米国における高レベル放射性廃棄物処分
下の図は、米国における高レベル放射性廃棄物処分に係る実施体制を示したものです。高レベル放射性廃棄物に係る規制行政機関として、処分基準については、民間の原子力利用の規制、施設関連の許認可を行う原子力規制委員会(NRC)、その処分基準に組み込まれる環境放射線防護基準の策定については環境保護庁(EPA)が担っており、NRC及びEPAが規則を制定するに当たっては全米科学アカデミー(NAS)の勧告に従わなければならないことが1992年エネルギー政策法で定められています。また、諮問機関については、技術面についての独立の評価機関として放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)の設置が1982年放射性廃棄物政策法(1987年修正)の第501条以下で定められています。
米国では、1982年放射性廃棄物政策法の第111条において、高レベル放射性廃棄物及び使用済燃料の処分の責任は連邦政府にあると定められています。具体的にはエネルギー省(DOE)が処分の実施主体として定められ、特に同法第304条によりDOE内部に設置された民間放射性廃棄物管理局(OCRWM)が施策の実施に当たることとされています。
しかし、現政権のユッカマウンテン計画中止の方針に伴ってOCRWMは廃止されており、DOEの原子力局(NE)がその責任を引き継いでいます。
米国では、高レベル放射性廃棄物の処分の安全基準として、ユッカマウンテンの処分場に適用される基準と、ユッカマウンテン以外の処分場に適用される一般基準とがあります。後者の一般基準には、原子力規制委員会(NRC)によって策定されているもの(10 CFR Part 60「地層処分場における高レベル放射性廃棄物の処分」)と、環境保護庁(EPA)によるもの(40 CFR Part 191「使用済燃料、高レベル放射性廃棄物及びTRU放射性廃棄物の管理と処分のための環境放射線防護基準」)の2種類があります。
一方、ユッカマウンテンについては、EPAは全米科学アカデミー(NAS)の勧告に基づいてユッカマウンテンのみに適用する処分の安全基準を策定すること、NRCはこの基準に適合するように技術要件基準を変更することが1992年エネルギー政策法によって規定されました。これを受けて、EPAの「ネバダ州ユッカマウンテンのための環境放射線防護基準」(40 CFR Part 197)、NRCの「ネバダ州ユッカマウンテン地層処分場での高レベル放射性廃棄物の処分」(10 CFR Part 63)が、それぞれ2001年6月、2001年11月に策定されました。EPAの40 CFR Part 197では、個人に対する防護や人間侵入に対しての安全基準の他に、地下水についても保護基準を設けています。
EPAの40 CFR Part 197及びNRCの10 CFR Part 63は、2004年7月に、1992年エネルギー政策法での全米科学アカデミー(NAS)の勧告に基づいて策定するとの規定を満足せずに1万年の遵守期間が設定されたことから、遵守期間が規定されている限りにおいて一部無効であるとの連邦控訴裁判所判決が出されました。これを受けて、EPAは2005年8月に、NRCは2005年9月に、地質学的に安定な期間(処分後100 万年間で終了すると定義されている)までの性能評価を求めるとした改定案を公表していましたが、EPAは2008年10月に、処分後の1万年から100万年後までの期間について線量基準値を1mSv/年とする連邦規則最終版を連邦官報に掲載しました。NRCは、2009年3月に、EPAの連邦規則に整合させた10 CFR Part 63の最終版を連邦官報に掲載しています。
ブルーリボン委員会が2012年1月26日に公開した最終報告書においては、過去60年間の米国の放射性廃棄物政策の歴史を検討して、輸送、貯蔵及び処分のための集中的、統合的なプログラムを実施するため、新たな、単一目標の組織が必要であるとの結論が示されています。具体的な法人形態としては、議会によって設立を許可される連邦公社が最も期待できるとされ、1933年に設立されたテネシー渓谷開発公社(TVA)が既存の有用な事例とされています。連邦公社のような法人形態の場合、①政治的な管理の影響を受けにくい、②外部条件の変化に対応するための柔軟性などの性質をより多く有し、③費用やスケジュールを管理するための能力がより大きくなると指摘されています。また、新たな廃棄物管理法人には強力な最高経営責任者(CEO)のリーダーシップが必要とするとともに、CEOは、上院の助言及び同意によって大統領によって指名される取締役会の自己裁量で選ばれ、7年間の任期で1回の更新が可能などの具体的な提案がなされています。
