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《米国》2022会計年度の予算要求-エネルギー省(DOE)の予算要求に係る詳細資料が公表

米国のエネルギー省(DOE)は、2021年6月10日までに、DOEのウェブサイトにおいて、2022会計年度1 の「原子力ほか」(第3巻パート2)及び「環境管理」(第5巻)の予算要求に係る詳細資料(以下「DOE予算要求資料」という。)を公表した。2022会計年度の予算要求については、2021年5月28日に、大統領の予算教書が公表されたが、使用済燃料管理等に係るDOEの予算要求資料については、概要資料のみが公表されていた。DOE予算要求資料では、使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物(以下「高レベル放射性廃棄物」という。)の管理については、予算教書の添付資料で示されていた「統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)プログラム」の38,000千ドル(40億円、1ドル=105円で換算)のほか、「使用済燃料処分等研究開発プログラム」として62,500千ドル(65億6,250万円)が要求されている。

米国における放射性廃棄物管理に関連する予算の構造は、以下のようになっている。なお、表中には、放射性廃棄物処分等に関係が深い独立機関の予算も参考として併せて示している。

 

予算項目

プログラム

サブプログラム
(サブプログラムがない場合は括弧内に概要説明)

2022会計年度要求額(単位:千ドル)

財源

DOE

原子力(Nuclear Energy)

燃料サイクルR&D
(Fuel Cycle Research and Development)

使用済燃料処分等研究開発(Used Nuclear Fuel Disposition R&D)

62,500

一般

統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)
(Integrated Waste Management System)

38,000

放射性廃棄物処分
(Nuclear Waste Disposal)

放射性廃棄物基金(NWF)監督(Nuclear Waste Fund Oversight)

(NWFの監督、ユッカマウンテンサイトの維持・管理)

7,500

NWF

エネルギー先端研究計画局(ARPA-E)
(Advanced Research Projects Agency – Energy)

ARPA-Eプロジェクト

(廃棄物減少技術を含め、新たに15のFOA)

(FOA全体で500,000)

一般

国防環境クリーンアップ
(Defense Environmental Cleanup)

廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)

WIPP操業ほか
(換気システム等の設備更新を含む)

437,230

独立機関

原子力規制委員会(NRC)

高レベル放射性廃棄物処分

(高レベル放射性廃棄物処分場の許認可審査)

0

NWF

放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)

活動費

(DOE研究開発活動の評価等)

3,800

NWF

FOA:資金提供公募(Funding Opportunity Announcement)

■DOEの放射性廃棄物処分関連予算の全体概要

DOEの高レベル放射性廃棄物処分関連の予算については、DOE予算要求資料「原子力ほか」(第3巻パート2)の原子力(Nuclear Energy)の予算項目でのDOE原子力局(NE)の予算として、燃料サイクル研究開発(R&D)プログラムの下で、「使用済燃料処分等研究開発プログラム」及び「統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)プログラム」の予算が要求されている。また、放射性廃棄物処分(Nuclear Waste Disposal)の予算項目の中で、放射性廃棄物基金(NWF)の監督やユッカマウンテンサイトの維持・管理を行う放射性廃棄物基金監督プログラムの予算がNWFを財源として計上されている。その他、2022会計年度には、新たにエネルギー先端研究計画局(ARPA-E)における資金提供公募(FOA)のテーマの1つとして、「高レベル放射性廃棄物を飛躍的に減少させる技術」が示されている。さらに、TRU廃棄物処分関連の予算については、DOE予算要求資料「環境管理」(第5巻)の国防環境クリーンアップの予算項目として、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)の予算が計上されている。

■原子力/燃料サイクル研究開発(R&D)プログラムの予算

DOE予算要求資料「原子力ほか」(第3巻パート2)でのDOEの燃料サイクル研究開発(R&D)プログラムのうち、使用済燃料処分等研究開発プログラムでは、処分方策に中立な放射性廃棄物管理プログラムの開発や高レベル放射性廃棄物のインベントリを勘案したオプションを開発することに主な焦点を当てるものとして、前年度の歳出予算額と同額の62,500千ドル(65億6,250万円)の予算が示されている。今回のDOE予算要求資料で、処分の研究開発では、引き続き3つの母岩(粘土質岩、岩塩及び結晶質岩)における処分システムの長期的性能の理解を深めることを目的としている。具体的に、使用済燃料処分等研究開発プログラムにおいて2022会計年度に実施する活動のうち、直接的に処分に関連する事項としては以下が示されている。

