米国における高レベル放射性廃棄物処分
処分候補地としてサイト特性調査が行われ、2002年に法律で処分場サイトとして指定されました。ユッカマウンテン計画では、商業用原子力発電所から発生する使用済燃料、エネルギー省(DOE)が保有する国防活動関連等から発生する高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)及び使用済燃料の3種類を、地表から200~500mの深さに地層処分する方針です。ただし、2009年に発足したオバマ前政権は、ユッカマウンテン計画を中止し、代替案を検討する方針でしたが、2017年に誕生したトランプ政権は、ユッカマウンテン計画を継続する方針を示しています。
現在、米国の高レベル放射性廃棄物の処分の最終的な計画はまだ定まっていない状況ですが、以下では、ユッカマウンテン計画での処分場の建設認可に係る許認可申請書の情報、前政権での代替案の検討結果なども含めて示します。
ユッカマウンテンで処分予定の高レベル放射性廃棄物は3種類あります。①商業用原子力発電所から発生した使用済燃料が63,000トン(重金属換算、以下同じ)、②DOE保有の使用済燃料(研究炉や海軍の船舶炉などから発生するもの)が2,333トン、③核兵器製造及びかつて実施された商業用原子力発電所からの使用済燃料の再処理によって発生した高レベル放射性廃棄物が4,667トンです。合計で70,000トンです。
処分対象の高レベル放射性廃棄物は、外側がアロイ22と呼ばれるニッケル基合金、内側がステンレス鋼の二重構造の廃棄物パッケージに封入して処分されます。外側の合金が腐食に耐える役割を、内側のステンレス鋼が力学的な荷重に耐える役割を担います。
商業用原子力発電所で発生した使用済燃料の約90%は、発電所で輸送・貯蔵・処分(TAD)キャニスタに収納してからユッカマウンテンに輸送する計画であり、残りは処分場においてTADキャニスタに収納する計画です。このTADキャニスタを上述した二重構造の廃棄物パッケージに封入して処分します。
廃棄物パッケージは、収納する廃棄物の種類に応じて、民間の使用済燃料を収納したTAD廃棄物パッケージ、軍事用の高レベル放射性廃棄物を収納したもの、船舶用の使用済燃料を収納したものなどの6種類があります。
処分場は、地表から200~500mの深さ、地下水面より平均約300m上部に建設することが考えられています。こうした地質構造の特徴に加え、放射性廃棄物を環境から長期間隔離するための人工バリアによる多重バリアシステムによる処分概念が考えられています。処分場の規模は、総面積が約5km2、処分坑道の延長距離は約64kmと予定されています。
処分場は、地上施設と地下施設から構成されており、地上施設の主要な構成要素としては、輸送・貯蔵・処分(TAD)キャニスタに収納された使用済燃料を輸送用キャスクから取り出して処分または貯蔵に振り分けるための「受入施設」、輸送キャスクにそのままの状態で運ばれてきた使用済燃料などをTADキャニスタに収納するための「湿式取扱施設」、TADキャニスタなどを処分用の廃棄物パッケージに収納するための「キャニスタ受入・密封施設」、使用済燃料を冷却貯蔵するための「貯蔵施設」などがあります。
また、地下施設の主要な構成要素としては、直径約5.5mで11,000本の廃棄物パッケージを定置する「処分坑道」、定置される様々な形態の「廃棄物パッケージ」、廃棄物パッケージの上部に設置されて処分坑道壁面からの液滴・岩石の落下から防御する「ドリップシールド」があります。
廃棄物パッケージは、処分坑道に設置されたパレットに定置されます。なお、ドリップシールドは、閉鎖時に設置される計画となっています。
また、処分場は段階的な建設が考えられており、地下施設については、初期段階の建設が完了した時点で操業許可を受けて廃棄物の受け入れが開始されます。残りの部分については、廃棄物の定置と並行して建設が進められる予定です。
ユッカマウンテン周辺の岩盤は、約1,100~1,400万年前の一連の噴火によって生じた火山灰が堆積した凝灰岩です。年間の降水量が少なく蒸発量が多い砂漠地帯にあって、地下水面が地表から500~800mと深いところにあります。
米国における高レベル放射性廃棄物処分の基本方針は、1982年放射性廃棄物政策法に定められており、同法第301条では、DOEはプログラムの包括的な計画を示した「ミッション・プラン」を作成することが規定されています。
1985年のミッション・プランでは、処分場の操業開始を1998年に計画していました。しかし、その後、1987年に1982年放射性廃棄物政策法が修正され、サイト特性調査活動をユッカマウンテンのみに限定することになり、1987年のミッション・プランの修正版では、操業開始は5年遅れの2003年とされました。その後、1989年にさらに7年の遅れが発表され、2000年に公表された「民間放射性廃棄物管理プログラム・プラン第3版」では、操業開始を2010年と計画していました。
約20年間の調査研究の後、ユッカマウンテンの大統領へのサイト推薦が2002年に行われ、連邦議会の承認を経て最終処分場サイトとして決定されました。
