米国における高レベル放射性廃棄物処分
1957年に全米科学アカデミー(NAS)より地層処分が妥当であるとの検討結果が示されており、1980年に公表された「商業活動から発生した放射性廃棄物管理に係る最終環境影響評価書」(FEIS)と、これに伴い開催された公聴会を経て、エネルギー省(DOE)は処分の基本方針を決定しました。
1982年放射性廃棄物政策法により、実施主体としてDOEの民間放射性廃棄物管理局(OCRWM)が設置され、米国の処分政策の枠組みが定められました。
DOEは、1983年に9カ所の候補サイトを選定し(ユタ州ラベンダーキャニオン、ユタ州デービスキャニオン、ミシシッピー州サイプレスクリークドーム、ネバダ州ユッカマウンテン、ミシシッピー州リッチトンドーム、テキサス州デフスミス、テキサス州スウィッシャー、ルイジアナ州バチェリードーム、ワシントン州ハンフォード)、翌1984年にはこれらの候補サイトについての「環境アセスメント案」(DEA)が公表され、公聴会が開催されています。1986年に、DOEはサイト特性調査の実施に適したサイトとして5カ所(デービスキャニオン、ユッカマウンテン、リッチトンドーム、デフスミス、ハンフォード)を指定し、このうち3カ所(ユッカマウンテン、デフスミス、ハンフォード)をエネルギー長官が大統領に推薦し、大統領の了承を得ました。
しかし、1987年には、放射性廃棄物政策修正法が成立し、サイト特性調査を行う処分候補地としてユッカマウンテン1カ所が指定されました。その後、スケジュールが大幅に遅れて予算も削減される中で、DOEはプログラムの見直しを行い、ユッカマウンテンがサイトとして実現可能であることを示す「実現可能性評価(VA)報告書」を1998年に公表しています。その翌年の1999年には、ユッカマウンテン処分場開発の「ドラフト環境影響評価書」(DEIS)が公表され、そのための公聴会も開催されました。
2001年に、大統領へのサイト推薦に必要な情報を含んだ「ユッカマウンテン科学・工学報告書」「予備的サイト適合性評価報告書」が公表され、DOEはパブリックコメント期間中にサイト周辺地域を中心とした約20カ所でサイト推薦に関する公聴会を開催しています。一方で、サイト推薦のためのDOEによる規則「サイト推薦一般指針及びユッカマウンテン・サイト適合性指針(10 CFR Part 960 及び10 CFR Part 963)」は、2001年11月に策定されました。
最終的なサイト推薦・決定は、右の図のような流れで行われ、大統領の推薦に対するネバダ州の不承認通知が行われましたが、立地承認決議案が連邦議会で可決され、大統領の署名を得て、ユッカマウンテン・サイトの法的決定手続は終了しました。エネルギー長官によるネバダ州知事へのサイト推薦決定の通知に始まるこれら一連の手続は、全て1982年放射性廃棄物政策法に定められているものです。
なお、ネバダ州等からはこのユッカマウンテンのサイト指定が憲法違反であるなどの訴えが起こされていましたが、連邦控訴裁判所は2004年7月にこれを退けています。ただし、DOEが当初2004年末までに行うとしていたNRCへの許認可申請書提出のスケジュールは、許認可関連書類の登録の遅れ、2004年7月の連邦控訴裁判所による環境放射線防護基準の一部無効判決、予算制約などの要因から遅れが生じました。
2005年10月には、輸送・貯蔵・処分(TAD)キャニスタの採用により処分場の地上施設を簡素化する設計変更の方針が示され、2006年7月にはNRCへの申請書提出を2008年6月、処分場操業開始を2017年とするスケジュールが示されました。その後、申請書の提出は予定通り行われたものの、予算削減の影響による遅れを反映して処分場操業開始を2020年3月とするスケジュールが2009年1月に示されています。
また、2004年4月に告示された鉄道敷設等の環境影響評価に加え、処分場施設の設計変更等に伴う補足環境影響評価が実施されており、2008年6月には最終補足環境影響評価書が公表されています。
