目次

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英国 英国における高レベル放射性廃棄物処分

英国における高レベル放射性廃棄物処分

全体構成(章別)

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2. 地層処分計画と技術開発

2.1 処分計画

ポイント

  • 英国では、高レベル放射性廃棄物を含め、既存の浅地中処分場では処分出来ない放射性廃棄物を地層処分する方針です。地層処分場には、高レベル放射性廃棄物の他に、中レベル放射性廃棄物や一部の低レベル放射性廃棄物も併置処分することを想定しています。

地層処分対象の放射性廃棄物

[2] 既存の浅地中処分場では処分できない放射性廃棄物
既存の浅地中処分場として、NDAが所有するDrigg処分場(1959年から処分開始)があります。2007年に策定された低レベル放射性廃棄物管理政策では、一部の小規模事業者が採用できる可能性は残しつつも、原子力施設から発生する放射性廃棄物用には、新たな浅地中処分施設を設置しない方針です。

英国では、既存の浅地中処分場では処分できない放射性廃棄物を地層処分する方針です[2]。このため、現在、処分地の選定が進められている地層処分場では、高レベル放射性廃棄物以外にも、再処理施設や原子力発電所などから発生する放射性廃棄物も処分する計画です。

また、改良型ガス冷却炉から発生する使用済燃料の一部と加圧水型原子炉(1基)から発生する使用済燃料については、現時点では再処理する計画が未定であるため、これらを処分キャニスタに封入して地層処分する可能性も考慮しています。

さらに、核燃料として用いる濃縮ウラン以外の劣化ウラン、再処理で回収したプルトニウムやウランは、現在は放射性廃棄物に分類していませんが、将来において用途がないと決定した場合には、それらを地層処分することになると想定しています。

地層処分事業の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)は、確保すべき中間貯蔵施設や地層処分場の規模を検討するために、3年毎に英国内の放射性廃棄物のインベントリを評価しています。2013年4月時点のデータに基づき推定した、地層処分の対象廃棄物の総量見通しは下表のようになっています。

地層処分の対象廃棄物の総量見通し

種類 地層処分施設に定置する
廃棄物パッケージの体積
(レファレンスケース)
高レベル放射性廃棄物 9,290 m3
中レベル放射性廃棄物 456,000 m3
地層処分対象の
低レベル放射性廃棄物
11,800 m3
使用済燃料 * 66,100 m3
プルトニウム * 620 m3
ウラン * 112,000 m3
合計 656,000 m3

*: これらは現時点では廃棄物と認識されていません。
source: NDA Report no. NDA/RWMD/044 Generic Disposal System Technical Specification (2015)

処分形態

ガラス固化体と使用済燃料の処分パッケージ案
ガラス固化体と使用済燃料の
処分パッケージ案

source: NDA/RWMD/054

ガラス固化体と使用済燃料は、いずれも処分キャニスタに封入して処分する方法が検討されています。処分キャニスタの材質は、処分地の岩盤・地下水条件などによって変わりますが、銅-鋳鉄製のキャニスタと鋼鉄製キャニスタが検討されています。ガラス固化体の場合は3体を1つの処分キャニスタに封入します。また、PWR燃料集合体は4体、AGR燃料体は16体を1つの処分キャニスタに封入します。


処分場の概要(処分概念)

地層処分場の概念図
地層処分場の概念図
source: NDA/RWMD/054

英国政府が処分場のサイト選定を進めていますが、現時点では具体的な候補地が未定です。地層処分事業の実施実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)は、3種類の地質条件を仮定して、地層処分システムの基本概念設計の開発を進めています。

地層処分場の設置深度は地下200~1,000mの範囲が考えられています。技術検討段階での処分場概念では、①結晶質岩の場合には深度650mで処分キャニスタを縦置き、②堆積岩の場合には深度500mで横置き、③岩塩層の場合には深度650mで横置き―としており、様々な技術オプションを検討しているところです。

地下施設のレイアウト例(結晶質岩の場合)
地下施設のレイアウト例(結晶質岩の場合)
source: NDA/RWMD/030


処分事業の実施計画

英国政府は、2014年7月に高レベル放射性廃棄物等の地層処分施設の設置に向けた新たなサイト選定プロセス等を示した白書「地層処分-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み」を公表しています。2014年7月の白書において、英国政府は地層処分を実現するためのタイムスケールを以下のように示しています。

○ 約2年間:地層処分施設に関する情報を地域に提供
○ 15年から20年間:地域との協議、サイト調査、施設の設計及び計画立案
○ 100+α年間:地層処分施設の建設、操業、閉鎖