その後、予定からは遅れたもののユッカマウンテンの建設認可に係る許認可申請の準備作業が進められ、DOEは、2008年6月3日に許認可申請書(約8,600ページ)、及び同月中に最終補足環境影響評価書など原子力規制委員会(NRC)に提出し、2008年9月8日にNRCが正式に受理しました。安全審査は一時中断があったものの審査が行われ、2015年1月29日までに、安全審査の結果を取りまとめた5分冊からなる安全性評価報告(SER)が作成されています。
エネルギー省(DOE)は、ユッカマウンテン・サイト適合性指針(10 CFR Part 963)に従って、処分場閉鎖前及び閉鎖後の期間でのサイト適合性を判定することとなっています。この指針では、処分場閉鎖前の期間については、処分場が本来の機能を果たし、発生確率が1万分の1以上の事象による影響を防止あるいは軽減できるかを、ユッカマウンテンに適用される安全基準に照らして評価することが規定されています。また閉鎖後の期間については、トータルシステム性能評価(TSPA)を用いて評価することが定められています。
このTSPAでは、右図に示されるように、処分システムによる廃棄物の隔離性能に対して影響を与え得る水文地質学、地球化学、熱、力学等のさまざまなプロセスモデルを組み込み、サイト特性調査で得られたデータ等を用いて、1万年を超える長期間にわたる処分場の性能について不確実性を考慮に入れた上でのシミュレーションが行われます。結果は、適用される安全基準との比較により、定量的に評価されています。
なお、サイト推薦に向けてのTSPA(2002年12月版)は、経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)による国際的なピアレビューも受けています。レビューチームからは、このTSPAは改善の余地はあるものの、サイト推薦の十分な根拠を与えるものだとの結論が示されています。
ユッカマウンテン・サイト適合性指針では、処分場システムの性能にとって重要なプロセスに対応した適合性基準として、以下のものが示されています。
また、ユッカマウンテン・サイト適合性指針では、以下の3つのシナリオについて評価することも定められています。
2008年6月にNRCへ提出されたDOEの許認可申請書には、NRCの10 CFR Part 63の改定案での規定内容に従って実施されたトータルシステム性能評価(TSPA)の結果が示されています。
処分場閉鎖後のトータルシステム性能評価の結果
(ユッカマウンテンの許認可申請書及び40 CFR Part 197・10 CFR Part 63最終版より作成)
これまで立地が進められてきたユッカマウンテン計画について、政権交代後の民主党による現政権は、計画を中止し、代替案を検討する方針です。これを受けて、エネルギー長官は、放射性廃棄物管理を含むバックエンド政策の代替案を検討する「米国の原子力の将来に関するブルーリボン委員会」(以下「ブルーリボン委員会」という。)を2010年1月に設置しました。2年以内での最終報告書の提出に向け、原子炉・核燃料サイクル、輸送・貯蔵、処分の3つの小委員会を設置して検討を進めました。
2011年5月13日には各小委員会の勧告案、引き続いて2011年5月末から2011年6月初頭にかけて各小委員会のドラフト報告書が公表され、意見募集が行われました。さらに、ブルーリボン委員会は、2011年7月29日に、1年半以内に提出が求められていたドラフト報告書を公表しました。このブルーリボン委員会の全体としてのドラフト報告書には、各小委員会のドラフト報告書に対する意見募集により得られた意見が反映されています。
ドラフト報告書が公開された以降は、2011年10月31日まで意見募集が行われ、この期間中には全米の5カ所でパブリックミーティングも開催されました。提出期限の2年以内に当たる2012年1月26日には、ブルーリボン委員会の最終報告書が公表され、8項目の勧告が行われました。
ブルーリボン委員会が行った8つの勧告
ブルーリボン委員会の勧告では、同意に基づくサイト選定プロセスなど、これまで進められてきたユッカマウンテン計画とは異なる処分場開発、中間貯蔵施設開発の進め方が示されています。しかし、どのような燃料サイクル政策を採用したとしても地層処分は必要との結論が示されています。また、地層処分のオプションとしては、従来進められてきた坑道型の地層処分場は妥当な選択肢とした上で、超深孔処分も有望な選択肢として研究開発を進めるべきと勧告しています。
また、処分場の母岩については、これまで研究が進められてきた岩塩、結晶質岩、粘土質岩、頁岩、凝灰岩、玄武岩など様々な岩種で処分が可能であり、岩種自体よりも地質環境と定置方法の選択が重要との見解が示されています。
ブルーリボン委員会の最終報告書を受け、連邦議会の指示に基づいて、DOEは、2013年1月11日に『使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の管理・処分戦略』(以下「DOE戦略」という)を公表し、2025年までに使用済燃料の中間貯蔵施設が使用可能となるようにサイト選定と許認可を実施すること、2048年までに地層処分場を実現するように処分場のサイト選定とサイト特性調査を進めることなどのスケジュールを中心とした右図のような戦略を示しました。
