スウェーデンにおける高レベル放射性廃棄物処分
スウェーデンで地層処分の対象となる高レベル放射性廃棄物は、主に原子力発電所から発生する使用済燃料です。使用済燃料は、右の図のように、外側が銅製、内側が鋳鉄製の2重構造のキャニスタという容器に封入して処分する計画です。外側の銅製容器が腐食に耐える役割を担い、約50㎜の厚さが考えられています。内側の鋳鉄製容器は外部からの応力に耐える役割を担います。
BWR燃料集合体を収納する場合、チャンネルボックスを付けた状態で最大12体収納します。使用済燃料の封入後の重さはキャニスタ1体あたり約24.7トンです。
PWR燃料集合体を収納する場合、その集合体に制御棒を挿入した状態で最大4体を収納します。使用済燃料の封入後の重さはキャニスタ1体あたり約26.8トンです。
処分実施主体のSKB社が検討している処分概念は「KBS-3概念」と呼ばれています。右下の図に示すように、使用済燃料をキャニスタに封入し、その周囲を緩衝材(ベントナイト粘土)で取り囲んで、力学的及び化学的に安定した岩盤内に定置する方法です。複数の人工バリアと天然バリアを組み合わせた多重バリアシステムにより、放射性廃棄物を長期に隔離し、隔離ができなくなった場合でも処分場からの放射性核種の放出を遅延させるという安全哲学に基づいています。キャニスタの定置方法について、SKB社は縦置き方式を主とて技術開発を進めてきましたが、フィンランドの使用済燃料処分の実施主体ポシヴァ社との共同で横置き方式の実現可能性も検討しています。
SKB社が地層処分を実施するためには、使用済燃料をキャニスタに封入する「キャニスタ封入施設」と、そこで製造したキャニスタを処分する「使用済燃料処分場」の2つの施設が新たに必要になります。
キャニスタ封入施設は、オスカーシャム自治体にある使用済燃料の集中中間貯蔵施設(CLAB)に併設し、CLINKという一体施設にする計画です。CLABでは、1985年からスウェーデンの全原子力発電所で発生した使用済燃料が地下のプールで貯蔵されています。
使用済燃料の処分場の建設予定地は、エストハンマル自治体のフォルスマルクです。既存の全ての原子炉が発電運転を終了するまでに発生する使用済燃料量に対応する約6,000本のキャニスタ(ウラン換算で約12,000トン相当)を、地下約500mの深さで処分する計画です。
最終的な地下施設全体の面積は約3.6km2、トンネルの総延長距離は約72km(処分坑道の長さは約61km)になります。地下施設は段階的に建設する計画であり、完成した処分坑道でキャニスタの定置・埋め戻しが実施され、平行して別の場所で処分坑道の建設が進められます。
スウェーデンは、ノルウェー、フィンランド、ロシア北西部などに広がっているフェノスカンジア盾状地と呼ばれる古い大陸性の地殻の上に位置しています。地層処分場の建設予定地であるフォルスマルクを含むスウェーデン南東部の岩盤は、19.5~17.5億年前(古原生代)に形成された結晶質岩です。約4~2.5億年前には、大西洋側のプレート運動の圧力によってノルウェーとの国境となっているスカンディナヴィア山脈が形成されるとともに、スウェーデン南東部の岩盤にも大規模な断層が生じました。また、約200万年前以降の新生代第四紀には、山脈の東山麓に氷河が何度も形成された跡が残っています。ウルム氷期として知られる最終氷期は約11万前から始まり、最盛期にはスカンディナヴィア半島全体が氷で覆われ、氷床の厚さは最大で3kmに達したと推定されています。この氷の重さのために地殻が沈み込み、スウェーデンとフィンランドの間にできた窪みが現在のボスニア湾にあたります。
氷床の成長・後退につれて岩盤にかかる荷重が変化するので、断層が動いて地震が発生することもあります。氷期が終わった約1万年前から現在まで、沈降した地殻が元に戻ろうとしてゆっくりとした隆起が続いています。現在のフォルスマルクは海岸に面していますが、紀元前8800年頃には海面下150mのところにあり、紀元前500年頃に陸地になりました。表層5~6mの土壌は、氷床の動きによって岩盤が侵食されて運ばれた氷成粘土や礫の堆積物です。
処分場の建設予定地であるフォルスマルクにも大規模な断層があります。そのような断層の近くでは、その動きによって結晶質の岩石が引きちぎられ、細かく破砕していますが、そのことによって一定以上離れた所の岩体は相対的に安定となり、レンズ状の塊となって残っている部分があります。そのような岩体は「構造レンズ」と呼ばれています。フォルスマルクの地下約500mのところには、これまでのプレート活動や氷床荷重の変動による影響を受けていない、構造レンズが存在することがボーリング調査で確認されています。使用済燃料の処分場は、このような構造レンズ内の結晶質岩に建設されます。
KBS-3概念に基づく使用済燃料の処分では、使用済燃料の「キャニスタ封入施設」と「最終処分場」が必要です。これら二つの施設は、それぞれ独立した施設としてSKB社が放射線安全機関(SSM)に許可申請をすることになります。しかし、両施設は互いに他方の存在を前提とした施設であることから、二つの許可申請の審査が一貫したものとなるようにSSMが調整を図ります。
2006年11月にSKB社は、キャニスタ封入施設をオスカーシャムにある使用済燃料中間貯蔵施設(CLAB)に隣接して建設する許可の申請を行いました。フォルスマルクの最終処分場については、2011年3月に立地・建設の許可を申請しました。
処分場の操業については、2030年から試験操業としてキャニスタを年間25~50本のペースで処分を開始し、その後徐々に処分ペースを増加し、通常操業(年間150~160本を処分)へ移行する計画です。
