Posiva Safety Case 2009 Interim (フィンランド)
(セーフティケース中間概要報告書2009:2010年)
安全評価はどのように行っているのですか…
ポシヴァ社の『セーフティケース中間概要報告書2009』は、セーフティケース全体(主要結果を含む)を記述する「概要報告書」の構成案を例示したものである。中間概要報告書の構成は、セーフティケース・ポートフォリオの構成に準じており、右図のようになっている。
『セーフティケース中間概要報告書2009』の取りまとめ時点では、ポシヴァ社は同社独自のFEPデータベースを作成していない。ポシヴァ社は中間概要報告書2009において、「FEPデータベース報告書」(2010年取りまとめ予定)において、事象及びプロセスに加えてシステム特性を記述する方針としている。FEPがすべて含まれていること(網羅性・完全性)は、「FEPデータベース報告書」でチェックする予定としている。
ポシヴァ社は「FEPデータベース報告書」を、セーフティケース・ポートフォリオの「プロセス報告書」(2011年前半に発行予定)を支援する文書と位置づけている。
中間概要報告書では、FEPを「安全機能に寄与する主要バリアの鍵となる特性」と「潜在的に有害なFEP」に分けて文書化している。人間侵入についてポシヴァ社は、意図的なもの、偶発的なもののいずれによっても、処分場の安全機能が損なわれる可能性があるとしているが、偶発的な人間侵入だけをセーフティケースの対象とする見解である。
処分システムの変遷は、当該システム内部と外部のFEP(特に、気候面での事象とプロセス)の影響を受けるものであり、その全てが不確実性を伴う。こうした不確実性と関連して、処分システムに将来起こりうる変遷を記述するシナリオを作成する。
『セーフティケース中間概要報告書2009』の取りまとめ時点では、規制当局である放射線・原子力安全センター(STUK)が、あらゆる放射性廃棄物の処分に適用する詳細安全規則(以下では「新規則案」という)の策定検討を進めている。ポシヴァ社は『セーフティケース中間概要報告書2009』において、新規則案への対応を図る上で必要となるシナリオを以下の3つに整理している(図7)。
上記のシナリオ分類の整理に基づいてポシヴァ社は、核種移行解析や被ばく線量の評価に用いるシナリオは(新規則案で言われる)擾乱シナリオに分類されるものだけであるとしている。このため、安全評価に用いるシナリオを「評価シナリオ」(Assessment scenarios)と総称し、シナリオを用いて何を評価するかの観点から、以下の3つのシナリオに分類している。
処分場評価シナリオは、処分場内部と外部で発生する潜在的に有害なFEPに伴う不確実性の結果として、放射性核種の放出に至る処分場の変遷として想定可能な初期状態とその後のプロセスを取り扱うものとして開発する。これらのシナリオは一般に発生確率の低いものであるが、一部には発生確率がまだ明確になっていないものもある。
処分場評価シナリオには、以下の表に示すシナリオが含まれる。
処分場評価シナリオ |
---|
欠陥キャニスタシナリオ (Defective canister scenarios) |
DCS-I:貫通欠陥が処分後10000年に発生する(設計寿命の1/10に相当する) |
DCS-II:貫通欠陥が処分時点(t = 0)で存在する |
補足的なシナリオ (Additional scenarios) |
AD-I:地震/岩石剪断:定置孔を横切る亀裂に突然変位で生じた結果として、キャニスタが破損する |
AD-II:緩衝材に影響を及ぼす破壊的事象-(緩衝材の定置ミス、低濃度の氷河融氷水の浸入など)の結果として、キャニスタが破損する |
AD-III:気体によって、キャニスタ及び定置孔から、瞬時放出割合が成立する形で核種を含む汚染水や揮発形態の核種(C-14)が排出する。 |
処分場評価シナリオの解析では、DCS-IIシナリオに基づいて体系的に生成した計算ケースの1つ「Sh1」を基本処分場計算ケース(base repository calculation case)と位置付けている。
