ドイツにおける高レベル放射性廃棄物処分
ドイツでは今後、2013年7月に制定されたサイト選定法に基づいて高レベル放射性廃棄物処分場のサイト選定手続きが行われます。処分の実施主体である連邦放射線防護庁(BfS)が手続きを実施し、2014年に設置された連邦放射性廃棄物処分庁(BfE)が手続きの全体を管理・監督します。
サイト選定法に基づくサイト選定では、BfS がBfEに対して提案する複数の候補地域から、地上探査、地下探査、最終的なサイトの比較と段階的に絞り込みが行われます。「地上探査の対象サイトの選定」「地下探査の対象サイトの選定」「最終的なサイトの決定」といった各段階における重要な決定も、連邦議会において連邦法を制定し確定されます。現在のスケジュールでは、2031年ごろまでに最終的なサイトを決定する予定となっています。
各段階では大まかな流れとして、まず実施主体のBfSがBfEに提案を提出し、それをBfEが公衆参加プロセス(「VI. 安全確保の取組み・コミュニケーション」参照)を経てレビュー後、政府に提案を提出します。政府はその提案を法案として連邦議会に上程し、議会審議を通じて、決定事項が連邦法として確定されます。
(Kommission Lagerung hock radioaktiver Abfallstoffe)
サイト選定法では「高レベル放射性廃棄物処分委員会」を設置し、地層処分に代わる処分方法の可能性についての検討を行うべきか、また、安全要件やサイト選定に関わる各種の基準、回収可能性などの問題の検討を行い提案することとされています。この提案についても、連邦議会が法律を制定し確定することになっています。
高レベル放射性廃棄物処分委員会は2014年5月に正式に発足し、議論を開始しました。高レベル放射性廃棄物処分委員会の構成及び役割は以下のように規定されています。
高レベル放射性廃棄物処分委員会は、約2年間の検討結果をとりまとめ、2016年7月に同委員会の勧告を含む最終報告書を連邦政府、連邦議会に提出しました。最終報告書では、放射性廃棄物の処分方法について、意思決定の可逆性及び定置された廃棄物の回収可能性を考慮した地層処分を勧告しています。また、サイト選定基準として、以下などの基準・要件を提案しています。
これらの基準・要件は、サイト選定の各段階での絞り込み手続きに適用されます。
また、高レベル放射性廃棄物処分委員会は、サイト選定手続きにおける公衆参加の枠組みとして、連邦レベルで社会諮問委員会、地域横断レベルで地域代表者専門会議、地域レベルで地域会議を設置することを提案しています。これらの組織は、地元住民がサイト選定の早期から対話に参加し、サイト選定における決定に関与することを実現するための広範な枠組みとして設置することが提案されています。
2017年3月にサイト選定法が改正され、サイト選定基準や公衆参加の枠組みを含む高レベル放射性廃棄物処分委員会の勧告の多くが法制化されました。
連邦と州首相のバックエンド決議(1979.9.28)
この決議文書では、ニーダーザクセン州が核燃料サイクル・バックエンドセンターをゴアレーベンに誘致する提案をしたことについて、連邦政府及び全州の首相からの感謝の意が述べられました。同決議には、ゴアレーベンの岩塩ドームについて、処分場としての適性を調査し、それが明らかとなった場合には、ニーダーザクセン州が許可を発給する意向であることも述べられ、1990年代末には処分場の操業を開始できるという見通しが示されていました。
ゴアレーベンのサイト調査の総括的中間報告書
1983年に、当時の実施主体であった連邦物理・技術研究所(PTB)は、ゴアレーベンが処分場の建設地として適切であると評価しました。
1970年代の旧西ドイツでは、核燃料サイクル・バックエンドに関係する全施設を一カ所に立地する、核燃料サイクル・バックエンドセンター構想がありました。放射性廃棄物を最終処分するには、ドイツ北部の岩塩ドームが最も適していると考えられていたため、連邦政府と、岩塩ドームが多く分布するニーダーザクセン州が中心となってサイト選定を進めました。
1976年にはニーダーザクセン州政府の任命したプロジェクトチームが、総数140の岩塩ドームから4段階での選定作業を開始しました。安全・環境面、地域への影響、経済的影響等に対する考慮などから4カ所に絞り、最終的には旧東西ドイツ国境近くのゴアレーベンを候補サイトとして選定しました。1977年2月に同州は連邦政府に対し、核燃料サイクル・バックエンドセンターをゴアレーベンに誘致する提案を行いました。
これを受けて、連邦政府は、連邦物理・技術研究所(PTB)を実施主体とし、1977年7月にPTBがゴアレーベンでの処分場建設の計画確定手続を開始しました。バックエンドセンター構想に反対の動きがあったものの、最終的には1979年9月に連邦と全ての州の首相が合同でバックエンド決議を行い、ゴアレーベンの調査を行い、処分場に適していることがわかった場合には、同地において処分場を建設することを決定しました。
PTBは地表からの調査を行い、1983年に「ゴアレーベンのサイト調査の総括的中間報告書」を取りまとめました。この報告書では、最終処分場を建設した場合の安全解析の結果も示しており、ゴアレーベンが処分場の建設地として適切であると評価しました。連邦政府はPTBの中間報告書を承認しました。その後、ニーダーザクセン州の許可を受けて、地下探査坑道の建設を伴う調査が1986年から開始されました。
