ドイツの連邦議会は、2014年4月10日に、2013年7月に制定された「発熱性放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律」(以下「サイト選定法」という) に基づく「高レベル放射性廃棄物処分委員会」(以下「処分委員会」という)の設置に関する決議案を可決するとともに、委員長及び委員の指名案を承認した。また、連邦参議院は、2014年4月11日に、処分委員会の州政府代表委員を選定した1 。これにより、処分委員会が発足し、2015年末までの報告書取りまとめに向けて検討作業を開始することになる。
高レベル放射性廃棄物処分委員会の構成
サイト選定法では、処分委員会が委員長1名を含む33名からなること、各界の代表者の人数などの委員会の構成 、委員の議決権の有無についても規定されている。しかし、委員長の選出過程において、連立政権を構成するキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)の両方から委員長を選出し、2名が交代で委員長を務めることになった。
選出された委員長及び委員は以下の通りである。
委員長(2名):議決権無し | |
※交代で委員長を務める |
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学術界代表(8名):議決権あり | |
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社会グループ代表(8名):議決権あり | |
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連邦議会代表(8名):議決権なし | |
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連邦参議院代表(8名):下記8州から各1名2 、議決権なし | |
バーデン・ヴュルテンベルク州*、バイエルン州*、メクレンブルク・フォアポンメルン州、ニーダーザクセン州*、ノルトライン・ヴェストファーレン州、ザクセン州、ザクセン・アンハルト州、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州* |
※連邦議会ならびに連邦参議院代表については、それぞれ委員と同数の副委員を置くこととされている。
なお、環境団体代表の委員2名は、環境団体がサイト選定法に基づく手続への参加を拒否しているため、現在は空席となっている。連邦議会は、委員会設置決議の中で、環境団体に対して今後も処分委員会への参加を求めていくことを示している。
高レベル放射性廃棄物処分委員会の役割
処分委員会は以下の事項に関して検討し、報告書の形で連邦政府に対して提案を行うこととされている。
- 地層処分の代替処分概念の検討を行うかどうか
- 処分の安全要件、サイトの除外基準・最低要件、母岩固有の除外基準及び選定基準、予備的安全評価の実施方法など
- 処分の欠陥が認識された際に行う、欠陥是正措置(回収可能性、可逆性などの問題を含む)に関する基準
- サイト選定に係る組織と手続きに関する要件、ならびにこれら組織や手続きに関する代替案の検討
- 公衆参加及び公衆への情報提供、透明性確保のための要件
処分委員会は、これらに加えて、サイト選定法の法律自体に対する評価も行い、必要に応じてサイト選定法の改正に関する提案を行うことになっている。
なお、処分委員会の報告書の提出期限は、サイト選定法での定めに従い、議決権を有する委員の2/3以上が賛成する場合には、1度に限り、最大半年の延長が可能である。しかし、委員会設置の準備作業が難航したことから 、処分委員会設置決議では、報告書提出がサイト選定法の規定(一度延長した場合で2016年半ば)より遅れる可能性があると指摘されており、遅延する場合には、連邦議会が提出期限を延長することが付帯決議された。
【出典】
- 連邦議会ウェブサイト、2014年4月10日、
http://www.bundestag.de/dokumente/textarchiv/2014/50513856_kw15_angenommen_abgelehnt/index.html - サイト選定法に基づく高レベル放射性廃棄物処分委員会設置決議案(Drucksache 18/1068)、2014年4月7日
http://dip21.bundestag.de/dip21/btd/18/010/1801068.pdf - サイト選定法に基づく高レベル放射性廃棄物処分委員会委員指名案(Drucksache 18/1070)、2014年4月9日
http://dip21.bundestag.de/dip21/btd/18/010/1801070.pdf - 連邦参議院ウェブサイト、2014年4月11日、
