カナダにおける高レベル放射性廃棄物処分
サイト選定プロセスの策定と進捗の経緯
2008年8月 | NWMOが地層処分場サイト選定手続きに関する協議文書を公表 |
2008年9月~12月 | NWMOがサイト選定手続きに関する意見募集を実施 |
2009年5月 | NWMOがサイト選定計画案を公表し、意見募集及び協議を開始 |
2010年5月 | NWMOがサイト選定計画の最終版を公表し、全9段階からなるサイト選定プロセスの第1段階を開始 |
2012年9月 | NWMOがサイト選定プロセスへの参加に係る関心表明の受付を一時中断 |
核燃料廃棄物の長期管理アプローチとして“適応性のある段階的管理”(APM)の採用が決定した後、NWMOは、地層処分場のサイト選定プロセスに関する具体的検討を開始し、2009年5月にサイト選定計画案を公表しました。サイト選定計画案についてNWMO は、意見募集を行うとともに、同案を評価・議論するための公衆との対話集会などを実施しました。NWMOは、これらの活動において収集した意見を含めて計画案の最終化を進め、2010年5月に9つの段階で構成されるサイト選定プロセスを含むサイト選定計画の最終版『連携して進む:カナダの使用済燃料の地層処分場選定プロセス』を公表するとともに、プロセスの第1段階を開始しました。
サイト選定プロセスにおいてNWMOが守るべき行動原則
NWMOはサイト選定プロセスを構想する際に、①カナダ国民が大切にしている価値や目標に沿っていて、②オープンで、透明、公正、包括的であり、③科学、専門性及び倫理的な最高の基準に適合するように配慮しました。NWMOは、サイト選定プロセスの過程で学習し、後続段階に反映させていく考えです。目標から逸脱しないように、NWMOがサイト選定を進める上で守るべき行動原則を決めました。右に示す13項目の簡潔な表現で示しています。
この原則(4番目)にあるように、NWMOはサイト選定プロセスを「原子力立地州」-オンタリオ、ケベック、ニューブランズウィック、サスカチュワンの4州―に焦点を当てる考えです。この原則は、NWMO が2002年から3年間行った核燃料廃棄物の長期管理アプローチに関する研究過程において、カナダ国民との対話で生み出されたものです。“公正さ”は核燃料サイクルと直接の関係をもつ州に焦点をあてることで最も良く達成されるという考え方です。
NWMOが進めているサイト選定プロセスは下の表に示すように、9つの段階で構成されています。このサイト選定手続きは、手続きに関する情報を求める自治体や地域を公募し、地層処分プロジェクトに対し関心表明を行った地域の中から処分場候補地を選定していくものです。NWMOは、プロセスに参加する地域や自治体は、第6段階において処分場の受け入れに関する最終的に同意するまで、プロセスから撤退できるとしています。
NWMOは、サイト選定における検討事項として安全性を確保するための基準のほか、社会、経済、文化等の安全性以外の要素を評価するための基準も提示しています。後者の要素は、NWMO がプロジェクトに関与する自治体の長期的福祉または生活の質の向上を目指していることを反映したものです。
準備段階 | NWMOは、その活動に関して、州政府、連邦政府、様々な先住民族組織(国と州レベルの組織)及び規制機関に説明した上で、最終版としたサイト選定計画を公表する。 |
第1段階 | NWMOがサイト選定プロセスを開始。プロジェクトとサイト選定プロセスに対するカナダ国民の意識を高めるプログラムを実施する。 |
第2段階 | 知識を深めたい自治体に対してNWMOが詳細な説明を行う。自治体から求めがあれば、初期スクリーニングを行う。 |
第3段階 | 関心を示す自治体について、潜在的な適合性の予備的評価が行われる。 |
第4段階 | 関心を示す自治体について、影響を受ける可能性のある周辺自治体が未参加の場合は参加させる。詳細なサイト評価を完了する。 |
第5段階 | 適合するサイト(=suitable sites)の存在が確認された自治体〔複数〕は、プロジェクトの受け入れ意思を決定し、プロジェクトを進める条件を提示する。 |
第6段階 | NWMOが優先サイト(=The Preferred site)を選ぶ。NWMOと優先サイトの所在自治体〔1つ〕は、プロジェクト受け入れに係る正式協定を締結する。 |
第7段階 | 規制当局は、独立した正式な公式のプロセスを通じてプロジェクトの安全性を審査する。安全要件が満たされている場合、プロジェクトを進めることを承認する。 |
第8段階 | 地下実証施設の建設・操業 |
第9段階 | 地層処分場と地上施設の建設・操業 |
