2013年6月27日に、米国の連邦議会上院のエネルギー天然資源委員会のウェブサイトで「2013年放射性廃棄物管理法」の法案が公表された。本法案については、2013年4月25日に公表された討議用ドラフトに対してコメントを募集していたが 、2013年5月24日の期限までに提出された2,500件を超えるコメントを反映して修正を行ったものとしている。本法案は、2名の民主党及び2名の共和党による超党派の上院議員が共同で連邦議会上院に提出したものである。
今回提出された法案について、法案の要点を示した文書で示された規定内容の概要を以下に示す。なお、下線を付した部分は、討議用ドラフトからの変更点などを示している。
放射性廃棄物管理組織
本法案により、一人の長官が指揮を執る新しい連邦政府関係機関(行政府に設置される独立機関)を設立する。長官は、連邦上院の助言・承認に基づいて大統領に任命され、エネルギー省(DOE)が設定した高レベル放射性廃棄物計画を実施する。
また、新しい放射性廃棄物管理組織による計画の実施を監督するため、独立した監視委員会を創設する。監視委員会は、大統領が任命して連邦上院が承認する、異なる任期を持つ5名の委員で構成される。これは、連邦政府の当局者により委員会を構成することを懸念するコメントに対応したものである。
集中貯蔵及び処分場の同意に基づくサイト選定プロセス
本法案では、新しい放射性廃棄物管理組織が、閉鎖された原子炉サイトからの使用済燃料、及び運転中の原子炉から緊急に輸送される使用済燃料を受け入れるパイロット規模の中間貯蔵施設を建設することを規定している。また、民間の使用済燃料及びDOEの国防関連の廃棄物を一時的に貯蔵する1つ、または複数の集中中間貯蔵を建設することも規定している。
本法案により、処分場及び集中貯蔵施設に適用する新しいサイト選定プロセスを策定する。このサイト選定プロセスでは、新しい放射性廃棄物管理組織は、以下を実施する必要がある。
- サイトを評価するための技術的なサイト選定ガイドラインを開発する
- 自主的にサイトとなるような州及び自治体を募集する
- サイト調査実施のための州及び地元の協力を得る。協力協定については、貯蔵サイトは任意とし、処分サイトは必須とする
- サイト特性調査の開始前(貯蔵サイト、処分サイト)、処分サイトとして適性を最終的に決定する前に、パブリックヒアリングを開催する
- 処分場、または貯蔵施設のサイトとして選定するための州及び地元の同意を得る
- 処分場、または貯蔵施設の建設、操業のための原子力規制委員会(NRC)の許認可を得る
貯蔵施設と処分場のサイト選定プロセスとを2つの部分に分けることは、討議用ドラフトからの変更点である。さらに、長官は、法律の施行後の180日以内にパイロット規模の貯蔵施設の公募を開始することが要求され、法律の施行後の1年以内に処分場に関するガイドラインを策定することが要求されている点も、討議用ドラフトとの相違点である。
集中貯蔵施設と処分場とのリンク
本法案は、直ちにパイロット規模の貯蔵施設のサイト選定を開始することを認めるが、貯蔵施設の貯蔵容量に制限を設定しない。長官は、より大規模な貯蔵施設について、法律の施行後10年間は、並行する処分場プログラムの実施のための資金が義務付けられているならば、サイト選定を継続することが可能である。施行後10年以降に関しては、長官は、処分場のための候補地としての評価のために少なくとも1カ所のサイトを選定している場合、新しい貯蔵施設を立地することができる。
放射性廃棄物基金
本法案により、放射性廃棄物管理組織が歳出予算措置を経ずに利用可能となる、新しい運営資本基金を財務省に創設する。新たに創設される基金には、電力会社からの拠出金が預託される。本法案の成立前に収集された拠出金は、従来からの放射性廃棄物基金に残り、歳出予算の対象となる。
【出典】
- 連邦議会上院のエネルギー天然資源委員会の掲載サイト
http://www.energy.senate.gov/public/index.cfm/featured-items?ID=811b9cd9-9167-43dd-ac4c-c8098e28d66f - 「2013年放射性廃棄物管理法」の法案
http://www.energy.senate.gov/public/index.cfm/files/serve?File_id=dc0abb66-3edf-4927-9baa-8bd789e0bee4 - 「2013年放射性廃棄物管理法」の法案の要点を示した文書
http://www.energy.senate.gov/public/index.cfm/files/serve?File_id=b5573e18-ee07-4632-aa19-9fefa8ea8b91 - 「2013年放射性廃棄物管理法」の法案の条文毎の要点
http://www.energy.senate.gov/public/index.cfm/files/serve?File_id=5e674328-425a-4443-8c8a-a39da2ad9255
【2015年3月19日追記】
米国の連邦議会上院で、2015年3月10日に、「放射性廃棄物インフォームドコンセント法」の法案(S.691)が提出された。全4条からなる同法案は、少数党院内総務のリード議員などが提出したものであり、現在、原子力規制委員会(NRC)で許認可申請書の審査が行われているユッカマウンテン処分場についても、地元ネバダ州の承認を必要とすることを趣旨とした法案になっている。リード議員は、ネバダ州選出で民主党の上院議員であり、かねてからユッカマウンテン計画に反対する態度を鮮明にしてきた。法案の規定内容の概要は、以下のとおりである。
- エネルギー長官が、処分場候補地の州知事、影響を受ける地方政府、当該地方政府に隣接して輸送経路となる地方政府、及び影響を受ける先住民族と書面による合意を締結しない限り、原子力規制委員会(NRC)は建設認可を発給してはいけない。
- この法律は、施行時に存在しているか、または、将来提出される建設認可の許認可申請書に対して適用される。
なお、連邦議会下院においても、2015年3月13日に、ネバダ州選出議員により同じ内容の法案(H.R.1364)が提出されている。
リード議員などによる法案の提出に対し、連邦議会上院の歳出委員会エネルギー・水資源小委員会のアレキサンダー委員長は、2015年3月10日のプレスリリースにおいて、「連邦議会は既にユッカマウンテンを米国の放射性廃棄物処分場として承認しており、原子力規制委員会(NRC)も同地において安全に処分できると言っている。ユッカマウンテンに反対し続けることは、法律と科学を無視することである」とした上で、ユッカマウンテンに次ぐ新たなサイトを確保するための法案を準備していること、その法案においてもユッカマウンテンは解決策の一部であることなどを表明している。
【出典】
- 「放射性廃棄物インフォームドコンセント法」の連邦議会上院の法案(S.691)
https://www.congress.gov/bill/114th-congress/senate-bill/691/text - 「放射性廃棄物インフォームドコンセント法」の連邦議会下院の法案(H.R.1364)
https://www.congress.gov/bill/114th-congress/house-bill/1364/text - アレキサンダー上院議員、2015年3月10日プレスリリース
http://www.alexander.senate.gov/public/index.cfm/pressreleases?ID=334b1efc-a3b6-4150-9525-2d0b40f97c32
(post by inagaki.yusuke , last modified: 2023-10-11 )