米国における高レベル放射性廃棄物処分
米国では、ネバダ州のユッカマウンテンで高レベル放射性廃棄物を処分することが計画されていますが、使用済燃料の中間貯蔵の取扱い、資金確保のあり方などを見直すための法律の修正が検討されています。なお、前オバマ政権は、ユッカマウンテン計画を中止する方針として、代替案を検討しましたが、トランプ政権は、ユッカマウンテン計画を継続する方針に転換しようとしています。
米国における商業用の原子力発電所は全部で85カ所あり、そのうち62カ所にある99基の原子炉が運転中です。29カ所にあった32基の原子炉は既に閉鎖されています。米国の原子力発電会社には公営と私営の電力会社が含まれるとともに、所有者と運転者が同一でない場合が多く、原子力発電会社の数は非常に多く存在しています。
2011年3月の東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故を受け、原子力規制委員会(NRC)が事故の評価を行った上で、原子炉の安全性を確保するための規制対応を行っていますが、新規原子炉の計画を含めて大きな政策の転換には至っていません。
米国では、商業用原子力発電所から発生した使用済燃料が、2013年末で合計約71,700トン(重金属換算、以下同じ)蓄積されていると見積られています。エネルギー省(DOE)は、2012年時点で運転中だった104基の原子炉が全て60 年間運転した場合には、使用済燃料の量は140,000トンに達すると推定しています。発生した使用済燃料は、原子力発電所サイト内でプール貯蔵、または乾式貯蔵キャスクなどで貯蔵されていますが、一部はサイト外で中間貯蔵されています。サイト外での中間貯蔵施設は、イリノイ州のモリス中間貯蔵施設(プール貯蔵方式)が米国で唯一です。この施設は、ゼネラルエレクトリック社が建設していたかつての民間の再処理工場の使用済燃料プールを活用したものであり、イリノイ州の原子力発電所で発生した約670トンの使用済燃料を1972年から貯蔵しています。
特殊なものとしてスリーマイル島原子力発電所2号機の事故に伴って発生した燃料デブリ及び使用済燃料をアイダホ国立研究所(INL)において、乾式貯蔵キャスクに収納して貯蔵しています。
米国では、1973年以降、商業用原子炉で発生した使用済燃料の再処理は行われておらず、使用済燃料をそのまま高レベル放射性廃棄物として処分する直接処分方式を取っています。ただし、バックエンド対策の代替案の検討が行われており、使用済燃料の再処理もその一環として検討が進められています。
1982年放射性廃棄物政策法においては、高レベル放射性廃棄物を処分することは連邦政府の責任であり、処分費用の負担は発生者及び所有者の責任とすべきと事実認定されました。同法において「処分」という用語が定義され、高レベル放射性廃棄物を地層処分する方針となりました。また、エネルギー省(DOE)に「民間放射性廃棄物管理局」(OCRWM)が処分の実施主体として設置され、処分候補地の選定、サイト特性調査が進められました。
1987年放射性廃棄物政策修正法において、ユッカマウンテンを唯一の処分候補地とすること、ユッカマウンテン以外でのサイト特性調査を停止すること、ユッカマウンテンでの処分量は70,000トンに制限して、地層処分の研究プログラムを実施することになりました。
1982年放射性廃棄物政策法に基づく手続きを経て、2002年にネバダ州ユッカマウンテンが最終処分地に決定し、2008年6月にはDOE が処分場の建設認可に係る許認可申請書を原子力規制委員会(NRC)に提出しました。2009 年1月に発足した民主党のオバマ前政権は、ユッカマウンテン計画を中止する方針として、「米国の原子力の将来に関するブルーリボン委員会」(以下「ブルーリボン委員会」という。)を設置して検討を行い、2012年1月に、地層処分場の必要性は再確認するものの、同意に基づくサイト選定、超深孔処分の研究、中間貯蔵施設の設置などの代替案が勧告されました。
2017年1月に誕生した共和党のトランプ政権は、ユッカマウンテン計画を継続する方針を示しており、中間貯蔵施設の必要性は再認識する一方、超深孔処分のフィールド試験計画を中止するなどの考え方を示していますが、このような政策の実施に必要な法整備ができない状況が続いています。
