Posiva Safety Case 2009 Interim (フィンランド)
(セーフティケース中間概要報告書2009:2010年)
安全評価の結果はどのように示されるのですか…
ポシヴァ社によるシナリオ解析は「決定論的」アプローチを採用している。すなわち、評価シナリオで示された放射性核種の放出による放射線学的影響は、それぞれのシナリオに関して計算ケースの範囲を保守的に設定することによって評価している。シナリオ解析には次の作業が含まれている。
注意
中間概要報告書の時点における安全解析では、キャニスタ1体の破損する事象だけを扱っていることに注意しなければならない。ポシヴァ社は、複数のキャニスタ破損が生じる事象の評価における扱い方は、今後の検討事項としている。
ここでは、ポシヴァ社の『セーフティケース中間概要報告書2009』における安全評価の実施状況について、次の3つについて整理している。
処分場評価シナリオにおける、基本処分場計算ケース「Sh1」の解析の概要について以下に示す。
Sh1はキャニスタ欠陥シナリオDCS-IIの一つであり、処分場閉鎖直後(t=0)においてキャニスタ1体に1mmの貫通孔が存在していること、イオン強度が低い低濃度/汽水組成の地下水条件と、地下水流動が初期状態の条件(移行抵抗WL/Q=50000 yr/m)を想定した計算ケースである。
図16は代表的な重要核種について、ニアフィールドとファーフィールド(地圏)の放出率(単位:Bq/年)の経時変化を示したものである。同図の左図がニアフィールド、右図がファーフィールドの放出率である。Ni-59(上図の赤実線)やSr-90(下図の赤実線)などの短寿命核種や媒体への収着性が高い放射性核種が大きく減衰するのに対し、C-14(上図の青実線)、Cl-36(上図緑実線)、I-129(下図緑実線)などの長寿命かつ媒体への収着性が低い放射性核種の減衰がはるかに弱いことを示している。後者の放射性核種は、後述の線量評価(生物圏計算ケース)での支配核種となっている。
フィンランドの安全規制では、「人々が被ばくする放射線量を十分に確からしく評価できる期間」(少なくとも数千年間)では “年間線量拘束値” の規制規準を用いている。この期間以降の評価期間では、地圏から生物圏に漏出する放射性核種の平均放出率に対する拘束値(放出量拘束値)を規制規準として用いている。「処分場評価シナリオ」の解析は、後者の規制規準「放出量拘束値」に対する適合性の評価に対応する。
ポシヴァ社は、処分場計算ケースで算出した各核種の年間放出量(フラックス)の放出量拘束値に対する比(核種放出比)を算出し、その経時変化を示すことで規制拘束値との比較を行っている。ポシヴァ社は、各核種放出比を計算対象の全核種について合計した値を「総放出比」と呼んでいる。
STUKの指針(案)では、Cl-36、C-14、Cs-135、I-129、Ni-59の放出量拘束値を、それぞれ、0.3、0.3、0.3、0.1、30(GBq/年)としている。核種放出比と総放出比はいずれも1以下でなければならない。
中間概要報告書におけるポシヴァ社の評価提示例として、基本処分場計算ケースSh1での重要核種の「核種放出比」と「総放出比」の経時変化を図17に示す。また、中間概要報告書のTable 7-3では、総放出比のピーク出現年とピーク値、上位3核種の核種放出比のピーク値(各核種のピーク出現年は異なることに注意)が示されている。
図18 2009年のKBS-3V安全解析において実施された欠陥キャニスタシナリオ、岩石せん断/地震シナリオ、緩衝材劣化シナリオ、ガスの影響を受ける放出シナリオで選択されたケースの総放出比の最大値と総放出比の発生時期
ポシヴァ社は、様々な処分場評価シナリオに対して選択・設定した処分場計算ケースについて、総放出率比の最大値と発生時期をプロットした結果を図18のように示している。放出率比の最も高い値は、岩石剪断/地震シナリオ(AD-I)の計算ケースRS1において発生する。計算ケースRS1では1000年後に定置孔を横切る剪断運動がおこり、キャニスタが破損する。地下水組成は低濃度/汽水であるが、地下水流動は高い流量条件(移行抵抗WL/Q=5000 yr/m)となっている。この「What-If」ケースにおける総放出率比最大値3.1×10-2(上表参照)においても、図18にあるように、規制ガイドライン(「1」)より低い値となっている。
しかしながら、RS1の計算ケースにおいてもキャニスタ1体の破損だけを考慮したものに過ぎない。ポシヴァ社は、複数のキャニスタ破損が生じる事象に関しては、今後の検討事項としている。