組織の責任の範囲については、1982年放射性廃棄物政策法(1987年修正)において連邦政府に割当てられている機能に限定することが勧告されています。
なお、連邦議会の上院で検討されている「2015年放射性廃棄物管理法」の法案では、実施主体はブルーリボン委員会が勧告する公企業ではなく、行政府に置かれる独立の連邦政府機関とすること、その長官は長期在任が可能なこと、独立の監視委員会を設置することなどが提案されています。
米国では、1982年放射性廃棄物政策法の第111条により、高レベル放射性廃棄物及び使用済燃料を永久処分することは連邦政府の責任となっていますが、処分に要する費用は高レベル放射性廃棄物及び使用済燃料の発生者及び所有者の責任であると規定されています。
米国では、1982年放射性廃棄物政策法の第302条に基づいて放射性廃棄物基金(NWF)が財務省に設置され、また、廃棄物発生者である原子力発電事業者は、同基金に拠出金を支払うことによって処分事業に必要な費用の負担責任を果たすように規定されています。拠出金は、使用済燃料を発生させる原子力発電の販売電力1kWh当たり1ミル(0.001ドル)とされており、これは電力利用者の電気料金に反映されています。
放射性廃棄物基金(NWF)では、下記に列挙する高レベル放射性廃棄物処分に必要な資金が確保されることになっています。
また、1982年放射性廃棄物政策法では、基金に組み入れられるすべての資金は財務省によって管理され、財務省短期証券と呼ばれる米国債を通じて投資運用するように定められています。2016年9月末で保有されている米国債の市場価格は約460億ドル(約5兆2,000億円)です。
なお、連邦控訴裁判所の2014年11月19日の判決により、放射性廃棄物基金への拠出金額を1ミル/kWh からゼロに変更する提案が2014年5月16日に有効となり、放射性廃棄物基金への拠出が実質的に停止されました。
DOEのトータル・システム・ライフサイクル・コスト分析報告書
Analysis of the Total System Life Cycle Cost of the Civilian Radioactive Waste Management Program, Fiscal Year 2007
米国における高レベル放射性廃棄物の処分費用の総額は、2007年価格で約962億ドル(約10兆9,000億円)と見積られています。このうち、1983年から2006年の間に135億ドルが支出され、残りの826億ドルは2007年から処分場が閉鎖される2133年の間に支出されると想定されています。この見積りは、商業用の原子力発電による使用済燃料109,300トン(重金属換算、以下同じ)、政府が所有する使用済燃料2,500トン及びガラス固化体19,667本(10,300トン相当)の受け入れ及び処分に伴うすべての費用を回収することを前提として試算されています。したがって、1982年放射性廃棄物政策法での処分量の制限とは異なり、全部で122,100トン以上の受け入れが可能な一つの処分場での処分が仮定されています。
費用見積額の内訳としては、地層処分費用が約647億ドル(約7兆3,100億円)、廃棄物受け入れ・輸送費用が約203億ドル(約2兆2,900億円)など、さまざまな費用が想定されています。(1ドル=113円として換算)
年度別にみた費用の概要
(2007年度トータル・システム・ライフサイクル・コスト分析報告書から作成)
※同報告書では、2017年に処分場の操業を開始する前提で費用見積を実施
ブルーリボン委員会が2012年1月26日にエネルギー長官に提出した最終報告書においては、長期的な措置として、新たな廃棄物管理組織が単年度予算から独立し、連邦議会の監督のもとで、自らの民間放射性廃棄物関連の義務を果たすことができるよう、基金の未使用残高を新たな廃棄物管理組織に移管するための法律が必要であると勧告しています。
この勧告を受けて検討されている連邦議会上院の法案やDOE の処分戦略では、これから支払われる拠出金は今までの放射性廃棄物基金とは別の新しい基金に払い込み、特に法律で禁じられなければ実施主体が処分のため自由に使えるような制度改革が提案されています。