諸外国での高レベル放射性廃棄物処分

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HLW:US:chap6

米国 米国における高レベル放射性廃棄物処分

米国における高レベル放射性廃棄物処分

全体構成(章別)


6. 安全確保の取り組み・コミュニケーション

6.1 地層処分の安全確保の取り組み

ポイント

  • エネルギー省(DOE)は、ユッカマウンテン・サイト適合性指針(10 CFR Part 963)に従って、処分場の閉鎖前及び閉鎖後のサイトの適合性を判定することとなっています。この指針では、1万年を超える長期間についての閉鎖後の処分場システムの評価のために、トータルシステム性能評価(TSPA)を行うことが規定されています。
  • TSPAでは、処分システムの放射性核種を隔離する性能に影響を与え得るさまざまなプロセスを組み込んだモデルが構築されます。また、処分場の許認可申請書においては、サイト特性調査で収集されたデータなどに基づいて、TSPAにより定量的に評価しています。その結果などから、原子力規制委員会(NRC)及び環境保護庁(EPA)の安全基準を満たすことを示して、安全性の確認を行います。

サイトの適合性の確認

TSPAの方法
トータルシステム性能評価(TSPA)の方法
ユッカマウンテン・サイト適合性評価書より作成

エネルギー省(DOE)は、ユッカマウンテン・サイト適合性指針(10 CFR Part 963)に従って、処分場閉鎖前及び閉鎖後の期間でのサイト適合性を判定することとなっています。この指針では、処分場閉鎖前の期間については、処分場が本来の機能を果たし、発生確率が1万分の1以上の事象による影響を防止あるいは軽減できるかを、ユッカマウンテンに適用される安全基準に照らして評価することが規定されています。また閉鎖後の期間については、トータルシステム性能評価(TSPA)を用いて評価することが定められています。

このTSPAでは、右図に示されるように、処分システムによる廃棄物の隔離性能に対して影響を与え得る水文地質学、地球化学、熱、力学等のさまざまなプロセスモデルを組み込み、サイト特性調査で得られたデータ等を用いて、1万年を超える長期間にわたる処分場の性能について不確実性を考慮に入れた上でのシミュレーションが行われます。結果は、適用される安全基準との比較により、定量的に評価されています。

なお、サイト推薦に向けてのTSPA(2002年12月版)は、経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)による国際的なピアレビューも受けています。レビューチームからは、このTSPAは改善の余地はあるものの、サイト推薦の十分な根拠を与えるものだとの結論が示されています。

TSPAのためにモデル化されたプロセス
トータルシステム性能評価(TSPA)のためにモデル化されたプロセスの概略
source:ユッカマウンテン科学・工学報告書改訂第1版


ユッカマウンテン・サイト適合性指針(10 CFR Part 963)

ユッカマウンテン・サイト適合性指針では、処分場システムの性能にとって重要なプロセスに対応した適合性基準として、以下のものが示されています。

サイト特性(地質学、水文学、地球物理学、地球化学)
不飽和帯での水の流動特性
ニアフィールドの環境特性
人工バリアシステムの劣化特性
廃棄体の劣化特性
人工バリアシステムの劣化と水の流動、放射性核種の移行に関する特性
不飽和帯での水の流動と放射性核種の移行特性
飽和帯での水の流動と放射性核種の移行特性
生物圏の特性

また、ユッカマウンテン・サイト適合性指針では、以下の3つのシナリオについて評価することも定められています。

ⅰ)起こることが予測される「通常シナリオ」
ⅱ)起きる確率は低いが潜在的に有意な影響をもたらす「破壊的シナリオ」
(火山活動、地震、核臨界等)
ⅲ)探査目的の掘削による「人間侵入シナリオ」


TSPAの結果

2008年6月にNRCへ提出されたDOEの許認可申請書には、NRCの10 CFR Part 63の改定案での規定内容に従って実施されたトータルシステム性能評価(TSPA)の結果が示されています。

処分場閉鎖後のトータルシステム性能の結果
処分場閉鎖後のトータルシステム性能の結果
(ユッカマウンテンの許認可申請書及び40 CFR Part 197・10 CFR Part 63最終版より作成)


6.2 処分事業の透明性確保とコミュニケーション

ポイント

  • 1982年放射性廃棄物政策法では、エネルギー長官がユッカマウンテンを処分場サイトとして推薦するに当たり、地域の住民に対して、検討状況について情報を提供し、サイト推薦に対する意見を求めるため、サイトの近辺で公聴会を開催することを定めています。その他、環境影響評価の手続でも、住民やさまざまな関係者に情報を提供し、意見を求めることが必要とされています。
  • また、地元ネバダ州には、サイト推薦に不承認の意思を表明することが認められていますが、連邦議会はそれを覆すことが可能とされており、2002年7月に連邦議会の立地承認決議が行われました。