Figure 7-3 of BSA-2009 1) 西暦10020年時点の生物圏オブジェクトの配置
注)生物圏オブジェクトの色分けの凡例はBSA-2009 Fig.7-2を基に追記している。(マップはJani Helin(ポシヴァ社)及びThomas Hjerpe(S&R社)による)
ランドスケープ・モデルを用いた線量評価では以下のことが考慮される。
ランドスケープ・モデルでは、生物圏オブジェクトの配置点に居住・生活する人々の人数を、そのオブジェクトの種類(耕作地、沿岸など)に応じて割り当てる。このことにより、生物圏への核種放出率の時間的変化(処分場評価シナリオの解析結果)だけでなく、ランドスケープ(地表景観)が時と共に変化するにつれ、最大被ばくグループが存在する場所が変化することも考慮可能となっている。
生物圏計算ケースでは2種類のランドスケープ線量(EgroupとEpop)を算出する。
処分場評価シナリオDCS-IIの2つの処分場計算ケース「Sh1」と「Sh4Q」で算出した“ファーフィールド核種放出率“の経時変化データをランドスケープ・モデルのインプットとして用いた解析例として、ポシヴァ社は Figure 7-7(Egroupの評価例)と Figure 7-8(Epopの評価例)を提示している。
中間概要報告書でポシヴァ社が示している評価結果から整理すると、処分場パネルA、B、Cから漏出した核種による、ランドスケープ線量の最大値(※評価期間は約1万年であることに注意)、最大値の発生年、最大値で被ばくを受ける人数は以下のようになっている。
生物圏への 核種放出率の 計算ケース名 | Egroup | Epop | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
最大値 | 発生年 | 人数 | 最大値 | 発生年 | 人数 | |
(mSv/年) | (西暦) | (名) | (mSv/年) | (西暦) | (名) | |
パネルA | ||||||
Sh1 | 7.9×10-7 | 11920 | 50 | 1.2×10-7 | 3970 | 3,269 |
Sh4Q | 1.4×10-5 | 6570 | 50 | 4.7×10-6 | 3970 | 3,269 |
パネルB | ||||||
Sh1 | 1.6×10-6 | 11870 | 50 | 2.0×10-8 | 12020 | 5,309 |
Sh4Q | 1.2×10-5 | 11820 | 50 | 2.0×10-7 | 3570 | 3,299 |
パネルC | ||||||
Sh1 | 3.9×10-6 | 11870 | 50 | 2.9×10-8 | 3570 | 3,299 |
Sh4Q | 3.1×10-5 | 11820 | 50 | 4.5×10-7 | 3920 | 3,272 |
※(上表は、BSA-2009のTable 7-6, 7-7, 7-8 から整理したもの。)
フィンランドの安全規制では、「評価期間のうち、人々が被ばくする放射線量を十分に確からしく評価できる期間であって、かつ少なくとも数千年にわたる期間(several millennia)」については、線量拘束値による基準が適用される。この線量拘束値は、以下のように2つの被ばくグループについて規定されている。
上記2つの線量拘束値の基準について、生物圏計算ケースで算出している2種類のランドスケープ線量(EgroupとEpop)が対応する。
中間概要報告書におけるポシヴァ社の評価提示例として、様々な生物圏計算ケースのランドスケープ線量算出値(EgroupとEpop)と線量拘束値の比較状況を 右図(Figure 10-1と 10-2)に示す。
これらの図では、EgroupとEpopの計算値は、処分場パネル別に算出されていること、生物圏への核種放出量はキャニスタ1体のみで評価していることに注意する必要がある。
中間概要報告書の中では、人間侵入シナリオの定量的な評価はしていない。このシナリオの評価は、ポシヴァ社は2012年までに生物圏評価の一部として実施する予定であるとしている。
ポシヴァ社は、「将来の人間活動の性質に関する、さらに科学技術の最新レベルの変遷に関する不確実性は大きいものとなるため、人間侵入シナリオの発生確率及び影響はともに “様式化された仮定” に基づいたものにならざるを得ない」とし、「この様式化された仮定は、全面的な立証を行うことも、最大限に保守的であることを示すこともできない」としている。