地層処分場のサイト選定プロセスは、2010年5月から開始されました。9段階のサイト選定プロセスは、自治体がたどる段階を示す形となっており、プロセスに参加している自治体によって、現在の段階数が異なります。自治体がNWMOに対して「知識を深めることの関心表明」を行うことで第2段階がスタートします。2012年9月末までに22の自治体が関心表明を行い、NWMOは既に受け付けた自治体の調査や対応に注力するためにサイト選定計画への関心表明の受付を一時中断しました。
第2段階で実施する初期スクリーニングの適性基準
第2段階では、関心表明を行った自治体全域を対象として、NUMOが既知の情報に基づく初期スクリーニングを実施します。右に示す5項目の基準と照らした結果、関心表明を行った22自治体のうち1自治体では、地層処分場の母岩として潜在的に適する地層を含む可能性が低いことからサイト選定プロセスがないことからサイト選定プロセスから除外されました。初期スクリーニングをパスした21自治体は、2014年末までにいずれも第3段階に進むことを望みました。
第3段階では、使用済燃料の処分プロジェクトを受け入れに関する自治体の潜在的な適合性の予備評価が実施されます。主な検討事項は、①人間及び環境に対する安全性とセキュリティ、②地域の福祉、③地域がプロセスに残留する可能性、④周辺地域の福祉です。
サイト選定プロセスの第3段階の調査にあたり、NWMO は当初の計画を修正して、前期と後期(第1・第2フェーズ)に分けました。机上調査を行う前期(1~2年)と現地調査を行う後期(3~4年)の間で中間評価を行い、後期を実施する自治体の絞り込みがなされます。
NWMOは自治体の要請により、第3段階第1フェーズの調査過程で地層処分場の立地見通しが低いことを示唆する情報を得た場合には、その旨を早めに当該自治体に通知しています。自治体側からサイト選定プロセスからの撤退を決定した自治体も1つあります。
2015年10月にサイト選定プロセスへの参加が最も遅かったセントラルヒューロン自治体での第3段階第1フェーズの調査が完了し、結果として11自治体が第3段階第2フェーズに進む結果となりました。
その後NWMOは2015年3月に、空中物理探査などの現地調査の結果から地質構造が複雑であり、地下に多くの亀裂があることから立地見通しが低いと判断された2自治体(下図中③⑦)を除外しました。
2017年6月には、ボーリング調査など地質工学的な調査を進めていく上で、当該地域の住民に十分な信頼感を与えるほどには関心・学習を拡大できなかったとして、さらに2自治体(下図中⑩㉑)を除外しました。また、2017年12月に、現地調査枠内でボーリング調査を計画するなかで、調査対象エリアへのアクセスが地形の起伏が激しいために困難である2自治体(図中⑫⑬)を除外しました。現在、オンタリオ州の5自治体がサイト選定プロセスに残っており、一部の自治体ではボーリング調査が進められています。
カナダの地方自治体について
地方自治制度は連邦ではなく州の管轄であり、州によって異なっています。上層自治体と下層自治体の二層制、州の下に基礎自治体がある一層制が混在しています。二層制の場合、上層自治体はリージョンや郡(カウンティ)と呼ばれ、下層自治体とは権限や役割が異なります。下層自治体は主として人口によって呼称が異なり、市(City)、町(Town)、村(Village)、タウンシップ(Township)などがあります。
地層処分場プロジェクトの関連施設やインフラが建設・操業されると、地元に何十年間も大きな経済的利益が生じると予想されています。技術の移転や習得機会など、受け入れ地域や州に大規模な雇用と所得収益を提供すると考えられています。一方、社会的、経済的環境を大きく変えてしまう可能性があることから、地域社会の長期的健全性と持続可能性を確かにするために慎重に対処する必要があるとしています。
このような認識から、サイト選定における実施主体の行動原則に挙げられているように、カナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は「自治体の福祉」を重視しています。地層処分場を受け入れる自治体は利益を得る権利をもつと認め、自治体や地域の長期的福祉または生活の質を高める方法でプロジェクトを実施すると確約しています。
NWMO のサイト選定プロセスでは、第4段階において、技術的安全性と地域社会の福祉面に関する評価を目的として「専門技術センター」を設置する計画です。このセンターの在り方は、地元とのパートナーシップを通じて具体化する考えです。自治体の福祉を促進する計画概要については、サイト選定プロセスの第6段階において、地元自治体と取り交わす協定書に盛り込むとしています。現在の所、カナダでは地層処分場の立地に関連して、地元の地域振興を目的とする法的枠組みはありません。