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HLW:CA:chap1

カナダ カナダにおける高レベル放射性廃棄物処分

カナダにおける高レベル放射性廃棄物処分

全体構成(章別)

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1. 高レベル放射性廃棄物の発生状況と処分方針

ポイント

  • カナダでは、カナダ型重水炉(CANDU炉)から発生する使用済燃料を再処理せずに高レベル放射性廃棄物として、当面60年間はサイト貯蔵または集中貯蔵を実施し、最終的には地層処分するという「適応性のある段階的管理」(APM)を長期管理アプローチとしています。


原子力エネルギー政策の動向

カナダでは、国家レベルでのエネルギー政策については連邦政府が権限を有しているものの、天然資源の保有をはじめ、州内でのエネルギー開発や規制の権限は基本的に州政府にあります。そのため、原子力エネルギー政策についても州ごとに異なっていますが、国としては原子力の平和利用を推進する方針です。

カナダの原子力発電事業者
カナダの原子力発電事業者

[1]CANDU 炉
カナダ原子力公社(AECL)が開発。原子炉の減速材と冷却材に重水(天然水中に0.02%含まれる)を使用する圧力水型の原子炉であり、燃料として天然ウラン(ウラン235を濃縮していない)を利用します。バンドルと呼ばれる長さ約50センチメートルの短尺燃料集合体を原子炉に横置きで装荷する設計であり、原子炉の運転を止めずに燃料交換できる点が特徴です。CANDU炉はカナダを含む7カ国で運転されており、中国に2基、韓国に4基あります。

カナダの原子力産業の国際競争力を強化するという政府方針に基づき、2011年にAECLの商業用の発電用原子炉部門が民間(CANDUエナジー社)へ売却されました。

カナダでは1952年に設立されたカナダ原子力公社(AECL)が天然ウランを燃料とするカナダ型重水炉(CANDU炉)[1]を開発しました。商業用の原子力発電所は、オンタリオ州、ケベック州、ニューブランズウィック州の計5カ所に建設され、1971年から1983年にかけてCANDU炉が計22基導入されました。2016年末時点で19基が運転中であり、うち18基がオンタリオ州に、1基がニューブランズウィック州にあります。

現在のカナダ政府は、原子力発電をエネルギーミックス上の重要な構成要素と見なしています。2011年3月の東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故後もその方針に変更はありません。


使用済燃料の発生と貯蔵(処分前管理)

ウェスタン廃棄物管理施設での使用済燃料の乾式貯蔵
ウェスタン廃棄物管理施設での使用済燃料の乾式貯蔵
(出典:NWMO, Backgrounder 2010: Project Description)

カナダでは、原子炉から取り出された使用済燃料は、その時点で“廃棄物”と見なされており、「核燃料廃棄物」と呼ばれています。天然ウラン(自国で産出)を燃料としているために燃焼度が低く、従って含有するプルトニウム量も少ないために、再処理は経済的に適さないと考えられています。

原子力発電所で発生した使用済燃料(=核燃料廃棄物)は、発生元の発電所で貯蔵されています。原子炉から取り出された使用済燃料は、プールで6~10年間冷却した後、乾式の管理施設へ移されます。2016年6月時点での貯蔵量は約268万体(ウラン換算で約54,000トン)、うち120万体(約45%)が乾式貯蔵されています。


処分方針

カナダでは使用済燃料を「核燃料廃棄物」としていることからもわかるように、再処理せずに高レベル放射性廃棄物として処分する方針です。核燃料廃棄物の長期管理アプローチは「適応性のある段階的管理」(APM:Adaptive Phased Management)と呼ばれるもので、2007年6月にカナダの国家方針として決まりました。このアプローチは、最終的には地層処分を目指すものですが、その達成までの期間(300年またはそれ以上)を下の表のように3つのフェーズに分けて取り組むものです。

地層処分の実施だけを見ると、第1期での地層処分場サイト選定、第2期の地下特性調査施設での技術実証と確認を経て、第3期(約60年後)から核燃料廃棄物の処分を開始できる予定です。しかし、地層処分場が利用可能となるまでに、現在行われている各原子力発電所での使用済燃料貯蔵に代えて、一カ所に集めて貯蔵する方針となった場合の計画をあらかじめオプションとして組み込んでいます。この場合には、第2期(約30年後から)において、地下浅部での中間貯蔵を実施する予定です。このための貯蔵施設は、地層処分場と同じサイトに立地する計画です。各原子力発電所にある使用済燃料をどこか1カ所に輸送するのに約30年を要すると考えられています。

