フランスにおける高レベル放射性廃棄物処分
フランスでは原子力発電で発生した使用済燃料を再処理しており、使用済燃料を再利用可能な資源と位置づけています。「可逆性のある地層処分」の対象となる高レベル放射性廃棄物は、使用済燃料の再処理によって生じる高レベル廃液を固化したもの(ガラス固化体)です。再処理によって発生するTRU廃棄物などの長寿命中レベル放射性廃棄物も同じ処分場内の異なる区画で併置処分する方針です。
なお、研究炉などをもち、原子力に関する研究開発を担当している原子力・代替エネルギー庁(CEA)から発生する同種の廃棄物も、同じ処分場で処分することになっています。
再処理等によって発生した高レベル放射性廃液は、高温で溶かされたホウケイ酸ガラスと混合され、ガラス固化体としてステンレス鋼製のキャニスタに封入されます。キャニスタ1本には、使用済燃料を約1.3トン再処理した場合に発生する高レベル放射性廃棄物が収納できます。これをさらに高さ1.3~1.6m、直径0.57~0.64m、厚さ約5cmの鋼鉄製の容器(オーバーパック)に封入して処分します。
ガラス固化体は、冷却のためにAREVA社(旧COGEMA社)のラ・アーグ再処理施設及び旧マルクール再処理施設(1997年に操業停止)の専用施設で貯蔵されています。
ビュール地下研究所で調査している粘土層での処分概念では、地下500mの粘土層内に処分坑道を建設し、多重バリアシステムによって廃棄物を隔離します。放射性核種を閉じ込めるために、次の3つのバリアからなる多重バリアシステムが考えられています。
処分場の地下部分には、高レベル放射性廃棄物の処分エリアと長寿命中レベル放射性廃棄物の処分エリアが設けられます。地下での建設作業や廃棄物定置作業の範囲を分けるために各処分エリアを細分化し、処分区域が設けられます。
処分場の地上施設は、作業員の移動や物資の搬送用の立坑入口を配置するエリアと、廃棄物を地下に搬入する斜坑入口を配置するエリアに分けられています。
ビュール地下研究所は、パリ盆地の東端に位置し、ムーズ県とオート=マルヌ県の境に位置しています。地表から約500mの深さのところにカロボ・オックスフォーディアン粘土層があり、その上下を石灰岩層に挟まれた形で一つの均質な地層(層厚:130~160m)が広がっています。この粘土層は約1億5千万年前に形成されたもので、透水性が非常に低いことが特徴です。
2006年に放射性廃棄物等管理計画法が制定され、高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放射性廃棄物の管理方策として「可逆性のある地層処分」を基本とする方針が定められました。この基本方針の実現に向けて、2025年までには処分場の操業を開始するとの目標スケジュールが同法内に盛り込まれました。処分場の設置許可申請に先立ち、国民各層から事前に意見を聴取し、申請内容に反映するために、公開討論会を開催することも定められています。
[2] 放射性廃棄物等の管理に関する国家計画(PNGMDR)
2006年の「放射性廃棄物等管理計画法」に基づき、3年毎に政府が策定します。現在有効なものは2017年2月に策定されたもの-2016~2018年の計画-です。高レベル放射性廃棄物だけでなく、すべての種類の放射性廃棄物の管理対策を議論しています。
また、フランスでは、放射性廃棄物等の管理に関する研究方針等を含む国家計画(PNGMDR)[2]を政府が3年毎に作成・改訂するとともに、議会に提出、公開する決まりです。こうした取組みの実施も、2006年の放射性廃棄物等管理計画法で定められています。現在、PNGMDRの取りまとめは、原子力安全機関(ASN)及び環境・エネルギー・海洋省のエネルギー・気候総局(DGEC)が担当しており、報告書は2007年以降3年ごとに公表されています。PNGMDRでは、フランスにおける放射性廃棄物管理の現状分析、ならびに最終管理方策の実現に向けた、研究開発を含む取組みの提案が報告され、計画の実現については、デクレ(政令)等により規定されます。