米国における高レベル放射性廃棄物としては、①商業用原子力発電所から発生した使用済燃料、②DOE 保有の使用済燃料(研究炉や海軍の船舶炉などから発生するもの)、③核兵器製造及びかつて実施された商業用原子力発電所からの使用済燃料の再処理によって発生したガラス固化体があります。
DOEは、核兵器製造用の原子炉、研究炉、海軍の船舶炉、原型炉などから発生する使用済燃料を保有しており、処分する必要がある量は、2035年には約2,500トンになると推定しています。また、以前に行われていた商業用原子力発電所から発生した使用済燃料の再処理によって生じたものも含め、DOEの国防施設や国立研究所で生じた高レベル放射性廃液が、DOEの4カ所のサイトにある地下タンク内で貯蔵されています。この廃液をガラス固化した場合、最終的に約36,000本のガラス固化体が発生すると推定しています。
その他、大学の研究炉、DOE の研究施設、商業用研究炉、商業用核燃料製造プラントなど、約55の施設から少量の使用済燃料や高レベル放射性廃棄物が発生しています。また、冷戦の終結によって、公称値で約60トンの兵器級の余剰プルトニウムが発生するとされています。DOEは、そのうちの過半は商業用原子力発電所でMOX 燃料として利用することの他、MOX燃料に適さないプルトニウムをニューメキシコ州カールスバッドの廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)で処分することなどの計画について、環境影響評価書(EIS)の検討を実施しています。現在、MOX燃料での利用は、費用の関係で中止されており、WIPPでの処分に絞って検討されています。なお、DOE はすでに、一部の兵器級プルトニウムを希釈してWIPPで処分しています。
ブルーリボン委員会の報告書では、同意に基づいて処分場を立地することが勧告されていますが、米国には、地元の理解を得て順調に操業を続けている地層処分場があります。ニューメキシコ州カールスバッド近郊の「廃棄物隔離パイロットプラント」(WIPP)は、国防活動で発生した超ウラン元素を含むTRU 廃棄物を対象とした地層処分場であり、地下約655mの岩塩層の中に設置されています。1999年3月からエネルギー省(DOE)が、環境保護庁(EPA)及びニューメキシコ州の許認可を受けて操業を行っています。WIPPの開発は1970年代から開始された非常に長い歴史を持っていますが、ブルーリボン委員会の報告書の中でも立地の良好な事例であるとして、今後の高レベル放射性廃棄物の戦略を考える上での重要なものとされています。
特に、連邦政府から資金の提供を受けてニューメキシコ大学内に設置された環境評価グループ(EEG)は、独立で信頼できる技術的情報やWIPPプロジェクトのレビューを提供し、州や地域コミュニティの信頼を得るのに重要な役割を果たしたと評価されています。
WIPPでは、順調に処分が実施されていましたが、2014年2月に火災事故、放射線事象が発生しており、操業を停止して事故調査を行うとともに、復旧計画に基づいて復旧活動が行われ、2016年12月23日に操業再開が決定し、2017年1月4日に操業を再開して廃棄物の定置が行われました。また、2017年4月10日には、操業再開後で初となるTRU 廃棄物の輸送、受入れも開始されています。
2015年 米国 | 単位: 億kWh (=0.01 x GWh) |
総発電電力量 (Total Production) | 43,171.59 |
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- 輸入 (Imports) | 757.70 |
- 輸出 (Exports) | -91.00 |
国内供給電力量 (Domestic Supply) | 43,838.29 |
国内電力消費量 (Final Consumption) | 37,808.36 |
source: «Energy Statistics 2017, IEA» United States 2015:Electricity and Heat
source: World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements (WNA, 世界原子力協会)