http://www.bundesrat.de/SharedDocs/beratungsvorgaenge/2014/0101-0200/0143-14.html - 発熱性放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律(サイト選定法)
【2014年5月22日追記】
ドイツの連邦議会は、2014年5月21日に、サイト選定法に基づく「高レベル放射性廃棄物処分委員会」の委員のうち、2014年4月10日の委員長及び委員の指名案承認の際に空席となっていた環境団体代表の委員2名について、委員の指名案を承認した。
指名された委員は以下の2名である。
- クラウス・ブルンスマイヤー:ドイツ環境自然保護連盟(BUND)副代表
- イェルク・ゾンマー:ドイツ環境基金(Deutsche Umweltstiftung)代表
連邦議会は、サイト選定法に定める委員長以下33名の委員3 が全て決定したことを受け、「高レベル放射性廃棄物処分委員会」が2014年5月22日に正式に発足するとしている。
【出典】
- 連邦議会ウェブサイト、2014年5月21日、
http://www.bundestag.de/dokumente/textarchiv/2014/50856284_kw19_angenommen_abgelehnt/280532 - サイト選定法に基づく高レベル放射性廃棄物処分委員会委員指名案(Drucksache 18/1452)、2014年5月20日、
http://dip21.bundestag.de/dip21/btd/18/014/1801452.pdf
【2014年5月26日追記】
ドイツでは2014年5月22日に、サイト選定法に基づく「高レベル放射性廃棄物処分委員会」(以下「処分委員会」という)が正式に発足し、同日、第1回会合が開催された。連邦議会議長4 による冒頭挨拶ののち、委員間で意見交換が行われた。
連邦議会議長は挨拶の中で、処分委員会が技術的・法的・政治的に実行可能な発熱性放射性廃棄物処分場のサイト選定手続きの整備について、現政権の任期内5 に完了させることに期待するとともに、処分委員会の結論が幅広いコンセンサスを得るものであることを望むと述べた。処分委員会委員の意見交換においては、主に以下のような意見が示された。
- 最終処分場のサイト選定手続きにおいて、サイト選定法制定以前の処分場候補サイトであったゴアレーベンを予め対象から除外すべきではない
- 処分した放射性廃棄物の回収が計画されているアッセII研究鉱山 のようなことを繰り返さないためにも、処分委員会は国外の経験から学ぶべきである
- 最終処分場に関する議論は、内部的にも対外的にも信頼に足るものでなければない。そのためには委員が相互に信頼し合い、率直に関わり、相手の言葉に耳を傾けることが必要である
第2回会合は、連邦議会の夏季休会前6 に開催され、規約の制定、活動計画の策定、ワーキンググループの設置等が行われる予定である。
【出典】
- 連邦議会ウェブサイト、2014年5月22日、
http://www.bundestag.de/dokumente/textarchiv/2014/kommission_endlagerung/279544 - サイト選定法に基づく高レベル放射性廃棄物処分委員会委員指名案(Drucksache 18/1452)、2014年5月20日
http://dip21.bundestag.de/dip21/btd/18/014/1801452.pdf
- ドイツの国会は二院制であり、連邦議会と連邦参議院がある。連邦参議院は直接選挙で選出されるのではなく、それぞれ自治権を有する州の代表で構成される。このため、サイト選定法では、連邦参議院が州の代表の委員を決定することが規定されている。 [↩]
- ドイツは全16州で構成される。委員が選出された8州には、現在運転中の原子力発電所を有す州(表中*印)などが含まれている。また、委員が選出されなかった8州の代表は副委員として位置づけられている。 [↩]
- 委員の選出過程で委員長が2名体制となったため、委員として参加する総数は34名である。しかし、委員長に指名された両名は会合ごとに交代で委員長を務めるため、委員数としては「1名」と数えられている。 [↩]
- 同委員会の事務局は、連邦議会に置かれている。 [↩]
- 次回の連邦議会選挙は2017年9月に実施される予定である。 [↩]
- 2014年の連邦議会における夏季休会前の最終日程は、2014年7月4日とされている。 [↩]
(post by tokushima.hideyuki , last modified: 2023-10-11 )