フランスにおける高レベル放射性廃棄物処分
2006年制定の放射性廃棄物等管理計画法には、地層処分場の設置許可申請は、地下研究所による研究の対象となった地層における処分場の設置に対してのみ申請が行えることを定めています。また、2016年7月に制定された法律により、設置許可申請は2018年までに行うよう求められています。
ANDRAによる処分場の設置許可申請の前には、公開討論会を開催しなければなりません。この公開討論会は、国家討論会委員会(CNDP)が主催するもので、ANDRAはその開催を地層処分の実施主体として支援する必要があります。また、設置許可申請の際には、国家評価委員会(CNE)による評価報告書、原子力安全機関(ASN)の意見書の作成に加えて、地元の意見が求められることになっています。
設置許可申請書には、公開討論会の報告書、CNEとASNによって出された各々の報告書が添付され、議会科学技術選択評価委員会(OPECST)に提出されます。OPECSTは申請書についての評価結果を議会に報告します。
処分場の設置許可は、公衆意見聴取等を経た許可デクレ(政令)によって発給されます。この後、ASNが処分場の可逆性と安全性を立証する「パイロット操業フェーズ」に限定した操業許可を発給します。
1987年に放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放射性廃棄物地層処分場のサイト選定を目的として、岩塩、粘土、頁岩(けつがん)、花崗岩という4つの地質媒体を有するサイトで調査を開始しました。しかし、地元で反対運動が起こり、1990年2月に政府は一時的に現地調査を停止することにしました。
この事態を打開するために、政府は議会科学技術選択評価委員会(OPECST)の委員であったバタイユ議員に、反対運動が生じた原因についての包括的な調査を依頼しました。同議員は1990年12月に調査結果を取りまとめ、OPECST報告書として議会に提出しました。政府はこの報告書を基に放射性廃棄物管理研究法の法案を作成し、同法は1991年12月30日に発効しました。
政府は、放射性廃棄物管理研究法の考えに従い、地下研究所の設置サイトの選定のためにANDRAが予備調査として特定地域での地質調査を実施するのに先立って、地質学的に適した一定数のサイトについて政治的及び社会的合意を得るための作業を行うこととし、その調停官としてバタイユ議員を任命しました。バタイユ議員率いる調停団は、地下研究所の受け入れに関心を示した28件の申請に対して、各申請地点に関する地質・鉱山研究所(BRGM)による地質学的な特性評価などを踏まえて申請地域が属する10県を選定しました。そのうちの8県で地元との協議を行い、1993年には4県のサイトを予備的な地質調査対象として提案しました。これを受けて、ANDRAは1994年から2年間にわたって予備的な地質評価作業を実施し、その結果、ビュール(ムーズ県/オート=マルヌ県)、ガール、ヴィエンヌの3カ所のサイトを提案しました。
政府は1996年6月に3サイトそれぞれについて地下研究所の建設及び操業許可申請書の提出を認めました。その後、ANDRAが行った3つのサイトに関する許可申請について、1998年12月に政府は省庁間決定として、異なる2種類の地質媒体に対する調査を2カ所の地下研究所で実施する必要性を示し、粘土層に関する地下研究所サイトとしてビュールを選定するとともに、花崗岩に関する地下研究所サイトを新たに探すことを指示しました。
1999年8月3日には、ビュールに地下研究所の建設及び操業を許可するデクレ(政令)、そして花崗岩の地下研究所については、新規サイトを選定するため、新たに調停官を置き、調停活動の開始を承認することを定めたデクレ(政令)が発給されました。この花崗岩サイトの選定について調停団は、ANDRAが予めリストアップした15カ所のサイトにおいて地元との対話を試みましたが、全国的な反対を受け、2000年5月には地元住民との対話を中断しました。
2006年の放射性廃棄物等管理計画法で規定されたスケジュール等に基づき、ANDRAは引き続き、ビュール地下研究所周辺の約250km2の区域を対象に、サイト選定に向けた調査を進めました。その結果から、1次案として同区域から4つの候補サイトを選定して地元関係者等と協議し、政府への提案準備を進めました。
2009年末にANDRAは、政府に対して候補サイトとして、地層処分場の地下施設の展開が予定される約30km2の区域(ZIRA)と地上施設を配置する可能性のある区域を特定して提案しました。ANDRAの提案は2010年3月に政府の了承を受け、調査・検討が続けられました。
現在ANDRAは処分場の地上施設の配置を検討しており、地下を結ぶ立坑の地上位置(ZIRA内)と斜坑入り口位置を提示しています。
公益事業共同体(GIP)の役割
放射性廃棄物等管理計画法により、地下研究所または地層処分場が設置される区域を有する県にGIPが設置されることになっています。GIPには、国、地下研究所または地層処分場の設置許可保有者、施設の周辺区域にある州(地域圏)、県、自治体などが加入できます。
GIPは、右に示す3つの役割があります。これらの役割を果たすための財源として、原子力基本施設(INB)に課税される連帯税及び技術普及税による税収の一部が割り当てられます。
GIPによる地域振興事業例
source: GIP報告書
当初1991年の放射性廃棄物管理研究法のもとで、ビュール地下研究所を有するムーズ県とオート=マルヌ県に2000年に設置されたGIPには、2006年までに、それぞれ年間約915万ユーロ(約10.4億円)が支給されました。その内訳は、ANDRAから約686万ユーロ(約7.8億円)、フランス電力株式会社(EDF)から約152万ユーロ(約1.7億円)、その他が約76万ユーロ(約0.9億円)でした。GIPへの助成金は以下のような地域の振興に役立てられました。
2006年の放射性廃棄物等管理計画法に基づく新たなGIPでは、参加自治体は今後処分場となる可能性のあるビュール地下研究所周辺の250km2の区域を包含する300以上の市町村へと拡大されました。GIPの予算規模は、2007年以降は年間2,000万ユーロ(22.8億円)/GIPに拡大され、更に2010年からは3,000万ユーロ(34.2億円)/GIPへと拡大されています。
廃棄物発生者による地域振興事業例
(木材ガス化プラント)
source: EDF
法的枠組みに基づいて設置される公益事業共同体(GIP)とは別に、ビュール地下研究所を有する地域において、廃棄物発生者であるフランス電力株式会社(EDF)、AREVA社、並びに原子力・代替エネルギー庁(CEA)が、処分場プロジェクトとは別に2015年までに1,000人の地元雇用を創出するという目標に相応する事業を地域と検討を進めながら実施しています。具体的には、当該地域をフランスのエネルギー戦略の拠点と位置付けた次表のような事業が2005年より展開されています。