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《米国》連邦控訴裁判所がDOEに対して放射性廃棄物基金への拠出金を徴収しないよう命令

米国の連邦控訴裁判所1 は、2013年11月19日に、全米公益事業規制委員協会(NARUC)などが放射性廃棄物基金への拠出金の徴収の停止を求めていた訴訟 に関して、エネルギー省(DOE)に対して、拠出金額をゼロに変更し、実質的に徴収しないよう命じる判決を下した。放射性廃棄物基金への拠出金については、連邦控訴裁判所の指示により、DOEが2013年1月に拠出金額の妥当性評価報告書を公表していたが、妥当性評価報告書には欠陥があり、拠出金の徴収は停止されるべきとするNARUCらの主張が認められたものである。

今回の連邦控訴裁判所の判決では、DOEは法的に適切な拠出金額の妥当性の評価を行うことは明らかに不可能とした上で、DOEが1982年放射性廃棄物政策法を遵守する選択をするか、または、連邦議会が代替の廃棄物管理計画を法制化するまでは拠出金額をゼロに変更するとの提案を連邦議会に提出することが命じられた。

判決理由では、DOEが拠出金額の妥当性の評価の前提とした「使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の管理・処分戦略」(DOE戦略) は、1982年放射性廃棄物政策法に直接的に反する前提に基づいているとして、以下の点が指摘されている。

  • 1982年放射性廃棄物政策法は、ユッカマウンテン以外のサイトを代替の処分候補地と見なさないとしているが、DOE戦略はユッカマウンテン以外の選択を前提としている。
  • DOE戦略では、原子力規制委員会(NRC)による処分場の建設認可の発給がない状況で、2025年までの中間貯蔵施設の操業開始を想定している。しかし、1982年放射性廃棄物政策法は、そのような前提条件を置いている。暫定施設を利用することにより、ユッカマウンテンの建設の遅延の影響を回避できるよう制度設計されている。
  • DOE戦略は処分場立地に州等の同意が必要としているが、1982年放射性廃棄物政策法は連邦政府に州の反対を覆す権限を与えている。
  • DOE戦略では処分場の操業開始を2048年としているが、1982年放射性廃棄物政策法は1998年までの処分場完成を命じている。

なお、1982年放射性廃棄物政策法においては、DOEが拠出金額をゼロに変更する提案を連邦議会に提出した場合、連邦議会が送達を受けてから90日間の経過時点で変更した拠出金額が有効となるが、上院または下院が不承認決議をした場合は変更した拠出金額が無効になることが規定されている。

 

【出典】

 

【2014年1月6日追記】

エネルギー省(DOE)は、2014年1月3日に、放射性廃棄物基金への拠出金額をゼロに変更し、実質的に徴収しないよう命じる2013年11月19日の連邦控訴裁判所による判決に対して、連邦控訴裁判所の大法廷での再審理を求める申立てを行った。

DOEは、連邦控訴裁判所の判決に対して再審理が認められるべき理由として、以下のような点を主張している。

  • 1982年放射性廃棄物政策法は、原子力発電の販売電力に対して1ミル(0.001ドル)/kWhを標準の拠出金額とし、その変更については、「収入が不足または超過」することが確認された場合に「全費用の回収を確実にするため」に行うとの前提条件を規定しているが、連邦控訴裁判所の判決は本条文に反している。
  • 連邦控訴裁判所の判決では、ユッカマウンテン処分場の費用想定を使用することも、ユッカマウンテン以外の処分場の費用想定を使用することも不可とする、矛盾し誤った命令を下しているため、DOEは拠出金の妥当性評価を行うことが実質的に不可能である。
  • 本件は異例の国家的な重要事項のため、判決を正すために大法廷での審理が必要である。

 

【出典】

 

【2014年1月14日追記】

エネルギー長官は、2014年1月3日に、連邦控訴裁判所の2013年11月19日の判決での指示に従い、放射性廃棄物基金への拠出金額を現状の1ミル(0.001ドル)/kWhからゼロに変更する提案を連邦議会に提出した。

エネルギー長官は、連邦議会の上院及び下院の議長に宛てた書簡の中で、この拠出金額の変更提案の位置付けを以下のように説明している。

  • 変更提案は、1982年放射性廃棄物政策法で必要とされるエネルギー長官の妥当性評価の結果に基づくものではない
  • エネルギー長官は拠出金額が過剰とも不足とも決定していない
  • したがって、連邦控訴裁判所に指示された本変更提案は、1982年放射性廃棄物政策法に規定された拠出金額の変更プロセスと一致していない