  • 新しい事故耐性燃料(accident tolerant fuels)の貯蔵・輸送・処分性能特性の試験、評価
  • 様々な地層で実施されている研究開発を活用するための国際的パートナーとの協力を含め、様々な廃棄物及び使用済燃料の廃棄体の処分オプション探求に関連した、高優先度の研究開発活動の継続
  • キャニスタの再パッケージの必要性を解消することができるよう、輸送・貯蔵兼用キャニスタの直接処分での技術的フィージビリティを評価
  • 廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)における原位置試験プロジェクトを含め、岩塩における発熱性廃棄物の処分に係る科学的・工学的技術基盤の継続

また、使用済燃料処分等研究開発プログラムにおいては、原子力規制委員会(NRC)や産業界と協力して、高燃焼度燃料の貯蔵に係るフルスケールでのキャスク実証試験、及び高燃焼度燃料の輸送・貯蔵に係る研究開発活動等を継続することも示されている。

「統合放射性廃棄物管理システム(IWMS)プログラム」については、前政権の2021会計年度の予算でDOEは廃止を提案したが、2020年12月27日に成立した2021会計年度包括歳出法(H.R.133、Public Law No.116-260として成立)ではIWMSプログラムの予算が計上されていた。なお、2021会計年度については、前政権が新設を要求した「中間貯蔵及び放射性廃棄物基金監督」プログラムにおいて、中間貯蔵及び輸送計画に関する活動に係る予算が計上されていたが、2022会計年度の予算要求では、中間貯蔵等の活動予算はIWMSプログラムに移管されている。今回のDOE予算要求資料では、IWMSプログラムの予算として38,000千ドル(39億9,000万円)が要求されており、うち少なくとも20,000千ドル(21億円)は、商業用使用済燃料の短期的な貯蔵への要求に対応するため、同意に基づく中間貯蔵プログラムの開発・実施をサポートする予算とされている。2021会計年度包括歳出法では、IWMSプログラムの予算は18,000千ドル(18億9,000万円)であったが、「中間貯蔵及び放射性廃棄物基金監督」プログラムの中で20,000千ドル(21億円)が中間貯蔵プログラムの予算として割り当てられていた。

今回のDOE予算要求資料では、IWMSプログラムは、包括的な使用済燃料管理システムの一部として、同意に基づく中間貯蔵プログラムの開発・実施の取組みをサポートするとともに、貯蔵や輸送等に係る活動を行うものであり、高レベル放射性廃棄物が現在貯蔵されている地域や政府、関係者との協働も含まれるとの考え方が示されている。また、潜在的な立地自治体(potential host communities)との協働による同意に基づくサイト選定アプローチに係る具体的な活動としては、以下が示されている。

  • 連邦中間貯蔵施設の同意に基づくサイト選定プロセス実施のために考慮すべき要因に焦点を当てて情報要求(Request for Information)を発出
  • 連邦・州・地方の議員、組織、担当官、コミュニティ及び先住民族を含むステークホルダーからのフィードバックを要請
  • 前回の同意に基づくサイト選定イニシアチブに参画していたステークホルダーと接触し、立場の変化の確認とともに追加的な考慮事項を議論する機会を提供
  • 社会的公正と環境正義(environmental justice、環境に係る利益と負担の不公平な配分の是正)を織り込んだ廃棄物管理システムの構築
  • 連邦と民間の中間貯蔵施設アプローチの費用便益評価
  • 予備的設計概念の開発
  • 様々な設計・立地における規制に関する環境の考慮事項の分析
  • オプション解析と輸送計画への情報として、対象の放射性廃棄物インベントリの量及び詳細情報の収集に係る重要データの更新と分析
  • 大規模輸送のためのシステム能力とインフラのニーズを確立するための取組みを継続

IWMSプログラムにおける2022会計年度の実施事項としては、これらの同意に基づくサイト選定アプローチに係る活動に加えて、先進技術を踏まえた貯蔵アプローチ・解決策の開発継続、施設許認可や操業計画を支援するコンピュータ解析ツールの開発継続のほか、輸送に係るものとして、輸送インフラの評価や鉄道輸送車両の試験・実証の継続、鉄道輸送のセキュリティ・安全監視システム開発の着手などが挙げられている。

