TSPA-LA (米国)
(ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可申請書 安全解析書: 2008年)
安全評価はどのように行っているのですか…
TSPA(=Total system performance assessment)
トータルシステム性能評価とは、処分システムの多重バリアのバリアごとに安全性の閾値を設けるのではなく、処分システム全体で安全性を評価するアプローチ手法である。米国のユッカマウンテン最終処分場の場合、具体的な実施方法がNRCの規則によって規定されている。ユッカマウンテン最終処分場の安全評価においては、トータルシステム性能評価は、様々な条件の範囲にわたり処分システム全体の長期的な性能の定量的な見積りを行う一種の計算ツールの側面をもっており、サイトデータ及び物質試験データ、さらに広範囲に受け入れられた物理的、化学的原理に基づく複数の数値モデルの集合体を表している。TSPAモデルの開発には、処分システムの挙動に適用可能な、起こり得る全てのFEPのリストを編集し、選定されたFEPは幾つかのシナリオ・クラスに分類される。線量の見積りは、モンテカルロ法による確率論的手法によって計算され、線量の結果も確率論的に取り扱われる。
トータルシステム性能評価(TSPA)においては、処分場において起こりうる事象やプロセスの発生の可能性とその確率、線量への影響度、評価の信頼性(不確実性)を評価するために、ユッカマウンテンサイトにおける特徴、事象、プロセス(FEP)を検討している。
処分システムの長期的性能に関連する可能性があるFEPのうち、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)の国際FEPデータベースのFEPリストの活用、初期FEPを特定するための専門家を交えたブレーンストーミング、プロジェクト特有のFEPを特定するための一般的論理ダイヤグラムの作成、国際FEPデータベースと関連付けるためのFEPの再検討により、374のFEPで構成される許認可申請用の包括的FEPリストを作成している。
包括的FEPリストから、連邦規則10 CFR Part 63の規定によって発生確率、影響度に基づきFEPをスクリーニングし、シナリオクラスに集約するとともに、更にそれらをスクリーニングすることにより最終的なシナリオクラスを設定している。
閉鎖後の個人防護基準を考慮したシナリオクラスは、以下のように分類されている。初期破損シナリオクラス及び2つの破壊事象シナリオクラスは、事象の発生に注目して、各シナリオクラスが2つのモデル化ケースに区別されている。また、通常シナリオクラスは破壊的事象もしくは初期破損事象が発生しない場合の性能を記述する通常モデル化ケースと呼ばれている。シナリオクラスとその下位のモデル化ケースの一覧を以下に示す。
人間侵入に対する個人防護基準の遵守に関しては、10 CFR Part 63に様式化したシナリオが規定されている。具体的には、水資源開発のための探査ボーリングが処分場の存在を知らずに実施され、ドリップシールドと廃棄物パッケージを貫通することとし、ボーリング孔が注意深く密封されずに劣化して、処分場よりも深い位置に存在する飽和帯に廃棄物パッケージから放出した核種が移行するとして評価することとなっている。
地下水防護基準の遵守に関しては、10 CFR Part 63で示される要件に基づいて、地下水中の溶存物質は10,000mg/L未満であり、3,000 acre-feetの水量でユッカマウンテン処分場からの移行経路上の代表的な地点(施設下流端から18km)を仮定して評価している。予測不能な事象として、廃棄物パッケージの早期破損、ドリップシールドの早期破損(1個もしくはそれ以上の破損確率:0.0166)、地震(発生確率:10-5から4.3×10-4回/年)がモデルケースで検討されている。
トータルシステム性能評価(TSPA)モデルは、
の3つのバリアに関連した特徴、特性、プロセス及び生物圏に関連するモデル群で構成される。TSPAに含まれるモデル群を下表1に示す。ユッカマウンテン処分場での核種放出に係る地下水の起源は、砂漠地帯の僅かな降雨浸透であり、上部天然バリアに含まれる地形や不飽和帯等には浸透した雨水の流れを制限する機能があると考えられている。人工バリアシステム内では廃棄物パッケージからの核種放出が生じ、人工バリアシステムを通過した核種は、不飽和帯中を下側の地下水面まで移行し、更に飽和帯中を移行し最終的に処分場の南18kmのアマルゴサバレーの接近可能環境に浸出すると仮定されている。
バリア | 上部天然バリア | 人工バリアシステム(EBS) | 下部天然バリア |
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モデル | 浸透モデル | 坑道の劣化と落石 | サイトスケールの不飽和帯の流動モデル |
サイトスケールの不飽和帯の流動モデル | ニアフィールドの化学的性質のモデル | サイトスケールの不飽和帯の流動モデル(※) | |
環境漏出モデル | マルチスケールの熱―水文学的モデル | サイトスケールの不飽和帯の移行モデル(※) | |
熱―水文学的漏出モデル | 坑道内の凝結モデル | ||
坑道内の物理的及び化学的環境 | |||
ドリップシールドの劣化と早期破損モデル | |||
廃棄物パッケージの劣化 | |||
パッケージ内の化学的性質 | |||
民間の使用済燃料(SNF)の劣化モデル | |||
DOEの使用済燃料(SNF)の劣化モデル | |||
高レベル放射性廃棄物(HLW)ガラスの劣化 | |||
溶解度制限 | |||
