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HLW:CH:chap4
スイスにおける高レベル放射性廃棄物処分
- 全体構成(章別)
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2. 地層処分計画と技術開発
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5. 処分事業の資金確保
目次
4. 処分地選定の進め方と地域振興
4.1 処分地の選定手続き・経緯
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スイスにおける放射性廃棄物処分場のサイト選定は、連邦政府が策定した特別計画「地層処分場」に従い、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)がサイトを提案し、連邦政府が審査する3段階の手続きで行われています。2011年12月には、第1段階の完了と第2段階の開始が公表されました。選定されたサイトは、プロジェクトの基本的事項などを定める連邦評議会による許可である概要承認の発給を受けて確定されますが、概要承認は一定数の国民の発案があった場合には国民投票の対象となります。
処分地選定の進め方…プロジェクト確定手続き
スイスの連邦評議会は、原子力令(2005年2月施行)において、「放射性廃棄物処分に関する拘束力のある目標及び基準を“特別計画”で定める」と規定しています。この特別計画は、地層処分場に関するプロジェクトに限定されず、地域と環境に重大な影響を及ぼすプロジェクト―例えばエネルギーインフラや交通網など―を確定する手続きとして都市計画法で定められています(ドイツ語ではザッハプランといいます)。
地層処分場のサイト選定の段階的な手順とスケジュールは、右の図に示すように、特別計画の形で事前に取り決められます。第1段階から第3段階にかけて段階的にサイトが絞り込まれ、第3段階の最後でサイトが選定されます。選定されたサイトについて、許認可手続きの最初のものとなる「概要承認」[8]の手続きが行われます。
「概要承認」は、スイス特有の手続きであり、地層処分場を含む原子力施設の導入プロジェクトについて、立地場所やプロジェクトの基本事項などを定めています。建設許可申請前に連邦評議会が概要承認を発給します。
2005年2月に施行された原子力法及び同令には、概要承認に関する手続きが正式に盛り込まれました。連邦評議会が発給する概要承認には、連邦議会での承認が必要です。また連邦議会の概要承認は任意の国民投票の対象となっており、議会の承認から100日以内に5万人の署名が集まれば国民投票にかけることができます。可決のためには、過半数の賛成が必要となります。
「概要承認」の発給後は、地下特性調査施設の建設等、詳細な地球科学的調査が実施され、これらが実施された後、建設許可、操業許可の手続きが行われます。
なお、2005 年の原子力法及び同令の施行前の制度では、原子力施設に関する一部の許可発給権限が州にも付与されていましたが、新たな原子力法に基づく制度では、連邦に一元化されました。連邦評議会が原子力施設に関する許可を発給する際には、関係する州の懸念をプロジェクトが極度に制限を受けない範囲で考慮するよう規定されています。
特別計画『地層処分場』の策定
原子力法では、特別計画の策定は連邦政府が行うことになっています。地層処分場に関する特別計画の策定は、2006年3月から連邦エネルギー庁(BFE)を中心として進められ、州などに対する意見聴取の結果も踏まえて、2008年4月に<acronym title=“Sachplan geologische Tiefenlager”>特別計画「地層処分場」</acronym>が策定されました。
特別計画「地層処分場」では、サイト選定に関わる連邦政府や州と自治体、隣接諸国及び実施主体の役割についても規定されています。主な組織の役割は右の表に示す通りです。
サイト選定の進め方について、以下の優先順位で進めることも規定しています。
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安全性を最優先する。人間と環境の持続的な保護を確保しなければならない。そのためには、放射性毒性が崩壊によって十分に減衰するまで放射性物質の閉じ込めを確保しなければならない。
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安全に次いで、地域開発、生態学、経済及び社会の側面を検討する。
特別計画で取り決められたサイト選定段階
特別計画「地層処分場」では、サイトの評価基準を設定するとともに、右に示す3段階で構成されるサイト選定手続きを定めています。第1段階で選定される“<acronym title=“Geologisches Standortgebiet”>地質学的候補エリア</acronym>”は、地質学上の要件を満たし、処分場の建設の可能性がある候補地の幅広いエリアを表しています。地質学的候補エリアをほぼ包み込む“<acronym title=“Planungsperimeter”>計画範囲</acronym>”は地上施設が建設される可能性のある領域の範囲を示しています。“<acronym title=“Standortregion”>サイト地域</acronym>”は地質学的候補エリアに所在する自治体、計画範囲の境界内部に全体または一部が含まれる自治体、その他関係する自治体から構成されており、“計画範囲”よりもさらに広範となっています。これらの自治体の代表や住民は「地域会議」へ参加しています。地域会議の詳細については、「VI.安全確保の取り組み・コミュニケーション」の「2.処分事業の透明性確保とコミュニケーション」において説明しています。
特別計画「地層処分場」の3段階のサイト選定手続き
○第1段階:複数の<acronym title=“Geologisches Standortgebiet”>地質学的候補エリア</acronym>の選定
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スイス全土から地質学的な基準に基づき、地下施設を設置できる可能性がある“地質学的候補エリア”を選定する。
○第2段階:2カ所以上の<acronym title=“Standort”>候補サイト</acronym>の選定
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第1 段階で選定された地質学的候補エリアの内から“候補サイト”を少なくとも2 カ所選定する。
○第3段階:処分サイトの決定と概要承認
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候補サイトの中から処分サイトを決定し、概要承認手続きを実施する。必要な場合、地球科学的調査を実施してサイトに関する知見を補完する。
サイト選定の第1段階の進捗(2008~2011年)
特別計画が規定する安全性と技術的実現可能性に関するサイトの評価基準
NAGRAが候補サイト区域を提案する際に採用した
絞り込みプロセス
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スイス全土を、地質学的な特性に基づいていくつかの広域地帯に区分し、その中から処分場の建設に適した広域地帯を選定
