フランスにおける高レベル放射性廃棄物処分
右図は、フランスにおける高レベル放射性廃棄物処分に係る実施体制を図式化したものです。実施主体である放射性廃棄物管理機関(ANDRA)を含め、主要な関係機関としては政策決定等を行う政府や議会、規制行政機関である原子力安全機関(ASN)が挙げられます。
政府や議会は2006年放射性廃棄物等管理計画法などの法律制定や各種政省令等の制定・公布を行い、放射性廃棄物管理の政策や方針の決定を行います。とくに、議会(国会)の常設委員会である議会科学技術選択評価委員会(OPECST)は、「可逆性のある地層処分」という基本方針の策定に深く関与しています。
政府の諮問組織として「放射性物質及び放射性廃棄物の管理研究・調査に関する国家評価委員会」(CNE、右図中では単に「国家評価委員会」と表記)が設置されています。CNEは当初、1991年の放射性廃棄物管理研究法に基づき、高レベル・長寿命放射性廃棄物の管理方策に関する3つの研究分野の進捗を毎年評価し、15年目に総括報告書をまとめる役割を担う組織として設置されました。その後も2006年の放射性廃棄物等管理計画法により、全ての放射性廃棄物の管理を評価対象として、年次評価報告書を取りまとめています。
原子力安全機関(ASN)の戦略計画
ASNのコミッションは、ASNの運営戦略を策定・公表し、ASNのVision, Task, Values, Goalを明確化しています。
source: ASN, STRATEGIC PLAN FOR 2010-2012
原子力分野の規制体制は、2006年6月に制定された原子力安全・情報開示法により、独立性を高めた形で再編されました。規制機関である原子力安全機関(ASN)は、中央省庁から独立させるために大統領府の下に新設され、大統領が任命する3名、議会(国会)の両院議長が任命する各1名の、計5名のコミッショナー制で運営されています。ASNを技術面で支援する組織として、放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)が設置されています。
また、原子力安全・情報開示法に基づき、ASNとは独立した「原子力安全情報と透明性に関する高等委員会」(HCTISN)が設置されており、国レベルで原子力安全及びその情報提供に関する問題の検討や意見提示を行います。
ANDRAは、放射性廃棄物の長期管理を実施する責任を有する、廃棄物発生者とは独立した立場の「商工業的性格を有する公社」(EPIC)という形態で設置されています。ANDRAは、当初フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)の一部門として1979年に創設されましたが、1991年の放射性廃棄物管理研究法の規定により、CEAから独立した組織として、現在の役割や機能が定められています。
ANDRAは、高レベル放射性廃棄物の処分実施主体であるほか、低中レベル放射性廃棄物の処分も実施しています。
フランスにおける高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放射性廃棄物の地層処分に適用される安全規制として基本となるものは、原子力安全・情報開示法です。同法の施行デクレでは放射性廃棄物処分場も対象となっている原子力基本施設(INB)の定義やその具体的な設置許可手続などが規定されています。
安全規則としては、1991年に策定された安全基本規則(RFS III.2.f)を置き換えるものとして、深地層における放射性廃棄物の最終処分に関する安全指針が原子力安全機関(ASN)により2008年に策定されています。この指針では処分場閉鎖後の安全性を確保するために、放射性廃棄物の地層処分場の設計及び建設段階で遵守する必要のある目標を定めています。また、処分場の設計及び建設の責任を負う実施主体であるANDRAは、ASNに対して、この規則の適用状態に関する報告を行うことが定められています。本指針では、処分場閉鎖後の長期安全の線量基準として、0.25mSv/年(個人線量当量)を設定しています。
実施主体の放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は、法律や国による計画、事業の節目に合わせて処分場の安全性に関する検討結果を報告書等としてまとめています。これらの検討結果は、原子力安全機関(ASN)や国家評価委員会(CNE)により評価されています。
放射性廃棄物管理機関(ANDRA)による処分場の安全性の研究については、1991年の放射性廃棄物管理研究法に基づく研究の後、2005 年に総合的な安全性に関する報告書が提出されました。同報告書に対し、国家評価委員会(CNE)は粘土層における地層処分を廃棄物管理の基本方針とできるとの評価を示し、また、当時の原子力安全当局も、放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)等による評価に基づき、処分の実現可能性及び安全性は確立されているとの意見を示しました。さらに、同報告書に対しては、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)によるレビューも行われました。
2006年には放射性廃棄物等管理計画法により、放射性廃棄物の管理等に関する国家計画(PNGMDR)を原子力安全機関(ASN)が中心となり3年毎に取りまとめる体制が作られ、ANDRAによる処分場の安全性の研究も計画の対象とされました。また、計画の実施状況については、CNEが毎年評価を行っています。
PNGMDRに基づき、ANDRAは地下研究所等での研究を継続し、2009年には処分場の操業中及び閉鎖後の安全、可逆性等に関する研究報告書を取りまとめました。この研究報告書の内容は、ASN が2008年に策定した安全指針にも準拠しています。
また、ANDRA は2018年に予定される設置許可申請書の提出に先立ち、処分場の操業中及び閉鎖後の安全性の確保の取組や回収可能性への技術的取組に関する書類をASNとCNEに2016年3月に提出し、意見を求めています。この書類に対しては、国際原子力機関(IAEA)による国際レビューも行われています。
高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放射性廃棄物の処分費用の負担については、放射性廃棄物等管理計画法の第16条により、フランス電力株式会社(EDF)、AREVA社、原子力・代替エネルギー庁(CEA)などの原子力基本施設(INB)を有する事業者が負担します。
フランスでは、2006年の放射性廃棄物等管理計画法により、高レベル放射性廃棄物等の中間貯蔵施設または可逆性のある地層処分場の建設・操業等の資金を、原子力基本施設(INB)の操業者が引当金として確保することを定めています。また、建設段階以降に、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)内に独立した会計管理が行われる基金を設置することも規定しており、必要な資金が操業者より拠出されることになっています(基金への資金拠出方法等の詳細は、基金設置時に定められる予定です)。
2015年末時点において、EDFは、フランスでの高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放射性廃棄物を含む放射性廃棄物全体の貯蔵・処分のために、82億5,400万ユーロ(9,400億円)を引き当てています。
高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放射性廃棄物の処分費用は、中間貯蔵施設または処分場の建設・操業・閉鎖・保守及びモニタリングが対象となっています。また、高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放射性廃棄物の処分費用は、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が見積りを行い、最終的にエネルギー担当大臣が処分費用の見積額を決定するとされています。
2014年にANDRAが見積もった処分費用は344億ユーロ(約3兆9,200億円、1ユーロ=114円として換算)でした。これに対し、2016年1月にエネルギー担当大臣は廃棄物発生者や原子力安全機関(ASN)の意見を踏まえ、処分費用の目標額として250億ユーロ(約2兆8,500億円)を示しました。