SR-Can (スウェーデン)
(SR-Canプロジェクト:2006年)
どのような廃棄物を、どのような場所に、どのような方法で処分する場合の安全評価なのか…
対象廃棄物はスウェーデンの原子炉から発生する使用済燃料であり、1999年と2005年に運転を停止したバーセベック1号機と2号機を除き、全ての原子炉の運転期間を40年間とする使用済燃料の総量は9,300トンと推定されている。SR-Canの評価では、将来的なスウェーデンの原子力プログラムの見通しをもとに、6,000体のキャニスタ(約12,000トンの燃料相当)を収容する処分場を想定している。
使用済燃料はキャニスタに封入して処分される。キャニスタは、鋳鉄製インサートと銅製アウターシェルの二重構造である(長さ約4.8m、直径1.05m)。アウターシェルの厚さは5cmである。インサートは BWR 用と PWR 用の2種類が検討されており、BWRの場合は12体、PWRの場合は4体の燃料集合体を収納する。
SKB社は、2002年よりスウェーデン南東部のフォルスマルク(エストハンマル自治体)とラクセマル(オスカーシャム自治体)の2カ所でサイト調査(地上からのボーリング調査を含む)を行っている。SR-Can安全評価は、これら2つの処分場候補地を対象として、サイト調査の初期段階で取得した地質データを用いて実施された。
フォルスマルクとラクセマルのいずれの候補地とも、フェノスカンディアと呼ばれる古い大陸性の地殻の上に位置しており、岩盤は19.5~17.5億年前(古原生代)に形成された結晶質岩である。
サイト調査の結果は「サイト記述モデル」(SDM: site descriptive model)として、“SDM報告書”にまとめられている。SDMはサイト及びその地域の環境を記述したものであり、地圏及び生物圏の現状、並びにこれらの長期挙動に影響を与える進行中の自然現象をカバーしている。SDMは、サイト調査プログラムの進行に合わせて段階的に開発される。SR-Can安全評価で用いるデータは、SDM Version 1.2の段階で得られたものが使用された。
処分概念は、鋳鉄製インサートを有する銅製キャニスタに使用済燃料を収納して縦置きで定置し、その周囲をベントナイトで取り囲む人工バリア構成をもつ“KBS-3処分概念”に基づいており、キャニスタは地下500mの母岩中に処分する。KBS-3処分概念のバリエーションとして、キャニスタを縦置きで処分する方式(KBS-3V)と横置きで処分する方式(KBS-3H)がある。
SKB社は、キャニスタを縦置きで処分する方式(KBS-3V)を第一候補としている。この方式では、処分坑道の床面から下方向に掘削される“処分孔”内にキャニスタを定置する。SR-Can安全評価は、縦置きで処分する方法の安全評価を行っている。SR-Can安全評価における処分孔の設計では、キャニスタの側面周囲には35cmの厚さのベントナイト緩衝材が設置される(Figure 4-4)。
SR-Can安全評価では、処分場の地下施設レイアウトとして“Layout D1”を用いている。Layout D1は、サイト記述モデル SDM version 1.2のデータに基づいて、処分坑道の掘削方向や処分孔の設置位置を検討したものである。サイト調査の初期段階で得られたデータのみを使用して検討されたものであるため、SR-Can安全評価の結果をフィードバックして更に検討が進められる段階のあるレイアウト設計である。地下施設の設計作業は、SR-Can安全評価作業と平行して進められており、SR-Can安全評価時点での検討結果は以下の報告書として取りまとめられている。
安全評価の形式、内容、並びに処分場の安全性を判断する基準は、原子力発電検査機関(SKI)と放射線防護機関(SSI)の以下の規制文書(規則と一般勧告)に定められている。
安全評価の指標となる線量はSSIの規則(SSI FS 1998:1)に規定されており、人間の健康の防護について「閉鎖後における有害な影響の年リスクは、最大のリスクに曝されるグループの代表的な個人の場合で10-6を超えない」とするリスク基準の遵守によって実証されなければならないとされている。「有害な影響」は発癌と遺伝性欠陥のことを意味し、放射線被ばくの結果として生じる有害な影響の確率は、国際放射線防護委員会(ICRP)が1990年に発行したPublication 60で示されている確率を用いて計算することをSSI規則で定めている。