このDOE戦略では、廃止措置した原子力発電所で貯蔵されている使用済燃料の早期の引取りなどを進めるため、中間貯蔵のパイロット施設の開発を進めることとされています。
ブルーリボン委員会の勧告を実現するためには、ユッカマウンテンを最初の処分場候補地として定めている1982年放射性廃棄物政策法の改正が必要になるため、連邦議会でも法案の検討が行われています。上院に提出された「2015年放射性廃棄物管理法」の法案では、ブルーリボン委員会の勧告にほぼ沿った形で、新しい放射性廃棄物管理組織の設置、同意に基づくサイト選定プロセス、中間貯蔵施設の早期実現に向けた制度、新たな基金の創設などが織り込まれています。
DOEが管理している高レベル放射性廃棄物については、これまでは民間の原子力発電所から発生する使用済燃料等と一緒に処分することとしていましたが、これとは切り離して独立した処分を行うことが計画されています。DOE管理の高レベル放射性廃棄物の独立した処分計画は、2015年3月24日に、大統領も法律に基づいて是認するとした覚書を出しています。
1982年放射性廃棄物政策法では、エネルギー省(DOE)が処分場を開発すると定めており、また、DOEの中に民間放射性廃棄物管理局(OCRWM)を設置することを規定しています。このOCRWMが実際の処分計画を遂行し、サイト特性調査を行い、処分予定地としての適合性を評価するための研究を行いました。DOEが地下での試験・評価施設の建設、操業及び保守を実施することも規定されています。
OCRWMは、米国内の研究機関や管理・操業契約者(M&O)への委託等によって、処分技術や安全評価などに関する研究を進めました。2006年1月には、主導的研究所としてサンディア国立研究所が指定されました。また、カナダ、日本、フランス、スウェーデン、スイス、スペインの各国と放射性廃棄物処分に関する情報交換や共同研究を行いました。
1982年放射性廃棄物政策法の第211条は、エネルギー長官が高レベル放射性廃棄物及び使用済燃料の重点的かつ統合的な研究開発プログラムを作成しなければならないことを規定しています。この計画には、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究を実施し、そのための技術を統合的に実証するための施設の開発も含まれています。
原子力規制委員会(NRC)が定めた高レベル放射性廃棄物処分基準(10 CFR Part 60)では、DOEがユッカマウンテン地層処分場の建設認可に係る許認可申請を行うに当たり、地下試験の実施を義務づけていました。探査研究施設(ESF)の建設は1992年に開始され、1997年に完成しました。ESFの深度は約300mであり、本坑の全長は約7.9kmとなっています。ESFでは、ユッカマウンテンにおける地層の岩石学的性質や水文地質学的特性を把握するために、熱や水の移動に関する実験などが行われていました。
2013会計年度のエネルギー省(DOE)の予算要求資料において、ブルーリボン委員会の勧告への対応に関連した研究開発として「使用済燃料処分等プログラム」(UFDプログラム)が実施されていることが示されています。
2012会計年度のUFDプログラムにおいては、短期的な優先事項として、①標準的な輸送・貯蔵・処分コンテナの開発及び許認可のサポート、②処分場の地層の特性調査、③サイトに依存しない地層処分に関する研究開発、④貯蔵オプション及びそれぞれの利点の評価、⑤有力なパートナーシップの仕組みを含め、使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の代替管理方策の評価の開始、⑥使用済燃料の貯蔵の安全性に関連した課題へのDOE の評価能力の強化のような研究開発を実施しているとされています。
2013会計年度のUFDプログラムでは、①集中中間貯蔵及び輸送の課題の評価(最初は廃止措置された原子炉サイトを対象)、②産業界と協力して使用済燃料管理アプローチの標準化、③使用済燃料貯蔵の長期化をサポートするため材料試験の実施、④使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の安全輸送に関する全米科学アカデミー(NAS)レポートのレビューによって特定された実施作業の開始、⑤代替環境での地層処分の研究の開始(システムモデル化、天然バリア、人工バリア、設計概念の評価及び試験)のような研究開発を行うことが示されており、2014年1月16日に可決した2014年包括歳出法案によるUFDプログラムを含む燃料サイクル研究開発プログラムに係る歳出予算として実施されるものとなります。
なお、DOEは、超深孔処分のフィールド試験の実施を計画して実施者の公募を2度行い、2016年12月19日に、候補の4社を選定したこと、提案された候補サイトがテキサス州、ニューメキシコ州、サウスダコタ州にあること、最終的に1サイトに絞り込むことを公表しました。
会計年度 | 活動内容 | 予算要求額 (千ドル) |
2011 |
|
32,535 |
2012 |
|
59,650 |
2013 |
|
59,668 |
2014 | 使用済燃料処分等研究開発(3千万ドル)
高レベル放射性廃棄物管理・処分システムの設計活動(3千万ドル)
|
60,000 |