米国の放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)は、2022年1月6日に、2020年12月に開催されたNWTRB秋期会合(以下「2020年秋期会合」という。)における議論等を踏まえて、エネルギー省(DOE)に対する勧告・所見を示した書簡を公表した。2020年秋季会合は、DOE原子力局(NE)の「サイト固有ではない処分研究プログラム(non-site-specific disposal research program)」についての情報を審査するため、2020年12月2日~3日に開催されたものである。NWTRBは、1987年放射性廃棄物政策修正法に基づいて、エネルギー長官が行った高レベル放射性廃棄物処分に係る活動の技術的及び科学的有効性を評価するため、行政府に設置された独立の評価機関である。
DOEのサイト固有ではない処分研究開発プログラムは、以下を目標として行われており、結晶質岩、岩塩及び粘土質岩における処分概念及び処分オプションが検討されている。
- 米国における複数の実現可能な処分オプションに確かな技術的基盤を提供する
- 一般的な処分概念のロバスト性について信頼性を高める
- 処分概念の実現を支援するために必要な科学的・技術的ツールを開発する
2020年秋季会合は、岩塩での処分に関する2014年の会合でのレビュー及び勧告、地下研究所に関する2019年の会合 、多目的キャニスタに関する2020年夏季会合などの情報を踏まえて開催された。また、2020年秋季会合では、DOE原子力局(NE)、サンディア国立研究所等の研究者からの報告のほか、欧州諸国が放射性廃棄物管理計画を支援するために取り組んでいる「放射性廃棄物の地層処分の実施に関する技術プラットフォーム」(IGD-TP)と英国の放射性廃棄物管理会社(RWM社)から処分研究戦略についての報告も行われた。
今回公表されたNWTRBの書簡では、NWTRBによる2020年秋期会合での気付き事項(findings)及びDOEへの勧告が以下のように示されている。
2020年秋期会合での気付き事項
- 放射性廃棄物管理・処分プログラムの早期ステージにある国では、受容可能な早期ステージでの研究開発プログラムの確実な実施において課題が認識されている。処分場を成功裏に実現するためには、実施主体・規制者・社会の三者の役割を明確に規定した法的枠組みが必要である。サイト選定及び処分場プログラムの実施の手続きは、これら三者から容認されなければならない。成功には長期的で政治的な責任が必要である。
- 一般的に、処分場実現の主要な課題は、技術的な問題が一番ということではなく、技術的研究の実施に際しては技術的目的のみでなく社会的な観点も考慮に入れる必要があるなど、社会的な懸念や課題に完全に対応しなければならないことが他国では確信されている。
- 他国では、結晶質岩、岩塩、粘土質岩における母岩固有の処分場設計による処分場開発を検討している。DOEは、これら諸国と協力し、研究開発プログラムを進展させるため、これらのプログラムの情報・経験を考慮に入れている。
- DOEは、処分オプションがなぜ安全と考えられるものかを明確に伝える必要性など、他国やIGD-TPグループのような組織で得られた教訓を活かすことにより、成功の機会を増やす可能性がある。
- 総合的に見て、DOEは、技術的基盤及び複数の処分オプションの評価の支援ツールの開発において、良好な進展を見せている。定期的なプログラムの策定、研究開発活動の優先順位付け、自身のプログラム要素と他国との統合が行われている。DOEは、HotBENT(スイスのグリムゼルテストサイト(GTS)でのベントナイト熱変質試験)での経験を通して、知識マネジメントプログラムの開発を主導してきており、結晶質岩及び粘土質岩における高温の人工バリアシステム(EBS)での熱-水-応力-化学連成挙動の理解を深めてきた。DOEは、性能評価での計算において、計算時間を低減して、性能や不確実性についてよりロバストで詳細な解析を可能にした先進的な数学的手法を採用している。
- DOEは、以下の取組によってプログラムを前進させることが可能である;
- ステークホルダーとの関与を促進し、ステークホルダーに対して一貫して明確に様々な処分オプションの説明を行い、それぞれの処分オプションの人工バリアと地質環境の安全機能をより適切に定義
- 優先度の設定方法、及びGDSA(地層処分安全評価)枠組みのさらなる構築による改善
- DOE使用済燃料(金属ウラン)1 の瞬時溶解で生じるプロセスへの対応
