英国における高レベル放射性廃棄物処分
…自治体がサイト選定プロセスに参加決定以降の枠組みとして
2008年6月の政府白書「放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み」において、政府は、自治体がサイト選定プロセスへの参加を決定した後(自治体が第4段階に進む意思決定をした後)に「地域立地パートナーシップ」(Community Siting Partnership, CSP)を組織することを定めました。政府は、このパートナーシップが地元の利益を代表する性格を備えることを期待しており、少なくとも以下に示すメンバーを含むとの考えでした。
地域立地パートナーシップの役割は、具体的にはその設立時に参加メンバー間での協議で決めることになりますが、次のような役割を担うことが期待されていました。
西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップの活動例
source: www.westcumbriamrws.org.uk
カンブリア州、同州のアラデール市及びコープランド市の3つの自治体は、2009年にサイト選定プロセスへの関心表明を行った後、様々な側面から助言・支援活動を行う組織を立ち上げました。この組織は「西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップ」と呼ばれています。この組織の活動は、自治体が参加是非を決めるまで(第3段階の終了まで)の期間に限って、3自治体が合同で設置しているもので、第4段階以降で設立される「地域立地パートナーシップ」(CSP)とは位置付けが異なります。
西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップには、両市議会、カンブリア州内の他の市議会、カンブリア州地方議会連合、全国農業者連盟(NFU)、地方労働組合などが参加しました。パートナーシップの会合は、約6週間に一回の頻度で開催され、意見交換や勉強会の場となりました。会合には、質問に答えるオブサーバーとして、CoRWM、エネルギー・気候変動省(DECC、当時の地層処分事業の所管省)、EA、NDAのほか、地元の原子力施設に対して批判的立場のグループも参加しました。
地層処分場のサイト選定プロセスや研究開発や施設設計などに対して、地域社会が参加できるという可能性だけではなく、影響力をもって実質的に参加できる体制を整えられるようにするために、「関与のパッケージ」と呼ばれる政策支援が行われることになっていました。2008年6月の政府白書「放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み」では、関心表明を行った自治体、並びに参加表明後に自治体に設立される「地域立地パートナーシップ」の活動費用について、そのコストに見合った価値があるという前提のもとで、政府が負担することを明確にしていました。
カンブリア州、同州のアラデール市及びコープランド市が設立した「西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップ」の場合には、エネルギー・気候変動省(DECC、当時の地層処分事業の所管省)が資金提供し、同省の代表がオブザーバーとしてパートナーシップに参加しました。
西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップ
が作成した“ディスカッション・パック”
地層処分場を話題として10名程度の集まりで意見交換し、その結果をまとめるワークショップ・ツールです。背景情報として、高レベル放射性廃棄物等を地層処分する方針が決まった経緯、地層処分場のサイト選定プロセスの進め方を簡単に紹介しています。
英国における地層処分場のサイト選定活動は、処分実施主体の原子力廃止措置機関(NDA)ではなく、英国政府が直接行っています。NDAが特定の地元を対象として調査を始める時期は、自治体がサイト選定プロセスへの参加を決定した後から(第4段階から)です。このため、地層処分場の立地に関する地元住民への主な情報提供は、関心表明を行った自治体が合同で設立した「西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップ」の活動を通じて行われました。
このパートナーシップは、カンブリア州並びに州内のアラデール市とコープランド市がサイト選定プロセスに関心表明をおこなった直後の2009年11月に設立されました。地層処分場に関する情報を地元住民や関係者に周知し、サイト選定プロセスへの参加に対する多様な意見を評価することを活動目的の1つとしています。
西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップは、インターネットサイトでの情報提供、パネル討論やワークショップの企画・開催のほか、地層処分場のサイト選定に関する情報を住民向けに紹介する小冊子(リーフレット)を独自に作成し、カンブリア州のアラデール市及びコープランド市の全戸に配布しました。
また、初期スクリーニング結果が公表された後の2010年11月には「ディスカッション・パック」と名付けたDVD付き冊子を作成・配布し、アンケート調査などを実施しました。
source: Ipos MORI: Radioactive Waste Survey Wave 3, Research Report Prepared for West Cumbria Managing Radioactive Waste Safely Partnership (March 2011)
西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップは、地層処分場立地に関する地元の多様な意見の実像を評価するとともに、パートナーシップ自身の活動の改善を図るために、カンブリア州全体を対象とした世論調査を実施しました。外部調査会社を利用する形で、これまでに3回(2009年11月、2010年2月、2011年2月)の電話インタビューを実施しており、その結果をパートナーシップのインターネットサイトで公開しています。
2011年2月の調査結果では、西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップが地層処分場の立地可能性について、英国政府と話合いをしているという事実に対する認知度は、アラデールとコープランドの2市では70%を超えており、カンブリア州全体でも58%となっていました。
source: Ipos MORI: Radioactive Waste Survey Wave 3, Research Report Prepared for West Cumbria Managing Radioactive Waste Safely Partnership (March 2011)
カンブリア州西部に地層処分場を立地すべきかどうかの対する質問に対しては、2市では反対よりも賛成の立場の意見が多く、2市を除いた地域では賛成と反対が拮抗していました。