目次

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ドイツ ドイツにおける高レベル放射性廃棄物処分

ドイツにおける高レベル放射性廃棄物処分

全体構成(章別)

目次


2. 地層処分計画と技術開発

2.1 処分計画

ポイント

  • ドイツでは1979年からゴアレーベン岩塩ドームにおいて高レベル放射性廃棄物の処分場候補地として探査が続けられてきました。しかし、2013年に高レベル放射性廃棄物処分場サイト選定に関する新しい法律が制定され、公衆参加型の新たな手続きによりサイト選定をやり直すことになりました。これに伴い、ゴアレーベンでの探査は2012年11月に中断されました。ゴアレーベンについては、今後のサイト選定手続きで再度検討対象となる可能性は否定されていませんが、その際も他のサイトと同列に扱うこととされています。

地層処分対象の放射性廃棄物

ドイツでは、全ての種類の放射性廃棄物を地層処分する方針です。廃棄物から発生する熱によって、地下の処分空洞壁面の温度上昇が3℃以上となる廃棄物を「発熱性放射性廃棄物」と区分しており、使用済燃料のほか、外国での再処理で製造・返還されるガラス固化体や中レベル放射性廃棄物(ハル・エンドピースなどの圧縮体など)がこれに該当します。ここでは、発熱性放射性廃棄物の地層処分について紹介します。

処分形態

Polluxキャスク使用済燃料用に予定されているPolluxキャスク
source: DBE

使用済燃料は右図に示したような複合構造の「Polluxキャスク」に収納して処分する方法が検討されています。この方法では、原子炉から取り出した使用済燃料集合体を解体し、燃料棒だけをPolluxキャスクに収納します。1999年にパイロット・コンディショニング施設がゴアレーベンに建設されており、燃料棒のPolluxキャスクへの封入試験が行われる予定です。

またガラス固化体は、処分用のキャスクに収納して処分する方法が検討されています。

使用済燃料のパイロット・コンディショニング施設
Piliot-Konditionierungsanlage (PKA)
使用済燃料のパイロット・コンディショニング施設
(1999年にゴアレーベンに建設)


処分場の概要(処分概念)

ゴアレーベンでの処分概念イメージ
ゴアレーベンでの処分概念イメージ
DBE社等,Final disposal and released waste management より引用

ドイツでは2013年に新たに制定された法律「サイト選定法」に基づき、サイト選定手続をやり直すことが決まっており、処分場サイトの母岩についても再検討することになっています。従来は、主に岩塩層における処分概念の検討が進められていました。

右の図は1979年~2011年までサイト特性調査が行われていたゴアレーベンでの処分概念を示したものです。地下840mの深さの岩塩ドームの中に処分坑道をレイアウトしており、その面積は約3km2となっています。

定置方式のバリエーション
定置方式のバリエーション
(左)処分坑道横置き方式、(右)処分孔縦置き方式
source: DBE社資料

ゴアレーベンでは、放射性廃棄物をキャスク等の金属製容器の人工バリアで包んだ上で、岩塩層という地質構造を天然バリアとして利用する多重バリアシステムの適用が検討されてきました。定置方式は、廃棄物の種類などによって2通りが考えられています。右図は処分坑道横置き方式と処分孔縦置き方式のイメージを示したものです。廃棄物の定置後に残る空間は、砕いた岩塩で埋め戻されます。

ドイツ北部における岩塩の分布

ドイツ北部における岩塩ドーム・鉱床の分布状況
ドイツ北部における岩塩ドーム・鉱床の分布状況
DBE社資料より引用

放射性廃棄物を隔離する上で天然バリアが最も重要な役割を果たすとの考えから、1970年代から岩塩層での処分可能性が注目されました。ドイツでは、岩塩の採掘経験が100年以上あり、その特性が良く知られていました。ドイツの岩塩層では特別な支保なしで数十年間自立する地下空間を掘削できること、長期的には自然の働きで開削空間が閉じられていくこと(クリープ現象)が確認されています。また、岩塩は熱伝導度が高く、廃棄物から発生した熱を周囲に逃がすことができるため、発熱性放射性廃棄物に適していると考えられていました。

岩塩構造のタイプ
岩塩構造のタイプ
ドイツ北部には地中で大きく盛り上がった形に発達した岩塩ドームと、枕のような構造の岩塩鉱床が数多く分布しています。
source:BfS, The Gorleben Salt Dome

