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《スイス》州委員会がサイト選定の第1段階に対する見解を表明

スイスにおいて、特別計画「地層処分場」(以下「特別計画」という)に基づき設置されている州委員会は、2010年8月16日付のプレスリリースにおいて、地層処分場のサイト選定手続の第1段階1 に対する見解を公表した。州委員会は、全体としては第1段階のプロセスが目的に適っていると評価する一方で、地質学的候補エリアに関して明らかになっていない点を、今後の調査で解明するよう勧告している。 

州委員会は、関係する州、隣接州及び隣接諸国の政府代表者間の共働を実現し、サイト選定手続の実施において連邦政府を支援し、連邦政府に対して勧告を行うことを目的として設置されたものであり、8つの州2 の代表によって構成されている。スイスでは2010年の夏以降、3ヵ月間にわたって、サイト選定の第1段階における放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)の地質学的候補エリアの提案、及び提案に対する安全規制当局の評価に対する、州、隣接諸国、政党などからの意見聴取が実施されることとなっている。今回の州委員会の見解は、意見聴取における州による見解表明を支援するために取りまとめられたものであるが、意見聴取における各州の見解を拘束するものではないとされている。 

プレスリリースには、以下の5点について州委員会の見解がまとめられている。 

  1. 安全性と地質
  2. 「計画範囲」と地域参加プロセスに参加する自治体の設定
  3. 地域参加プロセスの構築
  4. 「地域開発上の評価手法」の策定
  5. 情報公開とコミュニケーション

1.  安全性と地質:透明性は高いものの、追加調査が必要

州委員会は、要求される安全性の実現のためには、適切なサイトの選定が必要であるという認識を示し、サイト選定手続が政治的な対立を克服するための必要条件として、以下の4点を示している。 

  • 候補となりうる全ての母岩を検討しなければならない。データの不足している点は、調査によって補わなければならない。
  • いずれかの母岩を候補から除外する際には、十分な知見に基づかなければならない。除外した場合には、科学的に根拠を明らかにし、透明性のある説明を行わなければならない。
  • 時期尚早で、不確実かつ不均質なデータに基づく地質学的候補エリアの評価は避けなければならない。
  • 明らかになっていない点が適切な調査によって解明されるまでは、適性を有する全ての地質学的候補エリアを候補として維持しなければならない。科学的な評価と予測が行われ、比較可能な知見が得られる前に、いかなる地質学的候補エリアの除外も優先順位の設定も行ってはならない。

州委員会は、低中レベル放射性廃棄物について6カ所、高レベル放射性廃棄物について3カ所の地質学的候補エリアを今後も対象とすることの必要性に留意しつつ、一方で、サイト選定の第2段階の終了前に、明らかになっていない点を、適切なフィールド調査3によって解明するよう勧告している。州委員会は、追加的な調査によってはじめて、全ての地質学的候補エリアの比較評価が可能になるとしている。なお、追加的な調査の例としては、処分容量及び広域的な透水特性の確認のための弾性波調査や、母岩と第四紀地質に関する知見の向上のためのボーリング調査が挙げられている。 

2.  「計画範囲」と地域参加プロセスに参加する自治体の設定:透明性が高い

州委員会は、地上施設を建設する可能性のある地点である「計画範囲」の設定(2009年12月21日既報)については透明性が高いとしている。他方で、地域参加プロセスに参加する自治体4 の設定は、柔軟に理解する必要があり、第1段階の残りの期間においてさらに調整が必要であるとしている。 

3.  地域参加プロセスの構築:目的に適っている

州委員会は、これまで行われてきた地域参加プロセスの構築を目的に適っているものと評価しつつ、地域参加プロセスの構築において可能な限り裁量を認めることが必要であると勧告している。 

4.  「地域開発上の評価手法」の策定:追加調査が必要

サイト選定の第1段階において策定した「地域開発上の評価手法」を利用して、第2段階において地層処分場が環境、経済、社会に及ぼす影響が評価される(2009年5月22日既報)。この点について州委員会は、地域のまとまりと、地層処分場が地域のイメージに与える影響についての、比較可能な調査の実施を勧告している。 

5.  情報公開とコミュニケーション:透明性が高く、公平

州委員会は、特別計画による各組織間の明瞭な役割分担の規定が、はっきりとしたメッセージによるコミュニケーションの実現に貢献してきたと評価している。また、情報提供についても透明性が高く公平に実施されてきたと評価している。 