Sh1計算ケースは、〔シナリオのパラメータとして〕処分場閉鎖直後(t=0)にキャニスタに1mmの貫通孔が存在していること、また、イオン強度が低い低濃度/汽水組成の地下水条件と、地下水流動が初期状態の条件(移行抵抗WL/Q=50000 yr/m)を設定したものである。
線量評価シナリオは、地表環境における放射性核種の最終的な帰結(fate of radionuclides)、つまりは地表環境に到達した放射性核種が最終的にどのような放射線学的影響を及ぼすかについて記述するものである。線量評価シナリオには、基本シナリオにとっての構成要素でもある地表環境の変遷、及び(規制要件で求められている少なくとも数千年間の)線量評価の期間において、地表環境にどのように人間及びその他の生物相が居住/生息し、また当該環境をどのように利用するのかに関する変遷の道筋が含まれる。
線量評価シナリオの主要な観点(作成要因)として「気候変動」と「土地利用」の2つをあげ、これらの要因を組み合わせて線量評価シナリオを作成している。
下表に、線量評価シナリオ作成のために検討される潜在的な将来の気候状態と広範な土地利用の種類を示す。中間概要報告書の段階では、「CL1:現在の気候」と「LU1:現在の土地利用」の組み合わせ(CL1-LU1)からなる線量評価基本シナリオ(dose assessment base scenario)だけを扱っている。
シナリオ作成要因 | 記述及びバリアントへの分割 |
---|---|
気候 | CL1:「現在の気候」 |
- 線量評価時間窓において不変の気候条件 | |
- 後氷期の土地隆起に起因する海水位の変化 | |
- 現状のままの動植物 | |
Cl2「より暖かい気候」 | |
- 線量評価時間窓において上昇する温度 | |
- 後氷期の土地隆起に起因する海水位の変化と、より温暖な気候における地球規模の海水位の変化 | |
- 動植物の変化 | |
土地利用 | LU1:「現在の土地利用」 |
- 想定された現時点での土地利用の特性(耕作、林業及び人口統計面での特性) | |
- 線量評価時間窓において不変の土地利用 | |
LU2:「都市化」 | |
- サイトが、線量評価時間窓の範囲内で都市部へと変化 | |
LU3:「荒野」 | |
- 線量評価の時間窓の枠内で、当該サイトを人々が放棄し、その自然の状態に放置する(人が定住しておらず、耕作もしない) |
地圏から生物圏への放射性核種の移行量(フラックス)は、処分場評価シナリオに基づいた計算ケースの算出結果をインプットとして用いる。
線量評価シナリオは生物圏計算ケースで解析する。中間概要報告書では、生物圏計算ケースを3種類に分類している。
処分場サイトにおける人間侵入シナリオは、人間社会と科学技術水準の状況の移り変わりに伴う不確実性の影響を考慮する必要があるが、このような不確実性は保守的な線量解析では全面的に評価することができないため、「様式化された仮定」に基づきシナリオの確率と影響を見積もる必要がある。
中間概要報告書の中では、人間侵入シナリオの定量的な評価はしていない。このシナリオの評価は、ポシヴァ社は2012年までに生物圏評価の一部として実施する予定としている。
評価シナリオにおいて、処分システムから放出された核種の最終的な帰結は、定量的なモデルを使用して分析する。
セーフティケースにおける全体的なモデル化プロセスを図8に示す。
燃料からの核種放出、それに続く、人工バリア(緩衝材等)及び天然バリア(地圏)における核種移行をモデル化し、シナリオ解析において、処分システムから生物圏への核種フラックスの見積もりに使用する。規制要件が要求する少なくとも数千年間の期間については、被ばく線量の見積もりのために、燃料からの核種放出から天然バリアにおける核種移行モデルに加えて生物圏における核種移行モデルを使用する。