コロイド化した放射性核種の量 | |||
EBSの流動と移行モデル |
(※)下部天然バリアの飽和帯の流動及び移行モデルは、TSPAでは直接的には実行しないが、TSPAで実施される核種濃度の経時的変化を計算する際に使用する
TSPAにおける不飽和帯流動モデルの抽象化は、二重間隙モデルを適用したサイトスケールの3次元地下水流動解析モデルによって生成される16個の定常流動場からなる。現在から1万年間の期間については、以下の3種類の気候条件を考慮し、それぞれ正味の浸透量の確率論的評価の代表的4パターン(リアライゼーションの10、30、50、90パーセンタイル)から12個の定常流動場を設定している。
1万年以降の期間については、正味の浸透量の評価はせず10 CFR 63.342(C)(2)で規定される深部浸透フラックス(浸透フラックスの平均価13~64mm/yの対数正規分布)を用い4種類の定常流動場を設定している。
民間の使用済燃料は、燃料マトリクスの劣化、溶解速度に従う核種放出を想定し、DOEの使用済燃料のうち海軍の被覆管を含む使用済燃料はTSPAでは保守側に民間の使用済燃料パッケージと同じ取扱いとしているが、その他のDOEの使用済燃料は保守側に瞬時放出を仮定している。また、ガラス固化体については、ガラスの調和溶解による核種放出を設定している。
廃棄物からの核種放出は、坑道内に地下水が到達後直ちに開始されるのではなく、不飽和帯中の処分坑道で生じる、キャピラリーバリア効果と核種の崩壊熱による蒸発により放出開始時期が遅れると考えている。初期過渡期の環境は、①崩壊熱による高温期、②坑道壁の温度が水の沸点以下となる移行期間、③坑道壁と廃棄物パッケージの温度が更に低下し、局部腐食が発生しなくなる状態までに達する期間(~12,000年)の3段階があり、①の段階でも処分場のレイアウト次第で数百年~数千年以上続くと予想している。人工バリアシステム内の核種移行では、核種の溶解度制限、移流・拡散、遅延、コロイド状核種の移行を考慮している。
下部天然バリアにおける不飽和帯流動については、上部天然バリアと同じものが用いられている。処分場から接近可能環境までの飽和帯流動は、処分場下側の火山岩中は二重間隙モデル、沖積層と渓谷堆積物については多孔質媒体モデルを適用している。
飽和帯中の核種移行では、移流・分散(分子拡散を含む)、火山岩中のマトリクス拡散、核種の吸着、コロイド状核種の移行、核種の崩壊・連鎖が考慮されている。
生物圏モデルは処分場を起源とし生物圏に至る放射性核種の移行を追跡し、地下水や火山灰が混ざった表土に含まれる単位放射性核種濃度あたりの合理的に最大の被ばくを受ける個人(RMEI)の年間放射線量(生物圏線量換算係数BDCF)を推定する。生物圏モデルは、ユッカマウンテンサイト周辺地域の生物圏システム、及び関連する化学プロセス、物理プロセス、生物学プロセスを記述する包含FEPを使用し参照生物圏(レファレンスバイオスフェア)、および生物圏モデルで放射線学的影響を受けるものとして描写されるREMIを定義することにより構築されている。参照生物圏やREMIの定義には、ユッカマウンテンサイトの南側にある接近可能環境に隣接するアマルゴサバレーの住民の食生活や生活様式の特性が利用されている。TSPAモデルは生物圏モデルから得られる生物圏線量換算係数と地下水と表土の核種濃度から個々の保護基準の遵守を評価するのに必要な潜在被ばく経路(摂取、吸入、外部放射線)の予測年間合計線量を計算する。
評価には、不確定な入力変数を任意にサンプリングし、その結果に基づいて全てのサブモデルに対応する解析コードの計算を実施することにより、概念モデルを統合して管理するGoldSimコードが用いられている。サブモデルには、例えば不飽和帯の移行に用いるFEHMコード、廃棄物パッケージの劣化現象を取り扱うWAPDEGコードなどの外部サブルーチンを動的DLLとして参照することができる。 GoldSimの計算結果から年間線量曲線の計算には、EXDOC_LAが用いられている。年間線量は、例えば平均値及び中央値の年間線量曲線として出力される。
TSPAでは、偶発的不確実性と認識論的不確実性の2種類の不確実性を取り扱っている。偶発的不確実性は追加データや知見の取得によって低減できない不確実性であり、認識論的不確実性は不変と考えているパラメータや確率分布の知識不足から生じる不確実性である。偶発的不確実性は解析者の努力によって対処が不可能な不確実であり、認識論的不確実性は必ずしも可能でないにしても不確実性に対処できる可能性が存在する不確実である。
確率論的手法を用いるTSPAでは、不確実性を考慮したモデルを使用する、または偶発的不確実性も認識論的不確実性も事象の発生確率やパラメータの確率密度関数として入力することにより線量評価に取り込み、線量評価の結果である年間線量曲線は不確実性の信頼区間を考慮して表記される。認識論的不確実性は、データの入力において直接的に線量評価に取り込まれる。一方、偶発的不確実性については確率や度合いの分布範囲を超えない保守側の設定をすることにより線量評価に取り込まれる。
10 CFR 63.114(a)(2)節では、TSPAでの入力パラメータは、データの不確実性と変動性を適切に取り扱って設定されることが規定されており、品質保証の一環として、
を重点においた技術レビューを実施し、「トータルシステム性能評価モデル/許認可申請のための解析」報告書に文書化している。この技術レビューでは、モデルの抽象化に関する事項も含まれている。また、TSPAコードの妥当性については、データベースに入力されたモデル、データの検証、TSPA内部でのサブモデル、抽象化の実行の検証について解析コードが検証されている。