放射性核種の放出および移行 ― RNT-2008、 Posiva report 2008-06、ポシヴァ社(2008年)
Mikko Nykyri, Henrik Nordman, Nuria Marcos, Jari Löfman, Antti Poteri, Aimo Hautojärvi; Radionuclide Release and Transport – RNT-2008. POSIVA 2008-06. Posiva Oy (December 2008)
図 セーフティケース・ポートフォリオを構成する主要報告書(青色)と、技術的及び科学的な支援活動からの主な入力情報(白色)
TILA-99以降の安全評価研究は、2005年の初版公表後、2008年に更新されたセーフティケース計画に基づき実施されており、最終処分場の建設許可申請の準備のための研究の実施、および研究結果の文書化としてセーフティケース を構成する技術報告書が順次公開されており、最終的な生物圏評価までを含む性能評価書は2012年に公開される予定である。セーフティケースにおける核種移行解析の基本となる報告書「放射性核種の放出および移行 ― RNT-2008」が2008年に発表されている。同報告書では、キャニスタから核種が放出され、地圏を経て生物圏に達するまでの過程に関する評価を行っている。
2012年に提出されるセーフティケースは、8つの報告書等からなるセーフティケース・ポートフォリオの構造から成っており、RNT-2008は、生物圏評価報告書2009(Posiva report 2010-03)とともに「シナリオの解析」報告書の暫定版として位置づけられている。
2010年には、ポートフォリオ報告書群の「概要」報告書の暫定版にあたる、「セーフティケース中間概要報告書 2009 (Posiva report 2010-02)」が公開されている。
5基の発電用原子炉で使用される3種類(BWR、VVER440、EPR)の異なる型の使用済燃料の処分を対象に設定され、廃棄物の最大処分量は約6,500tUとされている。しかし、新規原子炉の建設計画に対応して最大処分量の拡大(最大12,000tU)が計画されており、最終的な使用済燃料の仕様および核種インベントリは2010年~2011年のプラン状況に基づき決定されることになっている。
「放射性核種の放出および移行」報告書の線量評価では、核種インベントリは、燃料の燃焼度を40MWd/kgU、濃縮度は現在が最大であるとし、冷却期間を30年間と仮定している。
使用済燃料は、鋳鉄製インサートおよび厚さ50mmの銅製オーバーパックに封入される。銅製オーバーパックの寿命は、設計上では10万年間とされている。
放射線・原子力安全センター(STUK)による安全指針YVL8.4は、長期にわたる放射線影響に関して以下に示される事項を規定している。
図1 オルキルオト島の位置図
図2 KBS-3V処分概念の構成要素
フィンランドでは、2000年の政府による原則決定、2001年の議会の承認により、使用済燃料の最終処分地としてユーラヨキ州のオルキルオト(図1参照)が選定された。同地の詳細な情報を得るために、2004年より地下特性調査施設(ONKALO)の建設が開始されている。最終的に処分場の一部となるとなる予定のONKALO周辺の岩盤は、強い褶曲を受けた片麻岩が主体となる結晶質岩盤である。
最終処分場の処分概念は、スウェーデンのSKB社が1983年に提案したKBS-3処分概念に基づいている。KBS-3処分概念には、キャニスタを縦置きに定置するKBS-3V概念と横置きに定置するKBS-3H概念があるが、セーフティケース計画ではKBS-3V概念をレファレンス概念としている。
KBS-3処分概念では、使用済燃料を鋳鉄製インサートと銅製オーバーパックからなるキャニスタに封入し核種の閉じ込め性を期待する。キャニスタは地下深部(地下約400m)に掘削した処分孔に縦置きで定置し生物圏から隔離する。定置したキャニスタの周囲には、ベントナイト層からなる緩衝材を設置し、キャニスタ、緩衝材、岩盤等からなる多重バリアシステムを構成する処分概念である(図2参照)。
表1 ポシヴァ社による評価シナリオ
図3 「欠陥キャニスタシナリオDCS-Ⅱ」の計算ケースのツリー構造の例
