目次

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英国 英国における高レベル放射性廃棄物処分

英国における高レベル放射性廃棄物処分

全体構成(章別)

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3. 処分事業の実施体制と資金確保

3.1 実施体制

ポイント

  • 英国では、政府が高レベル放射性廃棄物等の処分における放射性廃棄物管理方針の決定、サイト選定の実施などを行っています。高レベル放射性廃棄物処分の安全規制は、原子力規制局(ONR)や各自治政府が設置している環境規制当局が担当しています。
  • 原子力廃止措置機関(NDA)は、放射性廃棄物の長期管理に関する政府の政策を実施します。地層処分に関する政府の政策の実施は、NDA の完全子会社である放射性廃棄物管理会社(RWM 社)が担当しています。

実施体制の枠組み

英国では、英国政府〔ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)〕及び自治政府〔ウェールズ政府(WG)と北アイルランド政府〕が、放射性廃棄物の管理及び方針の決定、サイト選定プログラムの実施、ステークホルダーとの連携などに対する責任を有しています。英国政府及び自治政府に助言を与える諮問組織として、放射性廃棄物管理委員会(CoRWM)があり、地層処分の具体化に向けた実施計画を独立に精査する役割が与えられています。

英国における放射性廃棄物処分の実施体制
放射性廃棄物処分の実施体制


英国では、放射性廃棄物を処分するためには、2つの許可 ─ ①放射性廃棄物を処分するための許可、②原子力施設の操業及び建設などの許可(原子力サイト許可) ─ の両方が必要です。

英国では、地層処分の実施面において、自治体と協力して作業を進める主体的参加方式を取り入れています。自治体は、地層処分施設のサイト選定プロセスに関して実施主体と正式な話し合いを開始することができます。また、十分な情報が提供された上での地層処分施設の受け入れに関する住民の支持を調査・確認するまで、いつでも撤退できるとしています。


実施主体

英国の放射性廃棄物の長期管理に関する政府の政策は原子力廃止措置機関(NDA)が実施し、高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する政府の政策は放射性廃棄物管理会社(RWM社)が実施します。NDAは、老朽化した原子力施設の廃止措置や放射性廃棄物の中間貯蔵を安全に行うために、2005年に設立された政府外公共機関です。英国における放射性廃棄物の処分方針の策定を受けて、それらの処分を実施する役割が加えられました。処分方針の決定後に必要な法改正が行われ、2007年4月より処分実施主体となりました。同時に、高レベル放射性廃棄物等の地層処分場の計画立案や開発のほか、地層処分以外の方法で処分する放射性廃棄物の全体計画立案などを行うために、NDAの内部組織として放射性廃棄物管理局(RWMD)を設置しました。NDAは、2014年4月にRWMDを分離し、NDAの完全子会社として、放射性廃棄物管理会社(RWM社)を設立しました。


安全規則

地層処分施設の許可要件に関するガイダンス
地層処分施設の許可要件に関するガイダンス
source: EA

英国では、2009年2月当時、イングランドとウェールズを所掌していた環境規制機関(EA)などが、高レベル放射性廃棄物等の地層処分施設に関する許可申請を検討する際の基礎となる原則及び要件について記載した「地層処分施設の許可要件に関するガイダンス」を策定しました。このなかで、地層処分施設の開発者・操業者が満たすべき管理要件、サイトの使用、当該施設の設計、建設、操業及び閉鎖に関して満たさなければならない放射線学的及び技術的な要件などを示しています。

安全基準に関する指針
許可期間内 線量拘束値:0.3mSv/年
サイト拘束値:0.5mSv/年
許可期間後 リスク基準値:10-6/年

注)許可期間とは、地層処分場を操業する期間、及び閉鎖後において能動的な制度的管理下におかれる期間を指します。

地層処分の基本防護目標として「処分時及び将来において、人間の健康、利益及び環境の健全性が守られるとともに、人々の信頼を喚起し、費用を考慮した方法によって実行」するとしています。また、地層処分場が閉鎖された後の制度的な管理期間では、最も大きなリスクを受ける人間を代表する個人が、一つの地層処分施設から受ける放射線学的リスクが10-6/年以下であることをガイダンスレベル(目標値)として設定しています。


3.2 処分費用の確保

ポイント

  • 英国では、放射性廃棄物の処分費用はその発生者が負担することとされています。廃棄物発生者である電力会社は、引当金として廃棄物処分費用を確保しています。
  • 再処理施設などを所有する原子力廃止措置機関(NDA)の放射性廃棄物については、その処分費用は英国政府の負担(国税で負担)です。地層処分の実施主体でもあるNDAは、将来に支出する地層処分費用を負債として英国政府に計上しており、2015年末での負債額を約143億ポンド(約1兆8,300億円)と算定しています。

処分費用の負担者

英国では、放射性廃棄物の発生者と所有者は、規制コストや自身、あるいは規制機関が行う関連研究のコストを含めて、廃棄物を管理・処分するコストを負担する責任があるとされています。また、放射性廃棄物の管理・処分に伴う債務をその発生前から見積っておき、それを満たす適正な資金を引き当てておかなければならないこととされています。


処分費用の確保制度

英国では、放射性廃棄物管理費用の確保のための公的な基金制度はありません。このため、英国で唯一の民間原子力発電事業者であるEDFエナジー社(2009年にブリティッシュ・エナジー社を買収したフランス電力の英国子会社)は、放射性廃棄物管理費用を引き当てています。2015年末時点では、12.9億ユーロ(約1,470億円)を引当金として確保しています。

新規原子炉の廃止措置及び新規原子炉から発生する放射性廃棄物の管理費用については、2008年エネルギー法により、原子力発電事業者が自らの負担分全額を賄うための確実な資金確保措置を講じることになっています。

一方、再処理施設や既に運転を停止したガス冷却炉を含め、原子力廃止措置機関(NDA)が所有する原子力施設の廃止措置費用や放射性廃棄物の管理費用は、NDAが行う地層処分事業の費用とともに、英国政府が負担(国税で負担)することになります。NDAは、それらの費用を負債として、英国政府に計上します。NDAは、廃止措置や廃棄物管理の事業を進めつつ、事業効率の改善を図ることで負債の圧縮を図ります。


処分費用の見積もり

地層処分場に関する将来支出額の推移見込み
地層処分場に関する将来支出額の推移見込み
source: NDA Annual Report and Accounts 2007/08

2007年4月に原子力廃止措置機関(NDA)は、2007年次会計報告書(2008年3月末)で地層処分場に関する費用見積りを公表しています。これによると、廃止措置なども含めた地層処分場に関する総見積費用(割引前の金額)は、2008年の価格で122億ポンド(約1兆5,600億円)です。このうち、NDA が支出する分は約83%(101億ポンド)、残りはNDA以外の処分場利用者が負担すべき金額としています。

NDA は2015年次会計報告書において、地層処分に関する費用を143億ポンド(1兆8,300億円)と算定しています。この算定額は、NDAが支出する将来費用を年あたり2.2%で割引した額です。(1ポンド=128円として換算)。



備考:通貨換算には、日本銀行の基準外国為替相場及び裁定外国為替相場のレート(平成28年12月中において適用)を使用しています。

  • 1英ポンド=128円として換算





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