これらのモデル化においては、オルキルオトサイトの基盤岩の記述、処分システムの記述といったインプット情報を与えることにより支援する。また、「地下水流動モデル」や生物圏評価のために必要な「ランドスケープモデル」といった支援モデルは、核種移行解析において主要な核種放出及び核種移行モデルにとって鍵となる入力情報を与える。
支援モデルの概要を以下に記す。
キャニスタの破損、水との接触に伴い、以下の放射性核種の放出現象をモデル化している。
瞬時放出割合は、燃料の粒界に存在する放射性核種インベントリが迅速に溶液に放出するようにモデル化している。データは、SR-Canデータ報告書に記載されている保守的な値を採用している。
元素 | C | Cl | Se | Sr | Tc | Pd | Sn | I | Cs |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
IRF(%) | 10 | 10 | 0.1 | 1 | 1 | 1 | 0.01 | 5 | 5 |
長期間にわたるゆっくりとした燃料劣化に伴う調和放出は、一定の燃料劣化速度に伴い、一定の核種放出が起こることによりモデル化されている。文献に基づき、燃料劣化速度のデータは10-7(yr-1)が採用され、例外的なケースでは、10-6(yr-1)を用いている。
溶解度は、様々な地下水の種類(低濃度水/汽水、塩水、融氷水)について評価した文献値(Grivéほか、2007年)を採用している。
その他、ジルカロイの腐食、及び燃料集合体の他の金属腐食に伴う核種放出プロセスをモデル化している。
ニアフィールドにおいて、緩衝材がその性能目標通りの性能を示した場合、緩衝材で生じる主な放射性核種移行プロセスは、拡散である。緩衝材中では、緩衝材の微孔製構造がコロイドとして存在する放射性核種の移行を阻止するとしている。
拡散は、液相の拡散と固相の吸着を考慮した次式の拡散方程式によりモデル化している。
KBS-3V概念における緩衝材から地圏への放射性核種の移行モデルでは、以下の3つの代替経路を考慮している(図9)。
上記の3つの代替経路には、地下水流動モデル(EPMモデル)の結果から実効流量(それぞれQF、QDZ、QTDZ)を与える。実効流量QF、QDZ、QTDZは、それぞれの代替経路においてニアフィールドから地圏への核種移行速度を制御する。
地圏における放射性核種の移行では、透水量係数の大きい亀裂に沿った移流・分散による移行と亀裂面から岩石の隙間や岩石マトリクスの間隙へのマトリクス拡散、および亀裂内の液相から亀裂面や岩盤マトリクスへの平衡線形吸着をモデル化している(図10)。マトリクス拡散は、亀裂性媒体中の核種移行においては、吸着現象とともに主要な遅延メカニズムの1つである。
ここで、地圏における連結した亀裂や断層が形成する1本の移行経路(チャンネリング)内での核種移行に着目する。移行経路の開始点において、時刻t=0に液相中の一定の液相濃度C0が与えられる場合、(例えば亀裂開口幅の不均質性などの要因による)移流による遅れを無視できると仮定すると、移行経路内の距離Lでの液相濃度Cfは次式のとおりとなる。
Figure 5-3 of BSA-2009(マップレイアウトはAri Ikonen(ポシヴァ社)による)
Figure 5-4 of BSA-2009(マップレイアウトはAri Ikonen(ポシヴァ社)による)
Figure 7-3 of BSA-2009注)生物圏オブジェクトの色分けの凡例はBSA-2009 Fig.7-2を基に追記した。(マップはJani Helin(ポシヴァ社)及びThomas Hjerpe(S&R社)による)
生物圏における放射性核種移行は、ランドスケープ・モデルを用いて解析している。
地圏から放射性核種を受け取る可能性のある生態系を地形・生態系進展モデル(TESM)や地下水流動モデル、地表・浅地中の水文学的モデル化から導き出された放射性核種の放出パターンに基づき特定する。生物圏における放射性核種の移行は「生物圏オブジェクト」と呼ばれる不連続ユニットのネットワークとしてモデル化し、これをランドスケープ・モデルという。
