新しい原子力法では、高レベル放射性廃棄物処分場を含む原子力施設の概要承認2 (詳細は こちら)・建設・操業・閉鎖許可に関しては、連邦政府によってのみ発給されることとなっている。その他、使用済燃料の再処理については、現在結ばれている再処理契約が終了する2006年以降、10年間の凍結が規定されているほか、概要承認の際に任意の国民投票3 が適用されることについても規定されている。2001年2月に議会提出された法律案では、高レベル放射性廃棄物処分場の概要承認の発給に関する手続において、地元州による同意の必要性や水利権許可の留保が規定されていた。しかし、その後の約2年間にわたる審議の結果、この規定は削除され、州の同意や水利権等の許可は不要となっている。
また、新しい原子力法は原子力利用に関する連邦憲法の改正を求めて提出された以下の2つの国民発案に対する連邦政府の間接的な対案として位置づけられている。この2つの国民発案に対する国民投票は2003年5月18日(日)に行われる予定となっている。なお、連邦議会は、連邦決議においてこれらの国民発案を拒否するよう国民に勧告している。
- モラトリアム・プラス:
- 現行の新規原子力発電所の建設凍結(モラトリアム)をさらに10年間延長する。
- 原子力に依存しない電力:
- 使用済燃料の再処理禁止と原子力発電所の段階的閉鎖を実施する。新しい原子力法では、上述の2つの国民発案が取り下げられるか、または否決された場合に公布されると規定されている。また、法律の発効については、別途連邦評議会が定めることとなっている。なお、スイスでは新しい連邦法の発効にあたって、任意の国民投票という制度が適用されるため、新しい原子力法についても公布後に国民投票にかけられる可能性がある。
【解説】
スイスでは、ニドヴァルデン州のヴェレンベルグでの低中レベル放射性廃棄物処分場の立地に向けた調査申請の例に見られるように、現行の法制度においては、放射性廃棄物の処分に関するプロジェクトの実施が州の持つ権限により否決される可能性(詳しくは こちらを参照)がある。このため、許可発給手続を連邦レベルに一任するように、新しい原子力法による法的な整備が検討されてきた。
【出典】
- 連邦議会ウェブサイト
http://www.parlament.ch/ab/frameset/d/index.htm 2002/oktober/unterseite1/index.html - The Swiss Confederation a brief guide 2002
- 新原子力法案(Kernenergiegesetz Entwurf)2001.2
- 新しい原子力法(Kernenergiegesetz) 2003.3
- 連邦エネルギー庁(BFE)ウェブサイト
http://www.energie-schweiz.ch/bfe/en/energiepolitik/epolgeschaefte/unterseite6/index.html http://www.admin.ch/ch/d/ff/2001/2825.pdf
- 「国民発案」および「国民投票」は、スイスの連邦憲法で認められているもので、国民は憲法の全面改正または一部改正を直接請求出来る権利を有している。連邦レベルでは、憲法の全面改正または一部改正を求める国民発案が提出された後、18カ月以内に10万人の署名が集まれば国民投票にかけられることができる。成立のためには、国民および州の両方で過半数の賛成が必要となる。なお、この場合の国民投票は下記の注3で説明する「任意の国民投票」との比較において、「義務的な国民投票」と呼ばれる。 [↩]
- 「概要承認」とは、立地場所および処分プロジェクトの基本的事項に対する連邦評議会の許可のことを指す。【原子力法に関する連邦決議】 [↩]
- 「任意の国民投票」とは、連邦法や連邦政府の決定に対して、公布後100日以内に5万人の署名が集まれば国民投票にかけることができるというスイス特有の制度である。 [↩]
(post by 原環センター , last modified: 2023-10-10 )