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選定された広域地帯に存在する岩種について、処分場の母岩として適切な岩種を選定
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選定された母岩となる岩種が、適切な深度に存在している区域を選定
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選定された区域の中から、擾乱の有無や母岩の厚さ等を考慮して、地質学的候補エリアを選定
特別計画に基づくサイト選定の第1段階は、2008年10月に、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が処分場の地質学的候補エリアを提案したことを受けて始まりました。
特別計画では右表に示すように、安全性と技術的実現可能性に関するサイトの評価基準が定められています。この基準に基づき、NAGRA はスイス全土を右下の囲みに示したプロセスによって絞り込むことで、高レベル放射性廃棄物の地層処分場の地質学的候補エリアを3カ所提案しました。
第1段階では、NAGRAの提案に対する規制機関等による審査、及び連邦エネルギー庁(BFE)が作成する成果報告書の草案に対する意見聴取などが行われました。これらの成果に基づき、2011年11月に、連邦評議会が、NAGRA が提案した3カ所の地質学的候補エリアを承認したことにより、119 ページに示す地質学的候補エリアが確定しました。高レベル放射性廃棄物の地層処分場の地質学的候補エリア3カ所は、いずれも地下400 ~ 900mの範囲に、地層処分場の母岩となるオパリナス粘土が十分な厚さで存在していると評価されています。なお、低中レベル放射性廃棄物の地層処分場については地質学的候補エリアが6カ所選出され、そのうち3カ所は高レベル放射性廃棄物について選出された地質学的候補エリア3カ所とほぼ重なっています。
高レベル放射性廃棄物の処分場の
地質学的候補エリア(3カ所)
地質学的候補エリア名 | 面積 |
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チューリッヒ北東部 | 約50km2 |
北部レゲレン | 約64km2 |
ジュラ東部 | 約27km2 |
低中レベル放射性廃棄物の処分場の
地質学的候補エリア(6カ所)
地質学的候補エリア名 | 面積 |
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チューリッヒ北東部 | 約49km2 |
北部レゲレン | 約65km2 |
ジュラ東部 | 約61km2 |
ジュートランデン | 約24km2 |
ジュラ・ジュートフス | 約65km2 |
ヴェレンベルグ | 約16km2 |
第1段階では地質学的候補エリアの確定作業と並行して、第2段階での“候補サイト”の選定作業に必要な検討が行われました。これらの主要な成果として、BFEは次の点を示しています。
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地層処分場による環境的・経済的・社会的影響調査のために第2段階で使用する「地域開発面の評価手法」の開発
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処分場の地上施設が建設される可能性のある「計画範囲」の確定
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地質学的候補エリアの安全性に関する安全規制当局の審査
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第2段階以降で実施される地域参加プロセスに参加する自治体の確定
第2段階の進捗状況と作業予定(2011~2015/16 年)
2011年12月からは、サイト選定手続きの第2段階が開始されており、完了までに4年の期間が必要と見込まれています。2012年1月にNAGRAと連邦エネルギー庁(BFE)は「計画範囲」に含まれる20カ所の地上施設区域の案を公表しました(上に示した地図の赤丸印で示された点です)。設置区域は、安全性及び技術面からの現実性、土地利用に関する適合性及び環境との適合性、地域との調和を考慮して提案されました。BFE の主導で設置され、自治体の代表や住民が参加する「地域会議」は地上施設の設置区域について独自の提案をすることができるとされています。NAGRA はこれらの提案の成果を踏まえ、2013年秋以降に各「計画範囲」ごとに、地上施設の設置区域を最低でも1カ所提示することとなっています。
BFEは2012年6月に地層処分場が立地する地域に与える経済影響に関する第1回目の中間報告書を公表しました。同報告書は、6カ所の地質学的候補エリアを包含する形で設定されている「サイト地域」を対象に①地元経済、②雇用、③観光業、④農業、⑤税収、⑥対価(交付金)について分析しています。
いずれのサイト地域でも経済的にプラスまたはマイナスの影響のどちらも小さいと結論付けています。今後、NAGRA が各「計画範囲」ごとに最低1カ所の地上施設の設置区域を提示した後、BFEが環境影響と社会影響に関する調査を実施し、2013年夏に社会・経済・環境影響に関する最終報告書を作成するとしています。
また、第2段階では地元の州と関係する自治体がBFEに協力する形で、地域参加プロセスが本格的に進められます。第2段階における地域参加プロセスでは、関係する自治体が下に示す点について取り組みを進めることになっています。
第2段階の地域参加プロセスにおける自治体の取り組み事項
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関係する自治体はNAGRAが提案した地上施設の構成及びレイアウトを検討し、設計、配置及びアクセスに関する見解を表明する。
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BFEが実施する環境的・経済的・社会的影響に関する評価に際して、自治体がBFEを支援する。
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自治体は地域の持続可能な開発に関する戦略、措置及びプロジェクトを取りまとめる。また、既存の戦略とプロジェクトを更新する。
4.2 地域振興方策
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地層処分場プロジェクトに関する確定手続きである特別計画において、その手続きが完了して地層処分場の建設地が確定した後に、地元への交付金について検討することを明記しています。
制度の現状
スイスでは、現時点では地域振興を目的とした法的な枠組みはありませんが、地層処分場プロジェクトに関する特別計画の確定手続きにおいて、サイト確定後に交付金について検討することを明文化しています。
特別計画によると、「対価」と呼ばれる交付金について、法的根拠は定められていないものの、第3段階において概要承認が発給されてから、対価に関する検討が行われ、廃棄物発生者によって支払われることが規定されています。対価の配分と用途については、候補サイト区域や計画範囲に含まれる自治体等が検討し、州などに提案することになっています。