情報提供と住民のコメント募集

ネバダ州ユッカマウンテンを処分場サイトとして推薦し、処分場建設の許認可を行うためには、2つの枠組みで情報の提供とコメントの募集が行われることとなっています。

1つは環境影響評価の手続で、計画段階やドラフト環境影響評価書の公表後に公聴会やパブリックコメントの募集が必要とされています。ユッカマウンテンの環境影響評価でも、計画段階で15 回の公聴会が1995年に行われたのを始め多くの公聴会が開催され、2002年のサイト推薦までに1万件以上のコメントが寄せられ、エネルギー省(DOE)の回答が示されています。

もう1つは1982年放射性廃棄物政策法で定められた処分場に特別な手続です。特に、エネルギー長官による大統領へのサイト推薦に際しては、同法第114条等により、ユッカマウンテン・サイト周辺の住民に対し、情報の提供とコメント募集のため、事前にサイト周辺で公聴会を行うことが求められています。

[情報提供]

DOE は、サイト推薦のための情報提供として、公聴会などに先立って、科学的根拠を示した「ユッカマウンテン科学・工学報告書」とドラフト環境影響評価書の補足書、「予備的サイト適合性評価報告書」などを公表しています。

[住民のコメント募集]

DOEは、2001年5月から12月にかけて、ユッカマウンテン・サイト周辺での公聴会と、ユッカマウンテンのサイト推薦に関するパブリックコメントの募集を行いました。公聴会はネバダ州17郡とカリフォルニア州1郡で開催されました。

パブリックコメントは約4,600件が寄せられ、その結果を検討した上で、上の「情報提供」の項で示した各報告書が改定されています。また、寄せられたコメントの要約とそれに対するDOEの回答をまとめた「サイト推薦コメント要約文書」も発表しています。


地元の意思表明と許認可手続への参加

1982年放射性廃棄物政策法では、州や地元自治体等が処分場開発に係る意思決定手続に参加できる仕組みも定められています。

まずサイト推薦の手続では、エネルギー長官が大統領に処分場のサイト推薦を行う決定をした場合には、事前にネバダ州知事と州議会に通知を行うことが必要とされています。そして、州知事または州議会は、大統領から連邦議会へのサイト推薦について、60日以内に不承認通知を連邦議会に提出することができることも決められています。しかし、この州の不承認通知は、連邦議会が覆すことが可能となっています。ユッカマウンテンのサイト推薦では、前述の通り、この手続に従って連邦議会が立地承認決議を行い、地元ネバダ州の不承認は覆されています。

また、米国では原子力施設の許認可手続では裁判に似た形で審理が行われますが、州と関連する自治体などは、この審理に当事者として参加することが認められています。ユッカマウンテンの審理手続では、ネバダ州及び同州の7つの郡の他、カリフォルニア州なども当事者として参加が認められ、特にネバダ州は、200件以上の論点を提出して、争う姿勢を示していました。

なお、前述の通り、このような手続への参加が行えるよう、州や関連する自治体等には放射性廃棄物基金(NWF)から補助金が支給されます。


6.3 意識把握と情報提供

ポイント

  • 実施主体のエネルギー省(DOE)は、インターネットやインフォメーション・センターなどによって地元住民だけでなく国民全体の理解促進のためにユッカマウンテン・プロジェクトの情報提供活動を行っていましたが、現政権のユッカマウンテン計画中止の方針に伴い、こうした情報提供活動は廃止されています。

広報・情報提供活動

実施主体のエネルギー省(DOE)は、1982年放射性廃棄物政策法(NWPA)で必要とされる地元住民や公衆に対する情報提供活動の他に、地元住民や国民全体の理解促進のための情報提供活動も行っていました。その主な方法としては、小冊子やインターネットによるものと、インフォメーション・センターによるものがあります。

[小冊子やインターネットでの情報提供]

DOEの民間放射性廃棄物管理局(OCRWM)は、許認可申請書等の正式文書や専門的な分析報告書など膨大な情報の公開に加え、一般市民にも理解しやすいように工夫されたパンフレットなども作成し、ウェブサイトでも提供していました。

2002年1月には、ユッカマウンテンのサイト推薦関連の情報提供として、『何故、ユッカマウンテンか?』『ユッカマウンテン・プロジェクトのQ&A』などの小冊子がウェブサイトでも公開されたほか、『科学、社会、そしてアメリカの放射性廃棄物』というオンライン教育カリキュラムも1992年から改定を重ねて公開されていました。

2008年6月の建設認可に係る許認可申請書の提出後には、『ユッカマウンテン安全性説明書』及び『ユッカマウンテンにおける国の処分場』という小冊子が作成され、ウェブサイトでも公開されていましたが、現政権のユッカマウンテン計画中止の方針に従ってウェブサイトは廃止されています。

[インフォメーション・センター]

ユッカマウンテン最寄りの町パーランプには、DOEのOCRWM のインフォメーション・センターが設置されていました。同センターでは、展示、ビデオ・ディスプレイ、対話型コンピュータ・プログラム、その他教育プログラムが整備され、またバーチャルリアリティにより処分場の内部に入る擬似体験ができるようになっていました。

ただし、その後の予算削減の影響や現政権のユッカマウンテン計画中止方針によりインフォメーション・センターは閉鎖されています。





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