ドイツ北部のゴアレーベンでは、最終処分地としての適性確認を目的とした地下探査活動が1979年から続けられてきました。ゴアレーベンの地表から約260mより深い部分には「岩塩ドーム」が形成されています。岩塩自体は約2億6千万年前に出来たものです。この岩塩層の上部に堆積した地層との比重差によって、長い年月をかけてドーム状に盛り上がって形成された構造です。ゴアレーベンの岩塩ドームの規模は長さ約14km、幅が最大約4kmあり、岩塩層は一番深いところでは地下約3,500mまで続いています。

ゴアレーベンでの処分深度は地下約840~1,200mの範囲で考えられていました。


ゴアレーベンでの探査活動の歴史

ゴアレーベンのサイト調査の総括的中間報告書(PTB,1983年)
ゴアレーベンのサイト調査の総括的中間報告書
1983年に、当時の実施主体であった連邦物理・技術研究所(PTB)は、ゴアレーベンが処分場の建設地として適切であると評価しました。

1983年5月、当時の最終処分事業の実施主体であった連邦物理・技術研究所(PTB)は『ゴアレーベンのサイト調査の総括的中間報告書』をまとめました。この報告書では、ゴアレーベンに地層処分場を建設した場合の安全解析が行われ、ゴアレーベンが処分場の建設地として適切であると評価されました。この評価結果を受けて、ニーダーザクセン州が地下探査に関する許可を発給し、1986年から探査坑道の建設が始まりました。

ゴアレーベンの地下探査活動は、連邦政府の1998年からの脱原子力政策の影響を受けて、2000年10月から10年間にわたり、新規の活動が凍結されていました。凍結解除後の2010年11月から、探査の目的を処分場としての適性確認に改め、探査活動が再開されました。しかし、サイト選定手続きを見直す方針となったことから、2012年11月にゴアレーベンでの探査活動の一時停止が決定されました。その後、2013年7月に施行された新たな法律「サイト選定法」により、探査は一旦終了しました。

サイト選定法では、ゴアレーベンは次の場合には検討対象から除外されるとして、他の候補サイトと同列に扱うことを規定しています。

したがって、ゴアレーベンが同法に基づく今後の手続きで改めて探査サイトとして指定されるまで、同地での探査は実施されません。

ゴアレーベン・サイトの概観
ゴアレーベン・サイトの概観
BMU・BfS資料より引用

右の図は、ゴアレーベンの地下探査坑道の概観を示したものです。ゴアレーベンの岩塩ドームには2本の立坑(933mと840m)が掘削されており、処分予定深度とされていた840mに探査用の水平坑道(総延長約7km)が展開されています。

これまでの探査活動は処分事業の実施主体であるBfSの委託を受けて、ドイツ廃棄物処分施設建設・運転会社(DBE社)が中心となって実施していました。なお、こうした探査活動自体は、連邦鉱山法に基づく規制下で行われていました。こうした探査活動自体は、連邦鉱山法に基づく規制下で行われていました。

なお、2013年7月に制定されたサイト選定法によるゴアレーベンでの探査終了を受け、地下探査坑道は一部を除き閉鎖されることが決まっています。


処分事業の実施計画

[1] BMUB
2013年9月の総選挙後の同年12月に発足した新政権での省庁改編により、連邦環境・自然保護・原子炉安全省(BMU)が「連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省」(BMUB)に名称が変わりました。

旧名称連邦環境・自然保護・原子炉安全省
新名称連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省

ドイツでは、連邦環境・自然保護・建設・原子炉安全省(BMUB)のもと、連邦放射線防護庁(BfS)が実施主体として処分実施主体として事業に携わってきました。しかし、2016年に法改正が行われ、実施主体として連邦放射性廃棄物機関(BGE)が設置されました。BGE は、2017年4月から活動を開始しています。

また、従来、処分場の設置・操業に関する許認可手続は州当局の所管でしたが、2014年に新たに、BMUB[1]の下に放射性廃棄物処分に関する規制機関として「連邦放射性廃棄物処分庁」(BfE)が設置され、今後はこの連邦官庁が、サイト選定手続きの管理からサイト決定後の設置・操業・閉鎖に至るまでの規制を一貫して担うことになります。なお、BfE の組織名称は、2016 年に法改正により「連邦放射性廃棄物処分安全庁(BfE)」に変更されています。

