スウェーデンにおける高レベル放射性廃棄物処分
右の図は、スウェーデンにおける高レベル放射性廃棄物処分に係る実施体制を図式化したものです。環境省は原子力安全と放射線防護を所掌する省庁です。原子力活動法に基づき、地層処分場の建設、操業の許認可は政府が発給します。政府は政令を定め、法律―原子力活動法や放射線防護法―に基づく規制権限を「放射線安全機関」(SSM)に割り当てています。SSMは環境省が所管する中央行政執行機関[3]で、原子力安全と放射線防護の観点から監督を行い、安全規則の策定を行います。
環境省の下には1992年より、原子力発電所の運転や廃止措置などから発生する放射性廃棄物の問題について、独自の評価を行って政府や規制機関に対して助言を行う「原子力廃棄物評議会」が設置されています。
[3] 中央行政実行機関とは…
政府からは独立した組織です。スウェーデンの中央行政執行機関には、拘束力のある規則を自ら定めることや、事業者を直接監督できること等が法令で認められており、権限も委譲されています。
[4] 土地・環境裁判所とは…
土地・環境裁判所は政府の指定する地方裁判所内に設けられ、法律の専門家である裁判長と、環境問題の専門家である環境参事と専門委員2名の、合計4名で構成されます。土地・環境裁判所の役割は、環境の側面から環境に影響を及ぼす活動に関し審査を行うことです。
また処分場の建設及び操業には、原子力活動法と環境法典に基づく政府の許可が必要です。環境法典に基づく許可(環境に影響を与える活動の許可)の審査は、司法機関である「土地・環境裁判所」[4]が行います。ただし、最終処分場に関しては、土地・環境裁判所が許可を行う前に、政府がその可否を決定する必要があります。この政府の判断に対しては、地元自治体に拒否権が認められています。
スウェーデンにおいては、原子力発電所を所有、運転する電力会社が、原子力活動から生じる放射性廃棄物を安全に処分する責任を有することが原子力活動法で定められています。電力会社は、共同出資で処分事業の実施主体となるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)を1984年に設立しています。
SKB社は使用済燃料の集中中間貯蔵施設(CLAB:1985 年操業開始)や原子力発電所から発生した低中レベル放射性廃棄物の処分場(SFR:1988年操業開始。SFRはスウェーデン語の“運転廃棄物の処分場”の略語であり、原子力発電以外で発生した放射性廃棄物も処分している)の操業も行っています。
SSM発行の規則 (SSMFS)
スウェーデンにおける使用済燃料の処分に関係する安全規則は、環境省の下に設置されている放射線安全機関(SSM)が定めています。現在有効な規則としては、「原子力施設の安全性に関するSSM規則」(2008年)、「核物質及び原子力廃棄物の処分の安全性に関するSSM規則」(2008年)、「使用済燃料及び原子力廃棄物の最終的な管理に係わる人間の健康及び環境の保護に関するSSM規則」(2008年)があります。SSMは、それらの規則適用に関して、必要に応じて一般勧告という形式の規制文書を策定しています。
処分場の安全基準については、下の表のように、リスク値で規定されており、処分場閉鎖後において有害な影響(放射線による発癌など)が生じるリスクが、最大のリスクを受けるグループの代表的個人について10-6/年を超えないように設計しなければなりません。また、一般勧告では、安全評価の方法、評価期間、シナリオなどに関する指針が示されています。
安全基準 (処分場の防護能力の評価) |
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安全評価に関する一般勧告 | リスク基準の適用 |
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安全解析の期間 | |
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安全解析で評価するシナリオ | |
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スウェーデンにおいては、1981年に制定された資金確保法により、将来に必要となる放射性廃棄物管理全般の費用を賄うための基金制度が確立されました。基金の積立対象には、高レベル放射性廃棄物の処分費用のほか、中間貯蔵、中低レベル放射性廃棄物処分、及び原子力発電所の廃止措置費用が含まれています。費用の負担者である電力会社は、毎年政府が決定する拠出額に基づき、基金に対して拠出金を支払います。拠出金の額は、原子炉を40年運転する場合に発生する使用済燃料や放射性廃棄物を処分するために必要なコストをもとにして、原子力発電会社ごとに発電電力量1kWh当たりの単価として決定されます。
原子炉を運転する電力会社は、株主である親会社に原価で売電する卸電力会社です。このため、料金単価を上乗せした形で親会社に売電し、拠出金を「原子力廃棄物基金」に3ヶ月ごとに納付します。拠出金は国債などで運用されます。2015年末残高は593億クローネ(約7,120億円)です。
また資金確保法の1995年の改正により、基金への拠出とは別に、原子炉を40年以上運転する場合に発生する追加費用を電力会社が担保の形で預ける義務が導入されています。
原子力廃棄物基金の年度末残高推移(市場価格)
source: Kärnavfallsfonden, Activity Report 2016
プラン2016報告書(SKB社、2016年12月)
原子力廃棄物基金によって賄われる廃棄物管理費用全般の見積りは、電力会社の共同出資で設立されたスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)が3年ごとに行っています。現時点の最新の見積りは『プラン2016:原子力発電によって発生する放射性廃棄物の管理のために必要な2018年以降の費用』に示されています。
放射性廃棄物管理費用の内訳
source: SKB Plan2016
見積りの対象には、使用済燃料を含めた原子力廃棄物の管理・処分費用のほか、原子炉廃止措置も含まれています。これまでに発生したSKB社の研究開発費を含めて、原子力発電所の廃止措置及び廃棄物処分の費用は、総額約1,440億クローネ(1兆6,920億円)(2016年価格)、このうち2018年以降に発生する費用は980億クローネ(1兆1,176億円)と見積もられています。
高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)の
処分関連費用見積り
2017年までの 支出(累計) |
2018年以降での 発生見込み |
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キャニスタ封入 関連費用 |
7.3億SEK (88億円) |
153.1億SEK (1,837億円) |
地層処分場 関連費用 |
55.7億SEK (668億円) |
315.6億SEK (3,787億円) |
合計 | 601億SEK(7,212億円) |
金額は2016年価格。1SEK(スウェーデンクローネ)=12円で換算。四捨五入のため合計は合わない
source: SKB Plan2016
SKB社は、使用済燃料の最終処分だけでなく、その中間貯蔵も行っているほか、原子炉の運転と廃止措置で発生する低中レベル放射性廃棄物の処分、使用済燃料と原子力廃棄物の輸送のほか、これら全てに係わる研究開発も行っています。特に研究開発の費用は、使用済燃料とその他の原子力廃棄物で明確に区別できないため、使用済燃料の処分に要する費用だけを切り分けることができません。高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)の地層処分場関連費用とキャニスタ封入関連費用は右下の表のように評価されています。これらの金額を合計すると、使用済燃料約12,000トン(ウラン換算)の処分費用は601億クローネ(約7,212億円)となります。