スイスの連邦評議会1 は、2013年8月28日のプレスリリースにおいて、処分義務者である放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が2008年10月に提出していた「放射性廃棄物管理プログラム」を承認したことを公表した。スイスでは、2005年施行の原子力法及び原子力令に基づいて、自国内で発生するすべての放射性廃棄物の地層処分に向けたプログラムを処分義務者が5年ごとに提出・更新することになっている2 。今回承認された放射性廃棄物管理プログラムは、法令に基づいた初めてのプログラムとなる。
放射性廃棄物管理プログラムには、原子力施設の運転と廃止措置から発生する放射性廃棄物の種類及び量の見通し、地層処分場の立地選定から処分場を閉鎖するまでの基本措置とスケジュール、それらの資金計画3 等を含めることが原子力令に規定されている 。スイスでは、2008年から地層処分場のサイト選定プロセス(3段階構成)が開始されており、現在は第2段階にある 。今回承認された放射性廃棄物管理プログラムは、2008年4月に連邦政府が策定したサイト選定計画に当たる特別計画「地層処分場」(以下「特別計画」という)で設定されたサイト選定スケジュールを織り込んだものである。NAGRAが2008年に放射性廃棄物管理プログラムを取りまとめた段階では、サイト選定の完了を2018年とし、高レベル放射性廃棄物用地層処分場の操業開始を2050年、低中レベル放射性廃棄物用地層処分場の操業開始については2035年と設定していた。
NAGRAが2008年10月に放射性廃棄物管理プログラムを提出した後、本プログラムを連邦エネルギー庁(BFE)、規制機関である連邦原子力安全検査局(ENSI)が審査し、それらの評価結果をBFEの諮問機関である原子力安全委員会(KNS)が評価している。その後、2012年6月から9月にかけて、放射性廃棄物管理プログラム、並びにこれらの連邦官庁の意見書を対象として意見募集が実施された 。今回の連邦評議会のプレスリリースによると、意見募集では州、地方自治体、政党、その他の組織や個人等から合計70件のコメントが寄せられ、コメントの大部分は放射性廃棄物管理プログラム及び本プログラムの定期更新の仕組みを肯定的に評価したものであったとしている4 。
連邦評議会は、今回の放射性廃棄物管理プログラムの承認にあわせて、次回の更新版のプログラムの提出期限を2016年にするとともに、その際にそのプログラムに沿って実施される研究開発計画5 、及び放射性廃棄物管理費用の見積りに関する報告書を同時に提出するようNAGRAに要求することを決定している。原子力令の規定に従うと、次のプログラムの更新時期は2013年となるが、これを2016年に変更した理由として、特別計画に基づくサイト選定の第1段階の連邦官庁でのレビューが長引き、サイト選定スケジュールが遅延しているためとしている。なお、サイト選定手続きを主導する連邦エネルギー庁(BFE)は、現在進められている第2段階(約5年間)が完了する時期を2016年と見込んでいる 。プログラム更新時期の2016年への変更について連邦評議会は、環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)と協議し、連邦議会の環境・地域開発・エネルギー委員会へ報告した上で、決定したとしている。
【出典】
- 連邦評議会ウェブサイト、2013年8月28日
http://www.news.admin.ch/message/index.html?lang=de&msg-id=50000 - 連邦評議会ウェブサイト、ファクトシート、2013年8月28日
http://www.news.admin.ch/NSBSubscriber/message/attachments/31744.pdf - NAGRA技術報告書08-01 「処分義務者による放射性廃棄物管理プログラム2008年」、2008年10月
- 特別計画「地層処分場」方針部分(2008年4月2日)、
http://www.news-service.admin.ch/NSBSubscriber/message/attachments/11679.pdf - 原子力法
- 原子力令
- 日本の内閣に相当 [↩]
- 原子力法第32条は、廃棄物処分義務者が放射性廃棄物管理プログラムを作成し、連邦評議会が作成・更新する期限を定めるとしており、原子力令第52条では同プログラムの5年ごとの更新が規定されている。 [↩]
- 廃止措置費用及び放射性廃棄物の処分費用の見積りについては、「廃止措置・廃棄物管理基金令」の規定により、原子力施設の所有者が5年ごとに費用見積りを実施することとなっており、前回の費用見積りは2011年に実施されている。 [↩]
- 今回の連邦評議会の承認と同時に、BFEは意見募集の結果を取りまとめた報告書を公表している。「放射性廃棄物管理プログラム2008と処分の実現可能性の実証への勧告の取組み-意見募集の結果に関する報告書-」(2013年8月28日)
http://www.news.admin.ch/NSBSubscriber/message/attachments/31750.pdf - NAGRAはNAGRA技術報告書09-06「スイスにおける放射性廃棄物処分のための研究開発及び実証(RD&D)計画」を更新する予定である。NAGRA技術報告書09-06については、
http://www.nagra.ch/data/documents/database/dokumente/%24default/Default%20Folder/Publikationen/NTBs%202001-2010/e_ntb09-06.pdf
[↩]
を参照。 [↩]
(post by yamamoto.keita , last modified: 2024-02-13 )