■放射性廃棄物処分/放射性廃棄物基金(NWF)監督プログラムの予算

DOE予算要求資料「原子力ほか」(第3巻パート2)では、放射性廃棄物基金からの支出で賄うものとされる「放射性廃棄物基金(NWF)監督」プログラムについては、2022会計年度の実施活動として、以下が示されている。

  • 放射性廃棄物基金(NWF)の投資ポートフォリオに係る適切な投資戦略の実施と慎重な管理
  • 標準契約2 の管理
  • ユッカマウンテンサイトについて、DOE令(DOE Order 473.3A)に基づく物理的セキュリティ要件、メンテナンスや環境要件の維持
  • 連携連邦スタッフ等のサポート

■国防環境クリーンアップ/廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)の予算

米国で超ウラン元素を含む放射性廃棄物(TRU廃棄物)の地層処分場として操業中の廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)については、DOE予算要求資料「環境管理」(第5巻)において、2022会計年度の実施項目として、メンテナンスや鉱山活動を含む処分活動の継続のほか、換気システムや新たな立坑の建設、代替処分パネル建設に向けた規制対応、環境保護庁(EPA)の適合性再認定やニューメキシコ州環境省(NMED)への対応なども挙げられている。WIPPに係る予算要求額が、2021会計年度歳出予算から17,164千ドル(約18億円)増額の430,424千ドル(約451億円)となっている理由としては、各廃棄物発生サイトからの輸送費用の増加のほか、インフラ再整備プロジェクトの継続や鉱山の近代化が挙げられている。DOE予算要求資料では、WIPPにおけるインフラや機器の一部は設計寿命を超えて使用されるなど劣化等が進んでおり、大掛かりな補修・交換による鉱山内施設の近代化が必要なことが示されている。

【出典】

 

【2021年7月2日追記】

米国の原子力規制委員会(NRC)は、2021年7月1日に、2022会計年度の予算要求に係る詳細資料(以下「NRC予算要求資料」という。)を公表した。2022会計年度の予算要求については、2021年5月28日に大統領の予算教書が公表され、さらに、2021年6月10日までにエネルギー省(DOE)の予算要求詳細資料が公表されていたが、NRCの予算要求については予算教書の添付資料で概要が示されるのみとなっていた。今回公表されたNRC予算要求資料では、使用済燃料のためのユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可申請書の審査活動及び高レベル放射性廃棄物のためのその他の予算は要求されていないことが、予算の概要及び「核物質・廃棄物安全」の予算項目で明示された。

NRC予算要求資料の「核物質・廃棄物安全」の予算項目においては、放射性廃棄物処分及び貯蔵に関連する活動のための予算が示されている。このうち、使用済燃料の貯蔵に関する活動項目では、民間で計画している2カ所の集中中間貯蔵施設に対する安全性・セキュリティ・環境の審査について、裁判形式の裁決手続を含むものとして、約40万ドル(約4,200万円、1ドル=105円で換算)、常勤換算人員数では1.0の予算が要求されている。集中中間貯蔵施設に係る予算については、許認可申請書の審査が完了することにより、2021会計年度よりも減少することが示されている。なお、2021会計年度のNRC予算要求資料では、集中中間貯蔵施設の許認可審査に係る予算要求額は約4百万ドル(約4,000万円)、常勤換算人員数では12となっていた。

2014~2022会計年度のNRC予算
(NRC予算要求資料から引用)

また、NRC予算要求資料によれば、2022会計年度のNRC全体の予算要求額は約887.7百万ドル(約932億円)、常勤換算人員数では2,879となっている。これは、2014会計年度と比較すると、予算額で約16%、常勤換算人員数では約24%の減少となる。

【出典】

  1. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2022会計年度の予算は2021年10月1日からの1年間に対するものである。 []
  2. DOEは、1982年放射性廃棄物政策法により、使用済燃料処分のための「標準契約」を原子力発電事業者と締結することが必要とされている。標準契約では、原子力発電事業者による拠出金の支払義務、DOEによる使用済燃料引取り義務等が定められている。 []

(post by inagaki.yusuke , last modified: 2023-10-17 )