SSIの一般勧告(SSI FS 2005:5)では、ICRP Publication 60(1990年)に示されている、実効線量をリスクに換算するための係数は1シーベルト当たり7.3%であることが述べられている。この係数を用いると、10-6/年のリスク限度は約1.4×10-5Sv/年(14μSv/年)の実効線量に相当することになる。
SSIの規則と一般勧告によると、以下に示すリスク解析・線量評価の結果を示すことが必要である。(※SSI FS 1998:1及び2005:5では処分事業者が提示すべき各解析・評価を指す特別な略号は使われていないが、このページの説明では便宜上A1~A3と表記している。)
リスク解析を行う期間について、SSIは「使用済燃料または他の長寿命原子力廃棄物の処分場については、十分に予測可能な外的影響を例証するために、リスク解析は少なくとも約10万年、または氷期1サイクルに当たる期間を含むべきである」とし、「リスク解析の期間は、最大でも100万年とし、処分場の防護能力の改良可能性についての重要な情報をもたらす限りの期間まで拡張されるべきである」と勧告している。
リスク基準の適用についてSSIは、10万年(大まかな目安であり、氷河作用などが処分場の防護能力を例証できるような形で選択されるべき年数)以降では、「個人リスクに関する基準に対して、計算されたリスクの値を厳格かつ定量的に比較することは意味をなさない」としている。
SKIは一般勧告(SKIFS 2002:1)において、「安全評価におけるシナリオは、外部条件と内部条件の組み合わせが処分場の性能にいかに影響するかの記述から構成される」という考え方を示している。
このような考え方により、SKIは一般勧告において、“処分場の性能に重要な影響をもつ様々なシナリオ”は以下の3つのカテゴリ(※SKIFS 2002:1では各カテゴリを指す特別な略号は使われていないが、このページの説明では便宜上S1~S3と表記している。)に分類されるとしている。
この分類は、処分場の安全性立証における各シナリオの扱われ方・性質を解説したものであり、個別具体的なシナリオを定めたものはない。逆に言えば、SKIは処分事業者に対し、各カテゴリに属するシナリオの具体的内容、安全性立証において当該シナリオを採用する理由(つまり、3カテゴリのいずれかに割り当てた、その理由)を説明することを求めている。
«SKIFS 2002:1の一般勧告より»主要シナリオは、外部条件の予測される変遷に、及び内部条件に関する現実的な想定に、またはそうする理由がある場合には悲観的な想定に、基づくべきである。その将来の外部事象については、安全評価の対象期間における発生確率が非常に高いか、または発生確率が低いことを示すことができないものから構成されるべきである。更に、その内部条件については、製造上の欠陥及びその他の不備の発生に関する根拠ある想定を含めて、可能な限り、信用できる仮定(credible assumptions)に基づいたものであるべきであり、このことによって処分場のバリア機能の解析が可能となる(例えば、廃棄物容器が長期間、密封されていることを常に前提とすることは、たとえこのことが最も確率が高いことを示すことができるとしても十分でない)。主要シナリオは、不確実性がいかに影響するかの解析の出発点として使用されるべきであり、このことは、主要シナリオの解析にもかなり数の計算ケースが含まれることを意味する。
«SKIFS 2002:1の一般勧告より»発生確率の低いシナリオは、シナリオの不確実性の評価のために用意されるべきである。これには、主要シナリオにおける事象の進展が異なるバリエーションのほか、バリアが損害を受けるような将来の人間活動を考慮したシナリオ(処分場に侵入する人間が受ける損害は、下記の「残余シナリオ」で例証される)が含まれる。発生確率の低いシナリオの解析においては、主要シナリオの枠内で評価されないような不確実性の解析が含まれるべきである。
«SKIFS 2002:1の一般勧告より»残余シナリオには、とりわけ個々のバリア及びバリア機能の重要性を例証するために、確率とは無関係に選択されて調査される事象の進展及び条件が含まれるべきである。残余シナリオには、処分場に侵入する人間が受ける損害を例証するケースのほか、閉鎖されていない処分場が監視されずに放置された結果を例証するケースも含まれるべきである。