エネルギー長官は、本変更提案を提出した2013年1月3日に、連邦控訴裁判所に対して大法廷での再審理を求める申立ても行っており、今後の司法決定により変更もあり得るとの前提で本変更提案を提出するとしている。

また、エネルギー長官は、連邦議会が変更提案を受領してから90日以内に上院または下院が不承認決議を行った場合には変更提案が無効になるという1982年放射性廃棄物政策法の規定は最高裁判所で違憲(一院のみによる拒否規定が違憲)とされていること、本規定は、連邦議会は90日の検討期間内に立法措置によって変更提案を覆すことが出来ると解釈されていることを書簡中で付言している。

なお、今回の判決での原告である原子力エネルギー協会(NEI)は、2013年1月9日付けのニュースの中で、エネルギー省(DOE)が法律上・契約上の義務を果たすまでは拠出金は徴収されるべきでないなどとした上で、連邦控訴裁判所の判決は維持されるべきであり、原子力発電事業者や消費者は、DOEが意図的に中止した計画のための支払いから開放されるべきとの見解を示している。

【出典】

 

【2014年3月19日追記】

放射性廃棄物基金への拠出金額をゼロに変更して実質的に徴収しないよう命じる2013年11月19日の判決について、エネルギー長官が大法廷での再審理等を求めて2013年1月3日に申立てを行っていたが、連邦控訴裁判所は、2014年3月18日に、その申立てを却下した。

エネルギー長官は、連邦控訴裁判所の2014年11月19日の判決の指示に従って、放射性廃棄物基金への拠出金額を現状の1ミル(0.001ドル)/kWhからゼロに変更する提案を2014年1月3日に連邦議会へ提出している。このため、本提案を連邦議会が受領してから90日2 の検討期間内に連邦議会が変更提案を覆す立法措置を取らない場合には、本提案が有効となり、放射性廃棄物基金への拠出金額がゼロとなる。

なお、今回の放射性廃棄物基金への拠出金の徴収停止に係る訴訟の原告である全米公益事業規制委員協会(NARUC)及び原子力エネルギー協会(NEI)は、2014年3月18日付けのプレスリリースなどにおいて、本判決は原子力発電による電気の消費者にとって勝利であるとの歓迎の意向とともに、ユッカマウンテン計画の再開などを求める見解を示している。

【出典】

 

【2014年5月16日追記】

米国のエネルギー長官は、連邦控訴裁判所の2014年11月19日の判決の指示に従って、放射性廃棄物基金への拠出金額を現状の1ミル(0.001ドル)/kWhからゼロに変更する提案を2014年1月3日に連邦議会へ提出していたが、2014年5月16日に本提案が有効となり、放射性廃棄物基金への拠出金が実質的に停止される。今回の提案が有効となったのは、1982年放射性廃棄物政策法の規定に基づいており、連邦議会が提案を受領してから90日以内に、拠出金額をゼロとする提案を覆す立法措置を取らなかったため、自動的に有効となったものである。

今回の放射性廃棄物基金への拠出金の徴収停止を求めていた訴訟の原告であり、原子力産業界を代表する原子力エネルギー協会(NEI)は、2014年5月15日付けで公表したニュースにおいて、拠出金の徴収停止を歓迎するとした上で、連邦議会はユッカマウンテン処分場の許認可手続の完了のために予算を配賦すべきであること、連邦政府は高レベル放射性廃棄物管理計画を確立し、ユッカマウンテンまたは新しい地層処分場とともに、使用済燃料の集中貯蔵施設を実現すべきなどとした見解を示している。

また、連邦議会下院エネルギー・商務委員会の環境・経済小委員会の委員長は、2014年5月15日のプレスリリースにおいて、エネルギー長官が法的義務を果たしてユッカマウンテン計画を再開することが必要とした上で、今回の拠出金の徴収停止を歓迎するコメントを出している。

【出典】

  1. 連邦控訴裁判所のうち、コロンビア特別区(D.C.)巡回区控訴裁判所が担当(米国の首都ワシントンD.C.地区における訴訟事件を取り扱う)。 []
  2. 「連続する会期の90日間」とされ、上院・下院いずれかが休会の日は計算に含まない。 []

(post by inagaki.yusuke , last modified: 2023-10-12 )