カナダにおける高レベル放射性廃棄物処分
核燃料廃棄物管理に関わる主な行政機関として、核燃料廃棄物局(NFWB)とカナダ原子力安全委員会(CNSC)があります。NFWB は天然資源省(NRCan)の内部組織であり、核燃料廃棄物法に基づき核燃料廃棄物管理全体を監督します。また、CNSC は、原子力安全管理法によって設立され、原子力と放射性物質の使用に関する規制機関としての役割を担っています。
カナダでは、2002年に制定された核燃料廃棄物法において、使用済燃料の管理責任を有する原子力企業が核燃料廃棄物管理組織を設立することが規定されました。原子力企業とは、オンタリオ・パワージェネレーション(OPG)社、ハイドロ=ケベック社、ニューブランズウィック・パワー社、及びカナダ原子力公社(AECL)を指します。2002年にこれら4社が共同して、核燃料廃棄物の長期管理アプローチの政府への提案、並びに政府が承認・決定したアプローチを実施する組織として、カナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)を設立しました。
NWMOは核燃料廃棄物法の規定に従い、自らの活動について諮問あるいはレビューを受けるために、諮問評議会を設置しています。この諮問評議会はNWMOに対して助言を行ったり、報告書を独立して評価しています。
なお、NWMO は2009年より、OPG社の委託を受けて、原子力発電所から発生する低中レベル放射性廃棄物の地層処分場(DGR)の安全評価を含む技術支援や地元コミュニケーションなどの業務を実施しています。
カナダの原子力発電事業者の一つであるオンタリオ・パワージェネレーション社(OPG 社)は、自社の原子力発電所から発生する低中レベル放射性廃棄物の地層処分場(DGR)をウェスタン廃棄物管理施設(ブルース原子力発電所に敷地内)に建設する計画です。OPG 社はDGRプロジェクトを2001年から進めてきました。DGR で核燃料廃棄物(使用済燃料)が処分されることはありません。
2009年1月に、OPG社とカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、OPG社が行うDGRに係る許認可申請に向けて、NWMO が技術支援等を行う契約を締結しました。DGR関連業務に従事していたOPG社の人材がNWMOに移り、地質調査や安全評価、環境評価、地元とのコミュニケーションなどの業務をNWMO が継承しました。OPG 社は、DGRの許認可申請を2011年にカナダ原子力安全委員会(CNSC)に提出しました。この申請書に添付された環境影響評価書、予備的安全評価書などは、OPG社のためにNWMOが準備したものです。2011年にOPG 社は、追加的な地質調査や具体的な処分場施設の設計をNWMOに委託しています。
NWMOは核燃料廃棄物の処分実施主体ですが、OPG社の委託を通じて、異なる種類の放射性廃棄物を対象とした地層処分場の安全評価を実施しており、こうした活動はNWMOの能力向上にも役立っていると考えられます。
カナダ原子力委員会(CNSC)の規制文書
その文書の性質により、以下の4種類があります。
原子力安全に関しては「カナダ原子力安全委員会(CNSC)の設置及び関連法の改正のための法律」(原子力安全管理法、1997年3月20日)により、安全規制当局としてCNSC が設置されています。原子力施設の所有・運転にはCNSC の許認可が必要です。CNSCは、原子力安全管理法に基づいて、原子力の利用や放射線防護に関する規則を策定する権限を有しています。許認可取得者が遵守すべき一般的な要件は、一般原子力安全管理規則に示されており、許認可保持者に対して、原子力施設の廃止、許可の更新や修正、廃止においてCNSCに対する申請を求める規則などが定められています。
CNSC は、放射性廃棄物管理施設を含むクラスI原子力施設について、該当施設のサイト準備、建設、操業、廃止措置の実施の際には許可が必要であると規定しています。放射線防護規則において、許認可取得者が原子力従事者に対して放射線防護に関する義務等を規定しており、線量限度については国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に沿った値を採用しています。
これらの規則の他に、CNSCは法律や規則を補足する規制方針、規制基準、規制指針、規制通知等の規制文書を策定しています。放射性廃棄物処分に関係する策定済みの規制文書としては、規制方針P-290「放射性廃棄物の管理」と規制指針G-320「放射性廃棄物の長期安全性の評価」があります。