処分に関する研究は、実施主体であるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)が1970年代後半から実施しています。SKB社は、スウェーデンの国内外の大学、他の研究機関及び専門家と協力して研究・技術開発を進めており、約250人が研究活動に従事しています。主な研究施設としては、オスカーシャム自治体にあるエスポ岩盤研究所とキャニスタ研究所が挙げられます。
SKB社は2013年から、フィンランドの使用済燃料処分実施主体であるPosiva社と共同作業の立案を開始しており、双方の最終処分施設システムに共通する技術的解決策を生み出すことを目標として、共同研究を実施しています。SKB社とPosiva社は、キャニスタと緩衝機器の共同生産の可能性とともに、実際の建設プロジェクト(使用済燃料の封入施設と最終処分施設)での協力の可能性を調査しています。
SKB社は、1984年に制定された原子力活動法に基づいて、3年毎に研究開発計画書を作成しています。この計画書は、研究計画、処分事業計画も含む総括的なもので、SKB社は「研究開発実証プログラム」(RD&Dプログラム)と呼んでいます。計画書は、監督機関のレビューを受けた後に政府決定という形で承認を受けます。SKB社からRD&Dプログラムの提出を受ける規制機関は放射線安全機関(SSM)であり、SSMは、レビュー活動の一環として、県域執行機関(国の出先機関)、自治体、大学・研究機関、環境保護団体等さまざまな機関にコメントを求め、それらを取りまとめ、レビュー報告書として政府に提出します。また、政府の諮問組織である原子力廃棄物評議会も独立した評価を行います。
エスポ岩盤研究所の概要エスポ岩盤研究所の概要
source: SKB
オスカーシャム自治体のエスポ島には「エスポ岩盤研究所」という地下研究所があります。この研究所は、実際の地層環境での研究を目的としてSKB社が建設。地下約450mの深さに達する坑道を備えています。SKB社は、1986年に地下研究所設立の計画を明らかにし、1990年にこの計画に対する政府と自治体の許可を得ました。地下研究所の建設には約5年が費やされ、1995年から操業されています。この研究所での研究目的は、以下のような点があげられています。
この他に、岩盤の天然バリアとしての機能を把握するために地下水の挙動や、その化学組成に関する調査などが行われています。この研究所では、国際的な共同研究も多く進められており、今日では日本を含む合計7カ国がプロジェクトに参加しています。
地層処分の実施に向けたSKB社の活動
~サイト選定プロセスと安全評価のタイミング
1984年 | SKB社設立 |
1990年 | エスポ岩盤研究所の建設開始 |
1992年5月 | 『SKB91-安全における母岩の重要性』 |
1992年9月 | 『研究開発実証プログラム1992』を取りまとめ、サイト選定プロセスを公表 |
1993~2000年 | フィージビリティ調査(文献調査に相当) |
『SR 97 -閉鎖後の安全性』 | |
2000年12月 | 『研究開発実証プログラム1998 の補足』において、サイト調査候補地の選定結果を政府に提出 |
2001年11月 | 政府がSKB 社のサイト調査候補地の選定結果を承認。その後、3候補地の所在自治体で調査受け入れに関する議決(2自治体が可決、1自治体が否決) |
2002~2009年 | エストハンマルとオスカーシャムの2自治体でサイト調査を実施(地表からの調査) |
2006年1月 | 『SR-Can -フォルスマルク及びラクセマルにおけるKBS-3 概念処分場の長期安全性-最初の評価』 |
2009年6月 | サイト調査結果から、地質条件の優位性を主たる理由として、エストハンマル自治体のフォルスマルクを処分場建設予定地に選定 |
2011年3月 | 『SR-Site -フォルスマルクにおける使用済燃料処分場の長期安全性』、地層処分場の立地・建設許可申請書を提出 |
今後の予定 | ・地層処分場の予備的安全報告書を更新 ・処分場の建設と詳細特性調査 ・処分場の操業申請 ・使用済燃料の処分開始(2029年頃を予定) |
実施主体であるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)は、研究開発のなかで処分場の長期安全性を評価する方法の開発を継続的に進めています。これまでにSKB社は安全評価の取りまとめを、サイト調査の候補地を選定する前(フィージビリティ調査の実施期間内)、ならびに詳細特性調査の候補地1カ所を選定する前(サイト調査の実施期間内)に実施しています。これらの安全評価を実施する目的の一つは、サイト選定プロセスにおける自治体や関係機関の意思決定に役立てることです。このことは、SKB社が3年ごとに取りまとめる「研究開発実証プログラム」の規制機関及び政府による審査・承認のサイクルを通じて決定されました。なお、政府は1995年5月に、詳細特性調査は処分場建設の一部であるとの見解を示しており、詳細特性調査の候補地1カ所を選定する前の安全評価は、処分場の建設許可申請に必要となる安全評価として位置付けられています。
SKB社が実施するこれらの処分場の長期安全性の評価結果は「安全報告書」(SR)として取りまとめられています。この報告書は規制機関に提出され、「研究開発実証プログラム」の場合と同様にレビューを受けます。規制機関は、原子力廃棄物評議会や他の行政機関、サイト選定に関係する調査が実施されている自治体などから意見を収集するとともに、それらを踏まえた意見書を政府に提出します。