「可逆性のある地層処分」の実施主体であるフランス放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は、「高レベル及び長寿命中レベル放射性廃棄物の地層処分産業センター」(Cigéoプロジェクト)設置許可申請を行う予定であり、このプロジェクトに関する国家討論会が2013~2014 年に開催されました。この国家討論会に関する制度や開催成果の詳細は、「VI.2 処分事業の透明性確保とコミュニケーション」にまとめています。
公開討論会の結果を受けてANDRAは、2014年5月にCigéoプロジェクトの継続に向けた改善案を公表しました。改善案には、実際の処分場環での試験を可能とする「パイロット操業フェーズ」導入のほか、処分操業基本計画の定期レビューと市民社会の参画機会を設ける制度の創設などが含まれています。
ANDRAの提案を受け、2016年7月には新たに法律が制定され、地層処分場の設置許可申請を2018年までに行うことや、地層処分場の操業は、可逆性と安全性を立証する「パイロット操業フェーズ」から始まること等が定められました。また、パイロット操業フェーズの結果の審査後に、地層処分の可逆性の実現条件を定める法律が制定され、その後にASNは地層処分場の全面的な操業の許可を発給できるようになります。なお、地層処分場のパイロット操業フェーズの開始については、当初の操業開始目標である2025年が維持されています。
2016年 | 地層処分場の安全確保に関する意見請求書類の原子力安全機関(ASN) 及び国家評価委員会(CNE)への提出 |
2018年 | 地層処分場の設置許可申請 |
2021年以降 | 地層処分場の建設開始 |
2025年 | パイロット操業フェーズの開始 |
放射性廃棄物に関する研究・調査の進捗状況等の評価を行う国家評価委員会(CNE)は、今後のスケジュール見通しを右のように示しています。
高レベル放射性廃棄物及び長寿命中レベル放射性廃棄物の地層処分については、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が中心となって、原子力・代替エネルギー庁(CEA)、地質・鉱山研究所(BRGM)等の研究機関と協力しつつ、研究開発計画を作成し、実施しています。また、花崗岩を地質媒体とする地層処分については、スウェーデン、スイス、カナダ等と国際協力による研究開発も進められてきました。
2006年に制定された放射性廃棄物等管理計画法では、「可逆性のある地層処分」の実現に向けた研究とともに、それを補完する2つの研究の実施も示されました。1つは廃棄物内の「長寿命放射性核種の分離・変換」です。もう1つは「中間貯蔵」の研究であり、廃棄物を最終的に処分場に定置するまでの間、安全に保管・取り出しを行うことができる管理方法の実現を目的としています。
上記の法律では、目標スケジュールとして「可逆性のある地層処分」については、2025年には処分場の操業を開始できるよう研究を実施するとしています。また、2016年7月に成立した法律では、2018年までに処分場の設置許可申請を行うこととしています。
長寿命放射性核種の分離・変換については、新世代の原子炉及び放射性廃棄物の核種変換を専用に行う加速器駆動炉に関する研究及び調査との関連において研究を実施することとされています。中間貯蔵に関する研究については、中間貯蔵施設を2015年までに設置(または既存施設の改修)できるよう研究を実施するよう定められています。
ムーズ、オート=マルヌ両県にまたがるビュールサイトにおいて、粘土層を対象とした地下研究所の建設が1999年に決定されました。ANDRAは、2000年から建設を進めながら地下での調査研究も実施しています。
ビュール地下研究所では、主に深さ445mに設置された実験用横坑、深さ490mの主試験坑道及び主試験坑道から10%の勾配で上下方向に2本の斜坑が設置されており、さまざまな調査や試験が進められています。近年の研究開発の特徴としては、長寿命中レベル放射性廃棄物の処分坑道を従来よりも大径化しつつ岩盤を安定に維持する技術等の、安全性と経済性を両立させるための技術開発が挙げられます。