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《スイス》NAGRAが地質学的候補エリア間の比較可能性の確保のために弾性波探査を実施へ

スイスにおける地層処分場のサイト選定手続きに関係する州の代表によって構成される州委員会は、2011年4月19日付のプレスリリースにおいて、2011年から2012年の冬期に、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が弾性波探査を実施することを公表した。今回の弾性波探査は、3カ所の高レベル放射性廃棄物処分場の地質学的候補エリアのうち、既にボーリング調査等により詳細な情報が得られているチューリッヒ北東部以外の2カ所を対象としたものであり、ジュラ東部1 、及び北部レゲレンで実施される。この弾性波探査の目的は、全ての地質学的候補エリアの比較可能性の確保・改善としている。

州委員会は、特別計画「地層処分場」(以下「特別計画」という)に基づき設置されており、州内に地質学的候補エリアが含まれる7つの州に、近接する地方バーゼル半州を加えた8つの州の代表が参加している他、スイスの連邦エネルギー庁(BFE)や連邦原子力安全検査局(ENSI)、及びドイツの関係官庁の代表等が助言を行っている。州委員会は、2010年8月に、3段階のサイト選定のうちの第1段階(地質学的候補エリアを確定するまでの段階)に対する見解を公表していた。州委員会は、全体としては第1段階のプロセスが目的に適っていると評価する一方で、候補となりうる全ての母岩を検討すべきことや、明らかになっていない点が調査によって解明されるまでは、適性を有する地質学的候補エリアを除外すべきではないことなどを勧告していた。

弾性波探査の実施地点

弾性波探査の実施地点(Ⓒ2011swisstopo)

プレスリリースによると、高レベル放射性廃棄物の3カ所の地質学的候補エリアのうち、チューリッヒ北東部(チュルヒャー・ヴァインラント)については、すでに1997年から1999年に弾性波探査とボーリング調査が実施されている2 。今回の弾性波探査は、右図に示すように、主としてジュラ東部、及び北部レゲレンの2カ所の地質学的候補エリアで実施する予定であり、探査対象には約100の自治体が含まれる。弾性波探査は、可能な限り公道を利用して、車両または発破により発生させた振動を、最大220メートルまで掘削するボーリング孔内や地上で観測することで行われる。振動測定のために掘削するボーリングは、地下の地層の正確な調査を行うためのものであり、地層処分場のためのボーリング孔の掘削や探査ボーリングと混同すべきものではないとしている。探査においては、事前に自治体への説明や州当局と協議し、NAGRAが土地所有者に連絡をした上で実施する。

なお、特別計画は、サイト選定の第2段階で行われる予備的安全評価のための追加調査の必要性の検討を求めており、また原子力法は、地球科学的調査には環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK)の許可が必要であることを規定している。ただし、原子力法及び原子力令は、弾性波探査や物理探査等、影響の少ない地球科学的調査については許可が不要であることを規定している。また、UVEKの許可が求められる地球科学的調査の第2段階における実施の必要性について、NAGRAはこうした調査を実施しなくても予備的安全評価は可能と判断しており、また、ENSIもこの判断を肯定している

 

【出典】

【2011年10月6日追記】

放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、2011年10月5日付のプレスリリースにおいて、弾性波探査が、2011年10月24日に開始され、2012年3月上旬に完了する見通しであることを明らかにした。
探査は、地質学的候補エリアであるジュラ東部(上図の、青の破線で囲まれた2つのエリアのうち、左側)の、アールガウ州にある西側の部分を対象とした探査から開始され、地質学的候補エリアである北部レゲレン(青の破線で囲まれた2つのエリアのうち、右側)の、チューリッヒ州にある東側の部分を対象とした調査で完了する予定である。探査は、図で黄色で示された14本の探査ラインに沿って、合計約260kmにわたって実施するとされている。
なお、高レベル放射性廃棄物の3カ所の地質学的候補エリアのうち、残りの1カ所であるチューリッヒ北東部では、すでに弾性波探査等が実施されており、今回の弾性波探査の対象外となっている。

【出典】

  1. 連邦エネルギー庁(BFE)は、2011年2月17日付のプレスリリースにおいて、地元の希望により、地質学的候補エリア「ベツベルク」の名称が「ジュラ東部」に、地質学的候補エリア「チュルヒャー・ヴァインラント」の名称が「チューリッヒ北東部」に変更されたことを発表している []
  2. NAGRAは、チューリッヒ北東部におけるボーリング調査等の成果を踏まえ、スイス国内における高レベル放射性廃棄物等の処分の実現可能性を実証した「処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書を2002年に公表している。同プロジェクトにおける安全評価の詳細は、原環センターのウェブサイト「安全評価事例集」を参照。
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(post by y-nishimura , last modified: 2024-02-13 )