生物圏オブジェクトは、森林・湿地・耕作地・湖・河川・海岸の6種類の生物圏オブジェクトを用い、地理的な場所に配置したそれぞれの生物圏オブジェクトについて、関連するパラメータ値の個別に設定することにより特徴づける。ポシヴァ社の「現実的な」生物圏計算ケースでは、166個の生物圏オブジェクトを用いて、処分場閉鎖後の約1万年間にあたる西暦2020年~12520年までの地表景観(ランドスケープ)の変遷をモデル化している。
処分場から漏出した核種が生物圏で放出される地点(放出点)の分布は、地下水流動モデルで評価している。ポシヴァ社の生物圏評価 BSA-2009 では、処分場をパネルA~Cの3つに分け、各パネルから放出した核種が放出される場所(放出点)を評価している。
Figure 7-3では、キャプションで示すように処分場パネル(A~C)から漏洩した核種の放出地点を、その放出量の大きさに比例した円印(○記号)によって地図上に示している。Realistic release patternでは、仮想地点 Tankarienjärvi(同図では、中央から右上の湖となっている地点、現時点はバルト海底である)に、パネルA起源の核種の14%、パネルB起源の94%、パネルC起源の71%が放出されるとポシヴァ社は評価している。
ランドスケープ・モデルを用いた解析例として、仮想地点 Mäntykarinjärvi(Figure 7-3の湖 Tankarienjärvi の西側のやや小さな湖のある地点の仮想地点名、現時点はバルト海底である)に設定された生物圏オブジェクト(7種類)における放射能濃度の評価例を右図に示す。この図は、BSA-2009(POSIVA 2009-03、2010年3月) 1) の Figure 7-4からとったものである。
ポシヴァ社は、不確実性を管理するために、「特定」、「回避」、「低減」及び「評価」の反復的なアプローチを採用している。不確実性の「特定」は記述であり、可能な場合には不確実性の定量化であり、さらには不確実性が安全性にとってどのような関連性を有する可能性があるかに関する検討でもある。そしてこれは、セーフティケースの開発に関連する全ての報告書の主要部分を表わしている。処分システムの開発は、「頑健性」の考え方に基づくものであり、実行可能な場合にはその挙動の理解及び予測が難しい概念及び構成要素を回避し、不確実性の影響を低減することを意味する。しかし、一部の不確実性はそれでも残るものであり、その評価が、これらの不確実性が安全性に関する最終結論にとってどのような関連性を有するのかという面から実施されなければならない、としている。
ポシヴァ社による処分システムの開発の基本は、主なシステム構成要素に性能目標を設定し、頑健なシステム設計のためのガイダンスを示すことである(例えば、緩衝材の安全機能が満たされる緩衝材密度の範囲)。安全評価では、性能目標の基礎となる様々な仮定に含まれる不確実性が、処分システムの経時的変化と共に変化するにつれて目標を満たしてゆく能力に及ぼす影響が検討される。中間概要報告書で記述した安全解析では、計算ケースの特定及び評価のために決定論的アプローチを用いており、不確実性がシステムの性能及び安全性に及ぼす影響を個別に解明することができる。これにより、セーフティケースを損なう可能性のある不確実性を特定した上で、研究、技術設計及び開発(RTD)によってそれを回避したり、低減したりすることができる。
将来の安全評価では、確率論的アプローチと決定論的アプローチを組み合わせることにより、いくつものパラメータ不確実性の組み合わせに関してさらに組織的な解析を実施することになっている。
セーフティケースの開発に関する事項や、科学的理解に関するより具体的な事項を含め、特定の安全関連事項に対処するための現行プランについては、『TKS-2009』(Posiva 2009)で取り扱っている。セーフティケースの概念化と方法論の開発において鍵となる事項には次に挙げるものが含まれる、としている。