- 岩塩層で想定される粘土の層の影響への対応
- 長期にわたる高温下でのベントナイト及び粘土質岩の挙動の理解に資するナチュラルアナログ情報の活用
NWTRBによるDOEへの勧告
- 勧告1
NWTRBは、DOEが研究開発の優先度設定時のファクターの一つとして、十分に開発された技術成熟度評価手法(technology maturity scoring method)を採用することを勧告する。 - 勧告2
NWTRBは、DOEが可能性がある処分概念(例えば、粘土質岩における処分)ごとに、処分場の新たな技術的なサイト選定指針の必要性及び範囲を評価することを勧告する。 - 勧告3
NWTRBは、DOEが処分オプション対するモデルを構築する際には、モデルのパラメータを設定するために必要な実験データがどのように取得されるかについて、より焦点を当てることを勧告する。 - 勧告4
DOE/NEは処分場で廃棄物パッケージが破損した場合に、直ちにすべてのDOE使用済燃料(金属ウラン)が瞬時溶解するとしてモデル化しているため、NWTRBは、金属ウランの溶解による水素ガス発生など、DOE使用済燃料の瞬時溶解により処分場内で生じるすべてのプロセスをGDSA(地層処分安全評価)枠組みに含めるか、もしくは、そうしたプロセスが人工バリア及び全体的なシステム性能にマイナスの影響を及ぼさないことを実証する技術的基盤を提供することを勧告する。 - 勧告5
DOEは、岩塩ドーム及び脆性の粘土質岩について、レファレンスケースを開発したり、処分オプションを支援するための研究開発を同定したりする必要があるかを評価しなくてはならず、仮に不要と判断した場合は、その判断の根拠を提供すること。 - 勧告6
NWTRBは、DOEの試験・モデルは、岩塩構造における粘土の層の影響、及びその岩塩処分場の性能への影響に対応できるようにすることを勧告する。 - 勧告7
NWTRBは、DOEが、戦略的計画の立案においてナチュラルアナログを考慮するとともに、実験室や地下研究所で試験可能な期間よりも長く高温下に置かれたベントナイト及び粘土質岩について、その経年劣化の影響評価に活用し得るナチュラルアナログが存在するのか判断することを勧告する。 - 勧告8
NWTRBは、DOEが「放射性廃棄物の地層処分の実施に関する技術プラットフォーム」(IGD-TP)のメンバーとなり、主に社会的情報の共有、コミュニケーション及び国民の信頼・信認の獲得方法などについて、処分場プログラムが概念評価より先の段階にある諸外国から教訓を得ることに重点を置くことを勧告する。 - 勧告9
NWTRBは、DOEが処分オプション、及びその処分オプションにおけるバリア、バリアの機能及びそれを支える技術的基盤、処分研究開発プログラムの統合的において、明確で効果的なコミュニケーションを行うことを勧告する。DOEは、ステークホルダーからの意見を踏まえ、処分オプションを支持する主張や議論、証拠を口頭や図形で一貫性を持って伝えるコミュニケーションアプローチを用いなければならない。これには、処分の前に必要となる再パッケージや貯蔵等の管理活動も含めなくてはならない。
【出典】
- 放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)からエネルギー省(DOE)原子力局(NE)宛の2021年12月30日付けの書簡(2020年秋期会合に係る気付き事項と勧告)
https://www.nwtrb.gov/docs/default-source/correspondence/jmb028.pdf?sfvrsn=4 - 放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)、2020年秋季会合(2021年12月2~3日)のページ(議題、議事録、報告資料など)
https://www.nwtrb.gov/meetings/past-meetings/fall-2020-board-virtual-meeting—-december-2-3-2020
- 金属ウランの使用済燃料は、溶存酸素が欠乏している地下水中で急速に反応して水素が発生し、バリアに影響を与えることが想定される。溶存酸素が欠乏している地下水は、処分場の深さの結晶質岩に存在するため、DOEは、廃棄物パッケージが破損して水が浸入すると、廃棄物が瞬時溶解(instantaneous dissolution)することを想定してモデル化している。 [↩]
(post by inagaki.yusuke , last modified: 2023-10-11 )