2016年12月末 信託基金残高 (百万カナダドル) |
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オンタリオ・パワージェネレーション(OPG)社 | 3,687 |
ハイドロ=ケベック(HQ)社 | 142 |
ニューブランズウィック・パワー・ニュークリア(NBPN)社 | 152 |
カナダ原子力公社(AECL) | 50 |
合計 | 4,031 (約3,628億円) |
(出典:NWMO2016年次報告書)
2002年の核燃料廃棄物法において、核燃料廃棄物の長期管理に必要な資金を確保する仕組みが導入されました。使用済燃料の発生者である原子力発電事業者3社(オンタリオ・パワージェネレーション社、ニューブランズウィック・パワー社、ハイドロ=ケベック社)とカナダ原子力公社(AECL)は、それぞれ独自に信託基金を設立し、この基金に毎年預け入れることになっています。信託基金には、核燃料廃棄物の地層処分場の建設及びそれ以降で発生する費用を確保します。これらの信託基金からの資金の引き出しは、処分実施主体であるカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)だけができると定められています。
各社は信託基金に対して、年末の残高が前年6月時点で発生している核燃料廃棄物を将来に処分するために現時点で保有すべき金額(割引後の金額)を超えるように毎年預け入れます。2016年12月末時点において、信託基金の残高合計は約40億カナダドル(約3,628億円)となっています。(1カナダドル=90円で換算)
なお、サイト選定活動などNWMOが将来に立地する地層処分場の建設許認可を受けるまでに発生する費用は、NWMOを設立した原子力電力事業者3社とAECLが核燃料廃棄物の処分量比率に応じて分担しており、年度毎に会計処理されています。
原子力発電事業者3 社とカナダ原子力公社(AECL)の信託基金への拠出額を算定するために、NWMO は処分費用を算定しています。拠出額算定に用いる処分費用の見積もりは2016 年に見直しさており、地層処分場のサイト選定を含む「適応性のある段階的管理」(APM)プログラムの実施に必要な費用を約183億カナダドル(2015年価格、約1兆6,500 億円)と見積もっています。この金額は以下のような仮定で算定した額です。
こうした仮定は信託基金の形で確保される資金額を合理的な範囲で早期に多くする意図で設定しているものであり、「適応性のある段階的管理」(APM)に含まれている浅部地下空洞での集中貯蔵のオプションを排除したわけではありません。
使用済燃料の長期管理アプローチの選択肢別コスト比較
(出典:NWMO『進むべき道の選択』2005年11月)
選択肢 | 費用累計(億カナダドル) | |
350年後まで | 1,000年後まで | |
①地層処分 | 162 | 163 |
②原子力発電所での貯蔵継続 | 176 | 684 |
③集中貯蔵及びその継続 | 200 | 470 |
④適応性のある段階的管理(APM)※ | 244 226 |
244 226 |
※上段は地下浅部での集中中間貯蔵を実施する場合、下段はしない場合の額
(出典:NWMO『進むべき道の選択』2005年11月)
NWMO が使用済燃料の長期管理アプローチを研究した際(2002~2005年)には、4つの選択肢について実施開始から1,000年間を対象とした費用比較をおこなっています。4つの選択肢は次のものです。
①地層処分
②原子力発電所のサイト内貯蔵の継続
③集中貯蔵の継続
④適応性のある段階的管理(APM)…集中中間貯蔵を折込みつつ、最終的に地層処分
選択肢の②と③では、貯蔵施設を300年ごとに建て替えると仮定しています。選択肢①は30年後から地層処分を開始し、100年後から処分場を閉鎖するスケジュールを仮定したものです。
選択肢④はカナダの長期管理アプローチとして決定したものであり、30年後から30年間の集中中間貯蔵を組み込み、60年後から地層処分を開始、最大300年後まで処分場の閉鎖を延期するスケジュールを仮定しています。その後、処分場の閉鎖には25年を要するとしています。
「適応性のある段階的管理」(APM、選択肢④)の実施に必要となる費用は、処分の前段階として地下浅部での集中中間貯蔵施設を建設する場合には244億カナダドル(2兆2,000億円)、建設しない場合には226億カナダドル(2兆340億円)と推定されていました。