2016年にMOTIEが前政権の下で策定した基本計画では、高レベル放射性廃棄物の管理の方針として、①最終処分施設の許認可取得を目的とした地下研究所(URL)、②使用済燃料の中間貯蔵施設、③最終処分施設の3施設を1カ所のサイトにおいて段階的に建設するとし、最終処分施設サイトの選定に12年間を掛けることなどの計画を示していた。MOTIEは、基本計画に沿った法案策定を進めていたが、2017年5月の政権交代を受けて、国会審議は無期限延期となっていた。

文政権の漸進的な脱原子力政策と使用済燃料管理政策の見直し

韓国で2017年10月に閣議決定された「エネルギー転換ロードマップ」では、原子力発電について、計画中の原子炉は建設せず、既設炉も設計寿命を超えた運転を認めない方針としていた。これを受けて、産業通商資源部(MOTIE)は2018年5月に「高レベル放射性廃棄物管理政策再検討準備団」(以下「準備団」という)を発足させ、基本計画の見直しのための再検討委員会の構成案、国民意見の収集方法などについて2018年11月まで検討を行っていた。

今回設置された再検討委員会の構成についてMOTIEは、韓国社会を代表するように、人文・社会、法律・科学、コミュニケーション・紛争管理、調査・統計などの中立的な専門家15名を集めるとともに、30代から60代の男女がバランスよく構成されるよう配慮したと説明している。

MOTIEは、再検討委員会の独立性を確保するとし、再検討委員会が勧告書を取りまとめる時期について言及していない。また、MOTIEは、再検討委員会が今後提出する勧告書を最大限尊重し、使用済燃料の管理政策を推進する考えを表明している。

表 使用済燃料管理政策再検討委員会委員
氏名 所属 専門分野
チェヒョンソン 明知大学 行政学科 教授

人文・社会

イヒョクウ 培材大学 行政学科 教授
キムジョンイン 水原大学 法・行政学部 教授
ユウォンソク 弁護士

法律・科学

シンヨンジェ 弁護士
キムスヨン KAIST 科学技術政策大学院 院長
チャンボヒェ 弁護士
キムミン 忠北大学 化学科 教授
チョンチョンファ 江原大学 公共行政学科 教授

コミュニケーション・紛争管理

イユンソク ソウル市立大学 都市社会学会 教授
キムドンヨン KDI国際政策大学院 教授
ユギョンハン 全北大学 新聞放送学科 教授
チョンジュジン 平和紛争研究所 所長
パクインギュ 高麗大学 統計学科 教授

調査・統計

キムソクホ ソウル大学 社会学科 教授

【出典】

 

【2019年11月18日追記】

韓国の産業通商資源部(MOTIE)が設置した「使用済燃料管理政策再検討委員会」(以下「再検討委員会」という)は、2019年11月12日付けのプレスリリースにおいて、使用済燃料管理政策の再検討に関する意見の収集に向け、専門家検討グループを発足させたことを公表した。専門家検討グループは今後、再検討委員会が国民と原子力発電所の立地地域住民を対象に使用済燃料の管理政策に対する意見を収集する際、提示する専門的資料を作成するほか、再検討委員会が政府に提出する勧告書の作成にも参加する。専門家検討グループは、19名の技術グループと15名の政策グループの2つのサブグループで構成されており、原子力発電所の立地自治体、原子力業界及び再検討委員会からの推薦によってメンバーが選定された。

技術グループ及び政策グループは、それぞれ以下の課題について検討を行う。

  • 技術グループ:①使用済燃料の発生量と貯蔵施設の飽和時期の見通し、②使用済燃料管理の技術水準、③最終処分・中間貯蔵・一時貯蔵に関する課題
  • 政策グループ:④使用済燃料管理の原則、⑤使用済燃料政策の決定プロセス、⑥使用済燃料管理施設のサイト選定手順、⑦使用済燃料管理施設の地域支援の原則と方法

再検討委員会のプレスリリースによると、2019年11月8日に専門家検討グループの準備会合が開催され、上記の2つのサブグループの役割や今後の検討スケジュールについて確認が行われた。なお、専門家検討グループのメンバーの氏名や所属、今後の具体的な検討スケジュールは現時点で公表されていない。

【出典】

 

【2020年3月31日追記】

韓国の産業通商資源部(MOTIE)が設置した「使用済燃料管理政策再検討委員会」(以下「再検討委員会」という)は、2020年3月18日に、専門家検討グループによる検討結果に関する報告書を公表した。専門家検討グループは、技術グループと政策グループの2つのサブグループで構成されており、2019年11月の発足から約3カ月間で合計14回の会合が開催されて議論を行った。

