スイスのジュラ州にあるモン・テリ岩盤研究所を管理するスイス国土地理院(swisstopo)は、岩盤研究所の坑道拡張工事を2017年6月15日に開始したことを公表した。モン・テリ岩盤研究所では、放射性廃棄物の地層処分や二酸化炭素の地中貯留に関連して、今後10年の計画として約50件の新規研究プロジェクトが計画されているが、既存坑道ではスペースが不足することから、既存部分の南側に全長約600メートルの坑道を新たに掘削する。
今回の坑道拡張工事の総費用は約400万スイスフラン(日本円で約4億5,200万円、1スイスフラン=113円で換算、以下同様)と見積っている。坑道拡張工事は2019年半ばまでに完了する見込みであるが、工事中にも坑道掘削による水理・岩盤力学的な影響を調べる試験(Mine-by Test)が実施される予定である。
モン・テリ岩盤研究所の概要
モン・テリ岩盤研究所は、高速道路の避難・管理用トンネルと周囲のオパリナス粘土層を利用して設置された国際共同研究施設であり、1996年以降、約150件に及ぶ試験が実施されている。複数回に及ぶ坑道拡張工事により2017年6月現在、モン・テリ岩盤研究所の坑道延長は約700メートルとなっている。スイスの放射性廃棄物処分実施主体である放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)はモン・テリ岩盤研究所において、地層処分の候補母岩であるオパリナス粘土層中でのガスの拡散挙動、微生物の活動、母岩に対する熱影響に関する試験研究などを実施している。モン・テリ岩盤研究所における国際共同研究プロジェクトには、スイスを含めた8か国から以下の16の組織が参加しており、今回の坑道拡張工事の費用を分担するとしている。
- スイス国土地理院(swisstopo、スイス)
- 連邦原子力安全検査局(ENSI、スイス)
- 放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA、スイス)
- 原子力研究センター(SCK・CEN、ベルギー)
- 連邦原子力管理庁(FANC、ベルギー)
- 放射性廃棄物管理機関(ANDRA、フランス)
- 放射線防護・原子力安全研究所(IRSN、フランス)
- 連邦地球科学・天然資源研究所(BGR、ドイツ)
- 施設・原子炉安全協会(GRS、ドイツ)
- 株式会社大林組(日本)
- 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA、日本)
- 一般財団法人電力中央研究所(CRIEPI、日本)
- 放射性廃棄物管理公社(ENRESA、スペイン)
- 核燃料廃棄物管理機関(NWMO、カナダ)
- シェブロン・エネルギー技術社(Chevron Energy Technology ETC、米国)
- エネルギー省(DOE、米国)
モン・テリ岩盤研究所には、これまでに総額約8,000万スイスフラン(約90億4,000万円)が投じられており、上記の16の組織も費用を分担してきた。
モン・テリ岩盤研究所の地下部分はジュラ州が所有権を有しているが、今回の坑道拡張工事についてジュラ州は2016年12月に、坑道拡張工事に必要な許可を発給していた。また、管理・操業者であるswisstopoは毎年、ジュラ州から研究プロジェクトの実施のための地下利用の許可を得ている。なお、モン・テリ岩盤研究所は研究施設として供用されており、将来にわたり放射性廃棄物処分場として利用されることはない。
【出典】
- スイス国土地理院(swisstopo)ウェブサイト、2017年6月15日、
https://www.swisstopo.admin.ch/de/home.detail.news.html/news2017/news_release/170615.html - 連邦原子力安全検査局(ENSI)ウェブサイト、2017年6月15日、
https://www.ensi.ch/de/2017/06/15/neue-experimente-im-felslabor-mont-terri-ab-2019/ - モン・テリ岩盤研究所ウェブサイト「研究所の目的-タスク」
https://www.mont-terri.ch/en/goals/task.html
(post by yamamoto.keita , last modified: 2023-10-10 )