カナダにおける高レベル放射性廃棄物処分
カナダの原子力発電所で運転されている原子炉はいずれもCANDU炉と呼ばれる形式です。この炉では燃料として天然ウランを用い、長さ約50センチメートルの短尺燃料集合体を使用しています。既存の原子炉が予定通り運転される場合、CANDU炉から発生する使用済燃料の総数は約460万体(ウラン換算で約87,400トン)となる見込みです。
使用済燃料の処分容器(ベッセル)の構造
○直径約1.2m、長さ約4m
(出典:NWMO 技術レポートTR-2012-01)
使用済燃料は再処理せず、燃料集合体の形状のままバスケットに収納し、それを二重構造の処分容器に密封して処分する方法を検討しています。処分容器は二重構造であり、内側は鋼鉄製、外側は銅製(結晶質岩の場合)または鋼鉄製(堆積岩の場合)とする設計を検討しています。
処分実施主体であるカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、処分場の候補岩種・処分深度・処分場の規模などの具体的な処分場設計を決定していませんが、2010年5月に公表したサイト選定プロセスの最終案を示した報告書『連携して進む:カナダの使用済燃料の地層処分場選定プロセス』では、地層処分場を約500mの深さの場所に設置することを想定しています。
使用済燃料は、特別に設計、認可された輸送容器に原子炉サイトで封入され、処分場で耐食性のある処分容器に再び封入されます。容器は定置区画まで搬送された後、岩盤に掘削された垂直または水平の処分孔内に定置され、ベントナイトにより埋め戻されます。
NWMOは、使用済燃料の処分容器として大きく2種類の予備設計を行っています。マーク1コンテナは、使用済燃料を324体収納する設計であり、重量は約23.5トンになります。小型軽量化を目指したマーク2コンテナは、使用済燃料48 体を収納する設計であり、重量は3トン未満です。
使用済燃料は、地層処分の実施の全段階を通じてモニタリングされ、さらに、どの時点でも回収可能なようにされます。アクセス坑道や立坑は、自治体、NWMO、及び規制機関が適切であると合意した場合のみ埋め戻し、密封されます。
[2]カナダ楯状地
北米大陸の北東部に広がっている先カンブリア紀(約45億年前~5.4億年前)に形成された岩盤です。西洋の楯を伏せた形状に似ていることから、このように呼ばれます。
カナダ盾状地の花崗岩の分布
(出典:NWMO『適切な問題設定をしているか?』2003年)
地層処分場の設置深度は地下約500メートルが考えられています。候補岩種としては、カナダ盾状地[2]の結晶質岩(約45億年前~ 5.4億年前に形成)、もしくはオルドビス紀の堆積岩(約4億5,000万~ 5億年までの間に形成)が考えられています。
カナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、長期管理アプローチとしてNWMO が提案し、カナダ政府が2007年6月に決定した「適応性のある段階的管理」(APM)を実施しています。この計画では、政府がこのアプローチを進めると決定した時点から起算して、処分開始は約60年後としています。カナダ国内の使用済燃料を全て一カ所の地層処分場に移すには約30年かかるため、地層処分場での使用済燃料の定置は60年後から90年後までの期間になされる予定です。非常に長い時間枠ですが、NWMOは「適応性のある段階的管理は柔軟であり、条件が整えば必ず加速できる」としています。
使用済燃料の定置期間中と定置後も、アプローチの採用決定時点から300年後まではモニタリングを継続できると想定しています。適切なモニタリングのあり方と期間は将来の社会が決定し、NWMOは自治体等とともにモニタリングを実施すると考えです。また、処分場を最終的に閉鎖する時期と方法についても将来の社会が決定するとしています。
[3]独立技術評価グループ(ITRG)
ITRG はNWMO の研究活動などの技術プログラムが適切な科学的・技術的手法に基づき、NWMOの技術知識を進歩させているかどうかや、NWMOの使命を果たすために十分な技術的リソースを有しているかどうかについて、確認するために2008年に設置されました。
ITRGは核燃料廃棄物の地層処分プロジェクトの実施の分野において国際的に認められた4名の専門家で構成されており、現在はスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)、スイス放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)、カナダ・アルバータ大学の専門家、及び英国のコンサルタントがメンバーとなっています。
核燃料廃棄物(使用済燃料)の処分実施主体であるカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、核燃料廃棄物処分の長期的アプローチとして採用された「適応性のある段階的管理」(APM)の実施をサポートするための技術的研究を進めています。技術的研究プログラムはNWMOのほか、カナダ国内の大学を含む専門的な技術者によって実施され、独立技術評価グループ(ITRG)[3]により年に一度レビューされています。また、NWMOは、スウェーデン、フィンランド、スイス、フランスなどの海外の組織とも連携して研究を進めています。
2007年6月にカナダ政府が「適応性のある段階的管理」(APM)の実施を決定した後、NWMO は、向こう5年間の行動計画をまとめた「APM 実施計画書」を2008年以降毎年作成しています。これには研究や技術開発の計画も含み、パブリックコメントを受けるために事前に公表され、公衆の意見を考慮して正式に発行されます。このような計画書の作成は法律では義務づけられていません。
研究や技術開発に関する成果を含むNWMOの活動状況のレビューは、年次報告書と3年次報告書で行われています。これら2 種類の報告をNWMOが行う義務は、核燃料廃棄物法で定められています。2017年3月に取りまとめられた最新の2016年次報告書は、2014~2016年の活動を対象とした3年次報告書に当たります。環境大臣は、NWMO の年次報告書に関する声明書を毎年発表しています。
NWMOが2002年に設置される以前に高レベル放射性廃棄物の処分・管理の研究開発を実施していたカナダ原子力公社(AECL)は、マニトバ州のホワイトシェル研究所近郊に地下研究所(URL)を建設しています。この施設は花崗岩の地下約450mにあり、処分候補母岩の存在するカナダ楯状地を対象とした原位置試験が行われていました。
この地下研究所では、地表及び地下の特性調査、地下水・核種の移行研究、地下水の地球化学及び微生物学、温度及び時間の経過に伴う岩盤の変形及び破壊の特性分析、コントロールボーリング及び発破とその影響の評価、埋戻し材の開発と性能評価などの研究が行われました。1998年にAECLはURLを含むホワイトシェル研究所での作業を終了させることを発表し、その後、URLの閉鎖作業が2006年から開始され、2010年に恒久的に閉鎖されました。
カナダでは、2002年にカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立される以前は、核燃料廃棄物の地層処分研究はカナダ原子力公社(AECL)が実施していました。AECLは1994年10月に取りまとめた『カナダの核燃料廃棄物の処分概念に関する環境影響評価書』(EIS)において、仮想的な処分システムに対する最初のケーススタディと位置付けた安全評価を行いました。AECLの処分概念に関するケーススタディは2004 年までの間に計3回実施されました。
NWMOは自身が検討している地層処分場の概念を対象とした処分場閉鎖後の安全性に関するケーススタディを行っており、2012年から複数回にわたって報告書を公表しています。規制機関のレビューを受ける形の包括的な安全評価は今のところ実施されていません。NWMO が2017年3月に策定した実施計画では、検討中の処分場概念とバリア設計に対する安全評価を2017年に完成させることを目指すとしています。