また、英国政府は、EU指令(2011/70/Euratom)に基づき作成した『英国における使用済燃料及び放射性廃棄物の責任ある安全な管理のための計画の設定』(2015年8月公表)において、地層処分施設の利用が可能となる時期について以下のように設定しています。

2014年白書サイト選定プロセス
2014 年7 月の白書『地層処分-高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み』
で示された新たなサイト選定プロセスの概略

英国のうち、イングランドと北アイルランドでは2014 年7 月の白書で示されたサイト選定プロセスが進められます。なお、ウェールズは2014年7月の白書策定には関与していませんでしたが、2015年12月にウェールズ政府は、英国政府と同様のサイト選定プロセスを採用する方針を示しました。ただし、ウェールズにおいてサイト選定プロセスを進める上では、ウェールズ固有の状況での対応が取られることになるため、必ずしも同一のサイト選定プロセスとはなっていません。
(参考:DECC, Implementing Geological Disposal. A Framework for the long-term management of higher activity radioactive waste (2014))


2.2 研究開発・技術開発

ポイント

  • 放射性廃棄物管理の実施主体である原子力廃止措置機関(NDA)は、2004年エネルギー法によって、地層処分を含む研究を実施することが決められています。地層処分の研究開発については、NDA の完全子会社で地層処分事業の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM 社)が実施しています。

研究機関

NDA のミッション・ステートメント

「原子炉の浄化と廃棄物管理の問題に対して、安全かつ持続可能で、国民に受け入れられる解決策を提示する。これは、決して安全性とセキュリティ面に妥協せず、社会的また環境面での責任を十分に考慮し、納税者の利益を常に優先し、ステークホルダーとの関わりを積極的に構築する。」
— 『英国の高レベル放射性廃棄物等の地層処分を支援するためのNDAの研究開発戦略』(NDA,2009年)より

英国における地層処分の研究開発は、地層処分事業の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM 社)が実施しています。RWM社は、地層処分システムの開発段階などを通じて必要とされた研究開発を実施していくとしています。

RWM社は、放射性廃棄物の長期管理に関する政府の政策を実施する責任を有する原子力廃止措置機関(NDA)の完全子会社であり、研究開発の資金はNDA が提供しています。


研究計画

科学技術研究の4分野と実施プロセス
科学技術研究の4分野と実施プロセスの関係

RWM 社は2016年5月に、地層処分に関する研究開発の概要を示した『科学技術プログラム』を公表しています。科学技術プログラムでは、科学・技術研究を下記のような4つの分野に分け、分野ごとに目標や主要な研究成果を示しています。

2016年の科学技術プログラムで示された研究成果は、地層処分施設の操業開始前までの期間を焦点としたものであり、地層処分施設の開発の進捗状況に応じて、定期的に科学技術プログラムをレビューし、更新するとしています。


地下研究所

英国には、現在のところ、高レベル放射性廃棄物処分の研究開発のための地下研究所はありません。RWM社が検討している処分事業の実施スケジュール案では、地層処分場の建設と平行して地下特性調査を行う予定としています。


地層処分の実施に向けた取り組み

ガラス固化体と使用済燃料の処分パッケージ案
「一般的な条件での処分システム・セーフティケース」報告書
(NDA、2010年12月)

英国政府は2008年の白書において、安全かつ持続可能であり、さらに公衆に容認される地層処分プログラムを実施するため、地層処分の実施主体である原子力廃止措置機関(NDA)に対し、環境アセスメントや持続可能性の問題を全体的に評価し、考慮するよう指示しています。また、環境規制機関(EA)などは、2009年2月に「地層処分施設の許可要件に関するガイダンス」を公表しました。このガイダンスでは、地層処分施設の開発者及び操業者に対して、地層処分施設が人間及び環境を適切に保護するものであることを立証するよう求めています。

英国政府は2014年の白書においても、人間及び環境の保護が確保される必要があるとしており、開発事業者(地層処分施設の実施主体である放射性廃棄物管理会社=RWM社)に対して、提案した施設のすべての側面に関する安全面での論拠を提示するよう求めています。RWM社は、地層処分施設がどのように安全性、セキュリティ及び環境保護に関する高度な基準を満たすのかを明示するために、セーフティケースを開発し、維持する必要があるとしています。

NDA及びRWMD(現RWM社)は2010年12月に、地層処分事業で行われる放射性廃棄物の輸送、処分場の操業及び長期安全性の3つを領域をカバーした一連の報告書「一般的な条件での処分システム・セーフティケース」を取りまとめています。これら報告書では、広範な環境及び処分場の設計を考慮に入れた処分概念の例を示しました。2014年の白書では、これら報告書及びIAEA の安全指針を、新たなサイト選定プロセスの初期活動(地質学的スクリーニング)の際に考慮に入れる必要があるとしています。





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