なお、ユッカマウンテン計画に対するネバダ州の反対は根強く、政治情勢も影響して現政権のユッカマウンテン計画中止の方針に繋がりましたが、ユッカマウンテンが立地するネバダ州のナイ郡は、ユッカマウンテン計画を支持し、復活に向けた取り組みを見せています。
ブルーリボン委員会が2012年1月26日に公開した最終報告書においては、米国及び外国における数十年におよぶ放射性廃棄物施設の立地を考察し、今後、放射性廃棄物管理・処分施設の立地及び開発への新たなアプローチを採用する必要があるとの結論が示されました。
今後の放射性廃棄物管理・処分施設の立地プロセスは、それらが以下の条件を満たす場合に成功の可能性が最も高くなるとの考えが示されています。
ブルーリボン委員会が最終報告書で勧告した同意に基づく立地プロセスは、DOEや連邦議会における検討でも、その方針が受け継がれています。連邦議会上院に上程された「2015年放射性廃棄物管理法」の法案では、以下のような流れでのサイト選定の進め方が規定されています。この手続は、一部を簡略化した形で、中間貯蔵施設のサイト選定についても適用されます。
なお、同法案では、複数のサイト候補から選定を行う場合、例えば中間貯蔵施設と処分場など、複数の施設の立地を希望するサイトが優先されることになっています。
1982年放射性廃棄物政策法では、立地地域への直接的な財政支援として、第116条(c)と第170条に基づく2つの制度が設けられています。
1982年放射性廃棄物政策法の第116 条(c)に基づく特別の財政措置には、補助金の交付と課税相当額(PETT)の補填という2 種類があります。課税相当額とは、処分場開発活動は連邦政府が行うために州の売上税等の課税対象とはならないことから、仮に課税が認められるとした場合の税収相当額を放射性廃棄物基金(NWF)から州に補填するという制度です。
これらの財政措置の金額は毎年の予算の中で定められ、放射性廃棄物基金が財源となります。
また補助金は、地元のネバダ州と関係する10郡が、以下のような独自の評価や活動を実施できるように交付されるものです。
ユッカマウンテン・サイトへの処分場立地をネバダ州が受け入れた場合、州や自治体等は、その見返りとして使用目的に制限のない特別の資金給付を受けることができます。この資金給付は、DOEと州が契約を結ぶことにより決定されますが、その交渉では関係する自治体等とも協議を行うこととされ、金額の3分の1以上は州から自治体等に分配されることが決められています。なお、この契約を結んだ後は、大統領が連邦議会に対してサイト推薦を行う際に州は反対できなくなります。
1982年放射性廃棄物政策法で定められた給付金額は右に示す通りであり、契約を締結してから処分場が閉鎖されるまで毎年、さらに処分場が操業を開始するときには一時金が支払われます。これらの給付は、放射性廃棄物基金(NWF)から行われます。
その他、1982年放射性廃棄物政策法では、連邦政府の研究プロジェクトの立地について処分場立地州から提案がある場合には特別の考慮をすることも定められています。
ブルーリボン委員会の最終報告書に示された勧告では、同意に基づく処分地選定の進め方が必要とされていますが、この仕組みの中でも、国家的問題の解決を支援する州や自治体等には便益が提供される必要があるとしています。
具体的には、支払金額は上に示した現在のネバダ州向けの金額を大幅に上回る水準が必要で、実施主体が州や自治体と取決めを出来るようにすること、他の連邦プロジェクトの立地が優先して行われるように法律を拡張・改正すること、影響を受けた住民などは妥当な実費の補償を受けるべきことなどが勧告されています。
ブルーリボン委員会の勧告を受けて検討されている連邦議会上院の法案では、実施主体と立地州・自治体等の間で締結される協力協定や立地の同意協定の中で、金銭的補償やインセンティブ、経済開発の援助について決定するものとされています。