フィンランドでは放射線・原子力安全センター(STUK)による安全指針YVL8.4により、シナリオ解析において処分場の想定される時間的空間的変遷に加え、発生確率の低い破壊的事象の両方の変遷を取り扱うことが規定されている。シナリオ解析では、各バリアの定義される性能目標を仮定した「基本シナリオ」、単一または複数のバリアに連動した性能劣化の影響を考慮した「変動シナリオ」、長期安全性に影響を及ぼす発生確率の低い破壊的事象としての「擾乱シナリオ」の評価を行うことが規定されている。発生確率の低い破壊的事象として、STUKは、
を少なくとも含むことを指示している。
Posiva社のセーフティケースでは、安全性に関わる期間に核種放出が起こらず計算による検討を必要としないシナリオを基本シナリオとして考えており、核種放出が予想されるシナリオを評価シナリオとして評価している。セーフティケースでは表1に示す評価シナリオが挙げられており、各評価シナリオは評価上設けた仮定、使用した評価データの再現性及び追跡性を維持するために図3に示すツリー構造によって、その計算ケースがどの様な条件を検討しているかを示す識別子を用いることにより管理されている。
また、計算ケースは、
に区別されている。
「放射性核種の放出および移行」報告書では、決定論的解析により評価を実施している。
ニアフィールドの核種移行は、処分場を離散化したコンパートメントモデルを用い、解析コードにはフィンランド技術研究センター(VTT)が開発した解析コードREPCOMが使用されている。REPCOMコードでは、廃棄体からの核種放出、人工バリア内の移流・分散、核種の溶解度制限、固相への核種吸着、核種の崩壊連鎖を考慮できる。
ファーフィールドの核種移行は、二重空隙モデルに基づく解析コードFTRANSを適用し、亀裂中の移流・分散に加えてマトリクス拡散(拡散幅は10cm)を考慮している。
線量評価結果(線量率:Sv/年)は、生物圏まで移行する核種放出率(Bq/年)に様式化された飲用水井戸シナリオ「WELL-2008」の線量換算係数(Sv/Bq)を乗じることにより計算している。
図4 欠陥キャニスタシナリオ「DCS-Ⅱ」の計算ケースSh-1の線量結果
表2 欠陥キャニスタシナリオ「DCS-Ⅱ」の計算ケースにおける最大線量率が発生する時期と重要核種
「欠陥キャニスタシナリオ」のDCS-Ⅱシナリオの計算ケースSh-1(閉鎖後直後のキャニスタに1mmの貫通孔が存在;地下水組成が低濃度水/汽水;地下水流量が通常)の線量結果を図4に示す。重要な核種としてはI-129、C-14、Cs-135、Cl-36が挙げられる。地下水環境が塩水の場合、特に地下水流量が大きな条件では、Sr-90、Pa-231も高線量となる核種として挙げられている。
塩水系地下水の流量が高い条件において処分場閉鎖直後にキャニスタに直径が100mmの貫通孔が存在するという、起り得そうもない計算ケース(LhQsal)では、Sr-90のピーク値が57年後に線量拘束値0.1mSv/yを超える計算結果が得られている(表2)。しかし、200年の管理期間、また発生確率の低い破壊的事象に対しては発生確率を考慮するべきであるという指針YVL8.4の記述によって、発生確率を考慮することにより拘束値を満足すると考えられ、安全性が損なわれるとは考えていない。
その他の評価ケースでは、表2に示す様に指針YVL8.4に示される線量拘束値を超えない線量計算結果が得られている。
様式化された飲用水井戸シナリオ「WELL-2008」の線量換算係数を使用した線量結果は、一部の完全に仮想的な想定問題におけるSr-90のピークを除けば全ての計算ケースで線量拘束値0.1mSv/yを満足している。この様な事象は、事象の発生確率を考慮し、より正確な線量予測を行うことにより線量拘束値を満足する。
線量の支配各種は、I-129、C-14、Cs-135、Cl-36であり、地下水流量が高い場合にはPa-231も重要となる。これらの核種は、比較的長い半減期で燃料からの高い放出速度を有し、バリア材に吸着しにくい特徴があるため、キャニスタおよびキャニスタ周辺の部材が重要である。またファーフィールドは処分場への人間の侵入を防止し、核種の移行経路の延長上にあって安定で良好な物理化学的条件を人工バリアシステムに提供する。最終的な線量の規制遵守は、以上のことを補完して、生物圏評価の報告書において報告される。