専門家検討グループの議論における合意事項と合意に至らなかった事項

専門家検討グループは、使用済燃料の安全かつ国民の合意が得られる管理政策の策定に向け、国内原子力発電所における使用済燃料の発生状況と貯蔵容量が飽和する時期、国内外の使用済燃料の管理政策と管理状況、技術に関する状況などを検討し、以下の通り、9の合意事項と12の合意に至らなかった事項を整理した。

  • 専門家検討グループで合意に至った事項
  1. 使用済燃料の特性や貯蔵施設の飽和等を考慮し、国民の安全と環境の保護のために最終処分が必要であること
  2. 最終処分には回収可能性の概念を反映させること
  3. 現時点における最終処分方式として、相対的に最も適している地層処分方式の適用を検証する研究や技術開発を推進し、超深孔処分などの他の処分方式の研究も並行して実施する必要があること
  4. 使用済燃料の発生量と貯蔵容量の飽和時期算定の前提条件として、第8次電力需給基本計画を基に算出することは合理的であること
  5. 最終処分まで使用済燃料を安全に管理するためには、中間貯蔵施設が必要であること
  6. 2016年7月に策定された「高レベル放射性廃棄物管理基本計画」(以下「基本計画」という)において、使用済燃料管理の原則の一つとして「原子力発電の持続可能な発展」が打ち立てられているが、現政権による「漸進的な脱原子力政策」に基づき、放射性廃棄物の管理は原子力発電の推進と分離する必要があるため、「原子力発電の持続可能な発展」という事項の削除が望まれること。一方、使用済燃料管理の原則には、「意思決定プロセスの可逆性」と「処分施設運営過程での回収可能性」を追加すること
  7. 使用済燃料の管理政策は、国民の合意が重要であることから、政策決定過程で国民や住民参加を制度的に反映させる必要があり、意思決定プロセスに直接参加するためのシステムを用意すること
  8. 使用済燃料管理施設のサイト選定のために、独立した機関である「サイト選定委員会」の設置が必要であること
  9. 使用済燃料管理施設の誘致地域への支援原則として、「個人より地域社会とコミュニティを対象に支援」、「現在の世代だけでなく、将来世代も恩恵を受けられるような長期・段階的支援」、「地域対立解消のため、サイト選定過程に参加した全地域への適切な支援」を考慮する必要があること
  • 専門家検討グループで合意に至らなかった事項
  1. 使用済燃料の発生量の推定における、第8次電力需給基本計画上の原子力発電利用率の適用の妥当性
  2. 使用済燃料管理の技術開発と政策決定を連動して推進すべきか否か
  3. 最終処分方式である地層処分技術の安全性が立証済みか否か
  4. 韓国で考えられる地層処分システムの安全評価、地質調査結果に基づく、現時点での地層処分の実現可能性
  5. 基本計画(2016年7月)では、最終処分施設のサイトの選定期間を12年と設定しているが、その期間の長さの妥当性
  6. 中間貯蔵施設と最終処分施設とを同一のサイトに建設することの是非
  7. 中間貯蔵施設を一箇所に集中すべきか、または複数箇所へ分散すべきか
  8. 2016年以前に建設された軽水炉に付属している使用済燃料プールにおいて、貯蔵ラックを稠密化することの安全性
  9. 発電所敷地内に使用済燃料プールや乾式貯蔵施設等の貯蔵施設を増設する場合における全国公論化の必要性
  10. 基本計画(2016年7月)に示された使用済燃料管理原則のうち、「高レベル廃棄物管理の効率性向上」の項目における「使用済燃料の発生の最小化」との文言の追加の必要性
  11. 使用済燃料政策を決定する制度に関する改善の必要性
  12. 使用済燃料管理施設のサイト選定段階での住民の同意による受容性と科学的・技術的評価による安全性の確保に関して、どちらを優先的な考慮事項とするか

報告書に関する公開討論会

再検討委員会は、専門家検討グループによる報告書の内容に基づいて、2020年3月25日に公開討論会を開催した。公開討論会では、技術グループ、政策グループにおける検討結果を再検討委員会の委員2名から説明し、その後、パネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションでは、専門家検討グループ2名、科学技術系1名、人文社会系1名、市民社会系1名の5名で技術グループ、政策グループの検討結果がそれぞれ議論された。なお、今回の公開討論会は、新型コロナウイルス感染症対策のため、オンラインにて行われ、再検討委員会の委員や専門家の議論への意見をオンラインで収集し、これに対して委員や専門家が回答を行う形式とされた。

今後、2020年3月18日に公開された専門家検討グループによる報告書や公開討論会で提示された意見は、全国の原子力発電所立地地域での意見収集の際に、参考資料として活用される。

【出典】

 

