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《フランス》放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が地層処分プロジェクトの社会経済評価報告書を公表

フランスの放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は2021年3月24日に、地層処分場(CIGÉO)の設置に関する社会経済評価(Évaluation socioéconomique)の報告書及びANDRAの同報告書に対する政府の投資総局(SGPI)1 による評価・見解を示した報告書を公表した。ANDRAは、公益宣言(DUP)2 の申請の一環として、3年間以上にわたり社会経済評価を実施しており、その結果を2020年8月に報告書として取りまとめていたが、これまで公表を保留していた。フランスでは、公的機関による投資額が1億ユーロ(124億円、1ユーロ=124円として換算)を超えるプロジェクトに関する社会経済評価の際には、政府の投資総局(SGPI)による評価・見解の取得が義務付けられている3 。そのため、ANDRAは、SGPIによる報告書が2021年2月に完成するのを待って、今回、ANDRAによる社会経済評価の報告書をSGPIによる報告書と併せて公表した。

ANDRAは、今後の地層処分場の開発の進め方を変えた4つのオプションを比較検討することにより、現行の計画に基づいて地層処分場の開発を進めることが、将来世代に最も配慮した有益なオプションであると結論づけている。

■ANDRAによる社会経済評価の概要

ANDRAは社会経済評価について、費用と便益とを分析することにより、事業への投資が十分な価値を生み出すかどうかを判断するために使用されるものと説明している。地層処分事業のような商業目的ではない公益事業は、経済的収益を生み出すことはまれであるものの、社会経済評価においては、経済的収益に加えて、健康、社会、環境などに関わる価値が検討される。様々な種類の価値を比較するために、金銭の時間的価値、CO2排出量の価値などを通貨単位に置き換えるとともに、仮想的な事故の発生を想定して、その影響に対する保険料の支払い行動や長期的な経済影響等を推定している。

社会経済評価の目的のためにANDRAは、今後約600年4にわたる将来のフランス社会が①安定であり、経済成長が継続するシナリオ、②持続的かつ深刻な制度的、社会的危機(国土での戦争等)が発生することで、経済成長が停滞し、安全水準が低下することで事故リスクが増大する不安定化シナリオの2つのシナリオを想定した上で、地層処分事業の進め方に関する4つのオプションでの費用と便益を比較している。ANDRAは、社会が不安定化するシナリオで仮定する混沌とした状況を予測することはできないものの、合理的に排除することもできないと述べている。

  • オプション1:ANDRAが現在計画している地層処分場の2段階の進め方:2030年頃から開始するパイロット操業フェーズでは、模擬廃棄体及び実廃棄体を用いて処分場の安全性に関わる試験を実施し、その評価を行う。その後、処分場全体の操業許可を取得した後に、2040年頃より2100年頃にかけて長寿命中レベル放射性廃棄物の処分を行い、2080年頃から2145年頃に高レベル放射性廃棄物の処分を行う。
  • オプション2:長寿命中レベル放射性廃棄物のみに限って処分する条件の下、パイロット操業フェーズを開始し、2040年より長寿命中レベル放射性廃棄物の地層処分を行う。高レベル放射性廃棄物については、管理方法の研究を継続し、2070年に地層処分または超深孔処分のいずれかの実施が決定される。
  • オプション3:パイロット操業フェーズを開始するが、放射性廃棄物の地層処分の可否判断に至らず、2070年まで地層処分以外のソリューションも含めた研究開発投資を継続する。2070年に地層処分または超深孔処分の実施が決定される。長寿命中レベル放射性廃棄物と高レベル放射性廃棄物の処分方法には様々な組み合わせがありうる。
  • オプション4:地層処分場の初期投資を先送りし、2070年頃まで放射性廃棄物を長期貯蔵しつつ、研究開発を継続する。2070年時点での将来に向けた決定では、地層処分の実施や長期貯蔵の継続等、様々な選択がありうる。

ANDRAは、今回の地層処分場(CIGÉO)の設置に関する社会経済評価に関し、以下のような結果を示している。

  • 現行の計画に基づいて地層処分場の開発を進めるのが、将来世代に最も配慮した有益なオプションである
  • 長期貯蔵(オプション4)は、社会が不安定化するリスクを完全に排除しない限りは地層処分場の開発(オプション1)に対する優位性はなく、将来世代に配慮したオプションであるとは言えない
  • 今後150年間で社会が不安定化するシナリオの発生確率を10%程度とみた場合、地層処分は、放射性廃棄物を安全に、また、将来世代が負担するコストを抑制しつつ管理することを保証するものであると言える

■政府の投資総局(SGPI)の評価・見解

ANDRAによる社会経済評価報告書を受けて、SGPIは2020年9月に、再査定を行う専門家チームを任命した。専門家チームは2020年12月から2021年1月にかけて、ANDRAやフランス電力株式会社(EDF)等の廃棄物発生者・責任者、政府関係機関等からのヒアリングや地層処分場の建設候補地の訪問調査に加え、2名の哲学者からの意見聴取を実施し、2021年2月5日に独自の評価を取りまとめた報告書をSGPIに提出した。

SGPIは、ANDRAが取りまとめた社会経済評価報告書に関して、「地層処分プロジェクトは、不安定な社会において放射性廃棄物が十分な監視がなされないままの状態で貯蔵される場合の環境リスクや公衆衛生リスクに対して、有益な価値を提供するものである」とした肯定的な見解を示している。なお、今回のSGPIの見解は、2021年第2四半期に予定された公益宣言(DUP)に関する公開ヒアリングに供されることになっている。

 

【出典】

  1. 投資総局(SGPI)は、首相の権限の下で、未来への投資計画の実施に責任を負うとともに、主要な公共投資プロジェクトの社会経済評価や、ヨーロッパの投資計画の調整を行う機関である。 []
  2. 公益宣言(DUP)は、公用収用法典に基づいて、公共目的で行う開発のために私有地を収用する際の行政手続きである。当該開発プロジェクトを実施する事業者からの申請を受けて、公開ヒアリングを実施したうえで、政府が公益宣言を発出する。 []
  3. フランスでは「公的投資の評価手続きに関する2013年12月23日のデクレ」に基づき、公的機関による投資額が2,000万ユーロ(約25億円、1ユーロ124円として換算)を超えるプロジェクトに関する社会経済評価の実施が義務付けられている。ANDRAは「商工業的性格を有する公社」(EPIC)として、公的機関に該当する。さらに、投資額が1億ユーロを超えるプロジェクトの場合、政府の投資総局(SGPI)による評価の取得が必要となる。 []
  4. ANDRAは、600年間という評価期間は他のオプションと比較した場合の地層処分の長所を示すのに十分な長さではないこと、また「これを超えると評価結果の変動がわずかになる」という閾値となる期間は600年間よりも短いことを説明している。さらに、規制機関による地層処分に関する安全指針において記録保存期間が500年間とされていることを参考として示している。 []

(post by eto.jiro , last modified: 2023-10-17 )