「適応性のある段階的管理」(APM)の概要


処分方針が決定するまでの経緯

使用済燃料の長期管理アプローチが決定するまでの経緯

1978年 連邦政府とオンタリオ州による核燃料廃棄物管理計画の策定
1994年 AECL が核燃料廃棄物の処分概念に関する環境影響評価書を発表
1998年 環境評価パネルが、「技術的には可能だが社会的受容性が不十分」という報告書を連邦政府へ答申。連邦政府が環境評価パネル報告書に対する見解を公表
2001年 天然資源省が核燃料廃棄物法案を議会に提出
2002年 核燃料廃棄物法が施行され、原子力事業者が実施主体として核燃料廃棄物管理機関(NWMO)を設立。事業規制・監督官庁として核燃料廃棄物局(NFWB)が天然資源省(NRCan)内に設置
2005年11月 NWMOが最終報告書を提出し、「適応性のある段階的管理」(APM)を政府に提案
2007年6月 天然資源大臣がNWMO の提案を承認し、政府が管理アプローチを決定

カナダにおける高レベル放射性廃棄物処分事業は、当初は、カナダ原子力公社(AECL)が中心となって進めていました。1978年に、連邦政府とオンタリオ州は核燃料廃棄物管理計画に関する共同声明を発出し、AECL主導のもとで地層処分の研究開発が開始されました。AECLは、その成果を環境影響評価書として1994年に公表しました。

環境影響評価書をレビューする組織として、天然資源省(NRCan)が1989年に設置した“核燃料廃棄物管理・処分概念の評価パネル”(環境評価パネル)は、1998年2月に「技術的には可能だが、社会的受容性が不十分である」と結論した勧告を連邦政府に提出しました。連邦政府は1998年12月に、環境評価パネルの勧告にほぼ同意するとの政府見解を発表しました。

その後、天然資源省(NRCan)は、実施主体の設立、核燃料廃棄物(使用済燃料)の長期管理アプローチの策定、資金確保制度の確立などを目的とした法整備を進めました。2002年6月に核燃料廃棄物法が成立、2002 年11月から施行されました。この法律に基づいて、核燃料廃棄物管理の実施主体として核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立されました。

核燃料廃棄物の長期管理アブローチとして3つの選択肢 ─ ①地層処分、②原子力発電所のサイト内貯蔵、③集中貯蔵 ─ を含む複数アプローチをNWMO が検討してカナダ政府に提案することが核燃料廃棄物法で定められました。

『進むべき道の選択:カナダの使用済燃料の管理』(NWMO,2005年11月)
NWMO が2005年11月に取りまとめた核燃料廃棄物の
長期管理アプローチに関する最終報告書
『進むべき道の選択:カナダの使用済燃料の管理』

NWMOは、2003年から2005年にかけて協議報告書を作成・公表するとともに、各地で対話集会、ワークショップや専門家との対話・円卓会議などを行って2005年11月に最終報告書『進むべき道の選択:カナダの使用済燃料の管理』を取りまとめました。この中でNWMOは、最終的には地層処分を行うが、当面約60年間は、サイト貯蔵、集中貯蔵を実施するという “適応性のある段階的管理”(APM)を提案しました。その後、天然資源大臣の勧告を受けてなされた2007年6月の総督決定により、APM がカナダの使用済燃料の長期管理アプローチとして決定しました。





〔参考資料〕

カナダの原子力発電利用状況

電源別発電電力量の変遷

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電力需給バランス

2015年 カナダ 単位: 億kWh (=0.01 x GWh)
総発電電力量 (Total Production) 6,708.51
- 輸入 (Imports) 87.26
- 輸出 (Exports) -682.55
国内供給電力量 (Domestic Supply) 6,113.22
国内電力消費量 (Final Consumption) 5,030.65

source: «Energy Statistics 2017, IEA» Canada 2015:Electricity and Heat

原子力発電の利用・導入状況

  • 稼働中の原子炉数 19基, 1,355.3万kW(2018年1月)

source: World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements (WNA, 世界原子力協会)


原子力関連施設

カナダの主要な原子力関連施設の立地点





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