1998年の総選挙による政権交代で、ドイツの原子力政策は大幅な見直しが行われました。原子力発電の段階的廃止を掲げた連立政権により、ゴアレーベン・プロジェクトにも疑問が投げかけられました。この結果として、2000年10月から10年間にわたり、新規に開始する地下探査活動が凍結されることになりました。この間、サイト選定手続きの見直しに向けた試みが行われましたが、結論を出すには至りませんでした。
サイト選定手続委員会(AKEnd)の最終報告書
とパンフレット
連邦政府は、1999年に連邦環境・自然保護・原子炉安全省(BMU)の下にサイト選定手続委員会(AkEnd)を設け、サイト選定手続きのあり方、岩塩以外の地層を含めたサイト要件等について再検討を指示しました。これと平行して、2000年8月にはBMUがプロジェクト・グループを設置し、国家放射性廃棄物計画の策定検討を開始しました。2001年には同計画の要点が公表され、2002年にはAkEndの検討報告書が取りまとめられました。しかしながら、国家放射性廃棄物計画の策定には至らず、新たなサイト選定手続きについても何らの決定に至りませんでした。
ゴアレーベンでの探査活動は2010年11月に再開されました。しかし、2011年3月の東京電力(株)福島第一原子力発電所事故後の同年6月、連邦政府は将来のエネルギー政策の重点項目の中で、ゴアレーベンでの探査活動と並行して、代替の処分オプションを選定するための手続きを検討する方針を明らかにしました。
連邦政府と州は2011年11月に、ゴアレーベンの代替処分サイトを選定する手続きに関する法案を策定することで合意しました。連邦と州の協議のもとで法案策定が進められ、法案は2013年4月に閣議決定された後、7月に議会を通過し、新しい法律「発熱性放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律」(サイト選定法)として成立しました。
ゴアレーベンで再開されていた探査活動は、サイト選定の見直しに伴い2012年11月に一時停止されていましたが、サイト選定法により一旦中止されることになりました。サイト選定法では、今後行われる手続きにおいてゴアレーベンが再度検討対象となる可能性を除外していませんが、その場合も他のサイトと同列の扱いをするよう規定しています。
ゴアレーベン自治体の位置
ゴアレーベンは、ドイツ北部のニーダーザクセン州のリュッヒョウ・ダンネンベルグ郡に属しており、エルベ川の沿岸にある、旧東西ドイツの国境付近の自治体です。面積は約2万km2、人口は1,000人に満たない自治体です。
ドイツでは放射性廃棄物処分場の建設等に関して制度化された地域振興方策はありません。しかし、ゴアレーベン・プロジェクトでは、関係自治体の地域振興のために連邦と州の間に2回にわたって行政協定が結ばれ、ゴアレーベン及び周辺自治体とそれらの自治体の所在するリュッヒョウ・ダンネンベルク郡の財政負担を補償するために補助金が支給されました。
第1回目の協定は1979年2月に結ばれ、1979年から10年間にわたって合計3.2億マルク(1979年当時の日本円にして約440億円)の補助金が連邦政府から州政府に支払われました。
第2回目の協定は1990年3月に締結され、1990年から6年間で総額9,000万マルク(1990年当時の日本円で約80億円)を支払う取り決めがなされました。2回目の協定による補助金の支払いは、処分場計画に反対する州が受け取りを拒否したため、最初の2年間で中断されました。
これらの補助金は法令に基づく制度的なものではないため、州を通じて支払いを受けた地元の郡及び自治体には、使途についての報告義務はありません。支給された補助金については、防災関連の支出のほか、観光振興のための特別プログラムや名所・旧跡のための特別プログラムに対する支援、道路、公会堂や保養センター等の公共施設の建設等が主な使途として報告されています。
一方、制度化されたものではありませんが、新たな枠組みによる処分場地元自治体等に対する地域振興方策が実施されている例もあります。
すでにサイトが決定し、処分場設置準備が進められている非発熱性放射性廃棄物(低中レベル放射性廃棄物に相当)のためのコンラッド処分場の立地地域では、地域振興を目的とした財団(コンラッド処分場財団と呼ばれています)が2011年12月に設置されました。廃棄物発生者である電気事業者と連邦は、同財団を通じて、処分場の閉鎖までの間、福祉や環境、若者支援、スポーツ振興、保養などのための立地地域振興事業に総額1億ユーロ(約134億万円)の資金を提供することになっています。この資金については、電気事業者が4分の3を、連邦政府が4分の1を拠出することになっています。
高レベル放射性廃棄物処分委員会は、2016年7月に公表した最終報告書において、処分場の影響を受ける地域に対し、処分場の建設と廃棄物の輸送に伴って生じる負担に対する持続的な補償を行うことが必要であるとしています。同委員会は、地域ごとの補償内容に関する戦略を策定し、連邦政府と処分場サイトが存在する地方自治体が協定を結ぶことで実施することを勧告しています。