参考①:スイスにおけるサイト選定手続の決定の経緯

スイスでは、1990年代から2000年代前半にかけて、ヴェレンベルクにおいて低中レベル放射性廃棄物の地層処分場を建設するプロジェクトが進められたが、2度の州民投票で州が発給した許可が否決され、プロジェクトは断念された5

その後、2005年2月に施行された原子力法は、処分場を含む原子力施設についての地球科学的調査、概要承認、建設、運転(操業)、閉鎖に関しては、連邦政府のみが許可を発給することを規定している。また、2008年4月には、州などに対する意見聴取の結果も踏まえて、サイト選定手続等を定めた特別計画「地層処分場」が策定された(2008年4月10日既報)

原子力法及び特別計画「地層処分場」の規定によれば、地層処分場のサイトの決定には連邦評議会が発給する概要承認が必要である。連邦評議会が発給した概要承認については、議会による承認が必要であり、議会承認は、5万人の有権者の申請等により実施される国民投票の対象となる。 

 

参考②:スイスにおける放射性廃棄物の処分の実現可能性の実証

スイスでは、1978年の「原子力法に関する連邦決議」及び連邦政府の要求によって、原子力発電所の新規建設・運転に必要な概要承認の発給及び既存の原子力発電所の運転許可延長の要件として、原子力施設を建設や操業しようとする者に対して、国内における放射性廃棄物の処分の実現が可能であることの実証が求められていた。

放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、スイス北部の結晶質岩や堆積岩を対象として、処分の実現可能性の実証のためのプロジェクトを実施し、2002年にはチュルヒャー・ヴァインラントのオパリナス粘土を対象とした調査結果に基づき、「処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書を作成し、連邦政府に提出した(2002年12月25日既報)。連邦評議会は、関連当局の検証の結果(2005年10月6日既報)を踏まえ、2006年6月に、「処分の実現可能性実証プロジェクト」によって、処分の実現可能性が実証されたことを承認した(2006年7月5日既報)

なお、「処分の実現可能性実証プロジェクト」の提出の際に、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は今後の調査対象をチュルヒャー・ヴァインラントのオパリナス粘土のみに絞ることを提案したが、この提案を連邦評議会は却下している。

【出典】

  • 州委員会、2010年8月16日付プレスリリース
  • 州委員会、特別計画「地層処分場」第1段階に対する見解、2010年7月
  • 特別計画「地層処分場」(2008年4月2日)〔英訳版〕
  • 原子力法
  • 原子力令
  • 原子力法に関する連邦決議
  1. スイスにおける地層処分場のサイト選定は、第1段階(複数の地質学的候補エリアの選定)、第2段階(複数の候補サイトの選定)、第3段階(サイトを選定し、概要承認手続を開始)の3段階で行われることとなっており、第1段階は、連邦評議会が地質学的候補エリアを選定することで2011年に完了する予定となっている。 []
  2. 8つの州は、州内に地質学的候補エリアが含まれるチューリッヒ州・トゥールガウ州・アールガウ州・シャフハウゼン州・ゾロトゥルン州・ニドヴァルデン州・オプヴァルデン州(2008年11月11日既報)に、地方バーゼル半州を加えた各州である。また、州委員会には、投票権は有さないが、スイスの連邦エネルギー庁(BFE)、連邦原子力安全検査局(ENSI)、ドイツの連邦環境・自然保護・原子炉安全省(BMU)、及びドイツの3つの自治体の代表者も参加している。 []
  3. フィールド調査については、2009年12月21日速報に対する2010年7月16日の追記を参照 []
  4. 地域参加プロセスは、地質学的候補エリアに一部でも含まれる自治体、「計画範囲」に一部でも含まれる自治体、及び「計画範囲」に含まれる自治体に隣接し、経済や観光の点で特別な関係を有する自治体で構成される。詳細は、2010年6月3日の既報を参照 []
  5. ヴェレンベルクにおける低中レベル放射性廃棄物の地層処分場の建設に向けたプロジェクトについては、2002年9月26日及び2004年1月14日の速報、並びに ポイントピックアップ「概要承認」の「放射性廃棄物処分事業における概要承認申請の例」を参照。なお、ヴェレンベルクは、特別計画「地層処分場」に基づくサイト選定手続においても、低中レベル放射性廃棄物の地質学的候補エリアとして提案されている。 []

(post by y-nishimura , last modified: 2023-10-11 )