ドイツにおける処分事業の流れ
ドイツにおける処分事業の流れ
(2013 年サイト選定法以降の計画)

2013年7月に制定された「発熱性放射性廃棄物の最終処分場のサイト選定に関する法律」(サイト選定法)では、はじめに「高レベル放射性廃棄物処分委員会」を設置して、処分概念やサイト選定に関する基準や選定手続きのありかたを検討することが求められています。この委員会は2014年5月に正式に発足し、2016年6月末に検討結果をまとめた報告書を連邦議会・政府に提出しました。高レベル放射性廃棄物処分委員会が勧告したサイト選定基準等は2017年3月にサイト選定法が改正され、連邦法として確定されました。サイト選定法では2031年末までに処分場サイトを連邦法を制定し確定することが目標として示されています。


2.2 研究開発・技術開発

ポイント

  • 放射性廃棄物の最終処分のための研究開発は、地層処分事業の実施主体である連邦放射線防護庁(BfS)及び契約により実質的な作業をしているドイツ廃棄物処分施設建設・運転会社(DBE社)が行ってきました。
  • 地層処分の研究は、地質関係の研究所である連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)のほか、国立の3研究所、施設・原子炉安全協会(GRS)等の機関によっても進められています。

研究機関

地層処分に関する研究開発は、サイト候補地として地下探査も行われてきたゴアレーベンを中心とする調査と、より一般的な調査・研究とに分けられます。ゴアレーベンに関わる調査・研究は、実施主体である連邦放射線防護庁(BfS)及び同庁との契約により実質的な実施主体としての作業を担当しているドイツ廃棄物処分施設建設・運転会社(DBE社)が行ってきました。ゴアレーベンの岩塩ドームにおける地下探査坑道は、実質的に地下研究所としての機能を果たしてきたと言えます。

一方、一般的な調査・研究は各種機関がそれぞれの専門領域の研究活動を行っています。中心的な機関としては、地質関係の研究所である連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)、その他ユーリッヒ、カールスルーエ、ロッセンドルフの各国立研究所(FZJ、FZK、FZR)、施設・原子炉安全協会(GRS)、大学研究室等が挙げられます。

研究計画

ドイツにおける地層処分に関する研究開発については、サイト固有のものとサイトに依存しない基礎研究とが存在しています。サイトに固有の研究開発については、ゴアレーベンにおいて行われてきましたが、2013年7月のサイト選定により新たにサイト選定が行われることになったため、現在は行われていません。

また、サイトに依存しない基礎研究は、連邦経済・エネルギー省(BMWi)、連邦教育・研究省(BMBF)を中心として行われています。高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、処分対象として考えられていた岩塩の他に結晶質岩及び堆積岩、そして岩種に依存しない研究も行われています。

地下研究所

1965年に、放射性廃棄物の最終処分に関する調査・研究を実施するために、かつては岩塩鉱山であったアッセⅡ研究鉱山を当時の放射線・環境協会(GSF)(現在のミュンヘン・ヘルムホルツセンター)が取得しました。ここで1967年から77年まで中低レベル放射性廃棄物の試験的な処分が行われましたが、その後は高レベル放射性廃棄物の岩塩層への処分等に関する地下研究所となりました。

アッセⅡ研究鉱山での実規模キャスクを用いた実験の模様
アッセⅡ研究鉱山での実規模キャスクを用いた実験の模様
source: DBE

現在はアッセⅡ研究鉱山の研究所としての機能は実質的に終了しています。2009年1月からは、連邦放射線防護庁(BfS)が同鉱山の閉鎖に向けた手続きを実施主体として進めています。2010年1月、BfSはアッセⅡ研究鉱山の閉鎖に関して、試験的に処分した低中レベル放射性廃棄物の回収が最良であるとする評価結果を公表しました。また、2013年には廃棄物の回収を優先オプションとしたうえで閉鎖の促進を目的として原子力法が改正されました。

現在は、現在廃棄物の回収措置の計画の策定に向けた準備作業(廃棄物を定置した処分室の試験的な掘削及び調査など)が行われています。また、ゴアレーベンの岩塩ドームにおける地下探査坑道も、実質的に地下研究所としての機能を果たしてきたと言えます。





全体構成
ドイツ