【2020年5月27日追記】

韓国の産業通商資源部(MOTIE)が設置した「使用済燃料管理政策再検討委員会」(以下「再検討委員会」という)は、2020年5月25日のプレスリリースにおいて、使用済燃料管理の中長期政策に関する国民の意見収集のため、全国民から選出された549名で構成される市民参加団を組織し、2020年5月23日にオリエンテーション会合を開催したことを公表した。オリエンテーション会合は、韓国中部のテジョン市のメイン会場と全国14カ所のサテライト会場を結んだウェブ会議形式で行われた。

再検討委員会は、使用済燃料管理政策の見直しに向けた国民意見の調査・収集を迅速に行うため、議論を実施するための市民参加団の設置計画を2020年4月14日に明らかにしていた。市民参加団員の選出は、入札公募と提案評価を経てMOTIEより委託された調査会社であるHankook Research社が行った。同社は2020年4月17日より同年5月22日までの約1カ月の間に、全国民から無作為抽出した2万人に対して、電話で市民参加団への参加意思を確認した。その後、参加意思を表明した者を対象に、性別、年齢、地域などの統計学的特性を反映するように無作為抽出する方法で549名を市民参加団員として選出した。

使用済燃料管理の中長期政策を議論する市民参加団は、今後約4週間にわたり動画資料を活用したオンライン学習を行う。その後、総合討論会を2回開催する予定である。なお、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応のため、総合討論会は全国の複数箇所に設置される会場でのビデオ会議や、分科会ごとで異なる会場の利用などが予定されている。市民参加団が議論するテーマとしては、以下の5点がある。

  • 処分と中間貯蔵
  • 使用済燃料管理の原則
  • 使用済燃料政策の決定のためのシステム(意思決定構造と手続き)
  • 管理施設のサイト選定手続き1
  • 管理施設の地域支援の原則及び方法

再検討委員会は、市民参加団に参加していない国民の意見も収集できるようにするため、オンライン公開討論会の実施も計画している。

なお、再検討委員会の2020年4月14日付けプレスリリースでは、使用済燃料管理の中長期政策に関する市民参加団とは別に、原子力発電所内における使用済燃料の一時貯蔵に関する市民参加団について、原子力発電所の立地地域住民から参加者を募集して組織する予定であることも併せて公表している。

【出典】

 

【2020年11月6日追記】

韓国の産業通商資源部(MOTIE)が設置した「使用済燃料管理政策再検討委員会」(以下「再検討委員会」という)は、使用済燃料管理政策の見直しに向けた国民意見の調査・収集を迅速に行うため、「使用済燃料管理の中長期政策を議論する市民参加団」(以下「市民参加団」という)を設置していたが、2020年10月30日に、市民参加団から意見収集を行った結果を公表した。

市民参加団は、全国から性別、年齢、地域などの統計的特性を反映するように選定された549名で構成されている。市民参加団のメンバーは、2020年5月23日に開催されたオリエンテーション会合の後、7週間にわたって学習を行うとともに、2020年7月には3日間にわたる第1次総合討論会で議論を行った。引き続き3週間の学習を行って、2020年8月に2日間にわたる第2次総合討論会で議論を行った。再検討委員会は、市民参加団を通じた意見収集について、以下のように結果を整理している。

  • 使用済燃料の管理シナリオとして集中中間貯蔵を行うべきか、または、最終処分を行うべきかについて議論が行われた。市民参加団の63.6%が「集中型の中間貯蔵と最終処分の組み合わせ」を支持しており、学習を通じてこの割合が増加している。
  • 使用済燃料の中長期管理方針の決定のための政策決定システムに関して、必要な改善策について議論を行った結果、市民参加団の91.9%が「原子力振興委員会とは別に使用済燃料管理委員会(仮称)を新設すべき」という意見に賛成している。
  • 最終処分施設や中間貯蔵施設のサイト選定をどのように進めるべきか議論を行った結果、市民参加団の80.1%が「適性を科学的に評価した後、地域住民の過半数が同意すればサイトとして選定する」という意見に賛成している。

再検討委員会は、市民参加団のオンライン形式の学習・総合討論の期間を通じて、4回にわたって原子力に関する知識を問うアンケート調査を行ってきたが、回を追って市民参加団の正答率が向上してきたことから、学習期間の設定が総合討論会における熟議の向上に役立ったとの認識を示している。今後、再検討委員会は、市民参加団からの意見収集の結果等を検討した上で、政策勧告案を策定するとしている。

【出典】

  1. 「管理施設のサイト選定手続き」については、特定のサイトを選定することではなく、サイト選定の方法を決定することが議題とされている。 []

(post by eto.jiro , last modified: 2023-10-10 )