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《米国》2018会計年度の予算方針を公表―ユッカマウンテン計画の予算を要求

米国で2018会計年度1 の大統領予算教書に係る予算方針を示した文書(以下「予算方針文書」という。)が、大統領府管理・予算局(OMB)のウェブサイトで公表され、エネルギー省(DOE)の予算として、ユッカマウンテン処分場に係る許認可活動の再開及び中間貯蔵プログラムの開始のために1億2,000万ドル(約125億円、1ドル=104円で換算)が計上されている。ユッカマウンテン処分場の許認可手続については、2013年8月13日の連邦控訴裁判所の判決 により原子力規制委員会(NRC)における許認可申請書の審査の再開が命じられたものの、連邦議会はNRCによる許認可手続の予算を計上せず、過年度の残予算の範囲内で安全審査等の活動が実施されたが、許認可発給のための裁判形式の裁決手続は再開されていなかった

2018会計年度の予算方針文書では、これらの投資は、放射性廃棄物に対する連邦政府の義務の履行を加速し、国家安全保障を強化し、将来の税負担を軽減するものとしている。なお、今回公表された予算方針文書では、主な省庁のみが対象とされており、原子力規制委員会(NRC)の予算は示されていない。DOE全体の予算については、約5.6%の削減要求となっている。また、大統領府予算管理局(OMB)からは、2017会計年度の予算において軍事費を増額して他の一般歳出を削減する修正要求も公表されているが、軍事費以外の詳細については示されていない。

予算方針文書の公表についてDOEは、エネルギー長官の声明がニュースリリースとして公表されているが、放射性廃棄物関連を含め、具体的な内容についての言及はない。また、連邦議会上下両院の歳出委員会の委員長からもプレスリリースが出されているが、予算要求の内容についての具体的な言及はない。

ユッカマウンテン計画に反対するネバダ州選出の連邦議会議員からは、ユッカマウンテン関連の予算が要求されたことを非難するプレスリリースが出されている。一方、原子力エネルギー協会(NEI)は、DOEの研究開発費の削減には懸念を示しながらも、ユッカマウンテン処分場の許認可活動の再開と中間貯蔵プログラムの両者に予算要求が行われたことについて歓迎することを趣旨とするニュースリリースを出している。

なお、テキサス州は2017年3月14日に、連邦政府は1982年放射性廃棄物政策法(1987年修正)に定められた高レベル放射性廃棄物処分に係る義務を果たしておらず、同意に基づくサイト選定プロセスの取組などは同法に違反しているなどとして、連邦政府を相手取った訴訟を起こしている。テキサス州の訴状では、違法性の確認などとともに、DOE及びNRCがユッカマウンテン処分場に係る許認可手続の予算を要求すること、許認可申請書の審査の再開を命じることを旨とする判決が出されることを求めている。

【出典】

 

【2017年3月22日追記】

米国の連邦議会下院のエネルギー・商務委員会及び同環境小委員会の委員長は、連名での2017年3月20日付け書簡において、今回就任したエネルギー長官に対して、大統領予算教書に係る予算方針においてユッカマウンテン処分場の許認可手続再開のための予算が含められていることを評価する旨を表明した。また、エネルギー省(DOE)の放射性廃棄物管理政策について、以下の事項を要請した。

  • 法律で要求されているOCRWMの再設置
    1982年放射性廃棄物政策法(1987年修正)(以下「放射性廃棄物政策法」という。)では、エネルギー長官に対して直接的に責任を負う民間放射性廃棄物管理局(OCRWM)について、同法による高レベル放射性廃棄物処分プログラムの実施に係る組織として設置する旨が規定されており、放射性廃棄物管理政策の実施には専門的に設置された機関が必要である。
  • 軍事起源廃棄物の独立した処分に係る2015年決定の見直し
    軍事起源の高レベル放射性廃棄物 (以下「軍事起源廃棄物」という。)の処分については、1985年の大統領決定を受けて、既に37億ドル(約3,800億円、1ドル=104円で換算)の税金を使用してユッカマウンテン処分場の開発を行ってきており、軍事起源廃棄物の独立した処分場を開発するのであれば、2015年決定の基となった費用・スケジュールの再評価が必要である。
  • ネバダ州及びナイ郡への資金提供
    放射性廃棄物政策法は、処分場により影響を受ける地方政府の技術的活動を支援するための資金提供を認めており、ネバダ州のステークホルダーとの建設的対話構築の一歩として資金提供を行うことが望ましい。
  • 放射性廃棄物政策法の修正に向けた協働
    DOEが使用済燃料の中間貯蔵施設の開発が必要とするのであれば、処分場での処分という確立された放射性廃棄物管理政策と抵触しない形でプログラムが推進できるよう、放射性廃棄物政策法の修正のために協力することを期待する。
  • 放射性廃棄物基金からの支出の月次報告
    2013年8月13日の連邦控訴裁判所の判決 以降、DOEの放射性廃棄物処分勘定の残高及び支出対象活動の説明に係る月次報告書を要求しており、今後も同様に、放射性廃棄物基金からの支出の詳細な報告を継続するよう要求する。

なお、下院エネルギー・商務委員会では、連邦議会議員とともにユッカマウンテンの視察を計画しており、本書簡ではエネルギー長官の視察参加も呼び掛けている。

【出典】

 

【2017年3月29日追記】

米国のエネルギー省(DOE)は、2017年3月27日付のニュースリリースにおいて、ペリー・エネルギー長官がネバダ州のユッカマウンテン処分場予定地を視察し、その後、ネバダ州知事と会談したことについて、エネルギー長官の声明を公表した。この中でエネルギー長官は、大統領は2018会計年度の予算においてユッカマウンテン許認可手続の再開のために1億2,000万ドルを要求しており、今回のネバダ州知事との会談は、様々な連邦、州及び民間のステークホルダーとの対話を含むプロセスの第一歩であるとしている。

公表されたエネルギー長官の声明では、ネバダ州知事とは率直で生産的な対話が行われたこと、ネバダ州知事はエネルギー長官の訪問を評価しつつも、ユッカマウンテン計画への反対を改めて表明したことを伝えている。エネルギー長官は、ネバダ州知事に対し、以前から親交があるネバダ州知事と今後も様々な問題について協議を続けていくこと、ネバダ州が米国の核・軍事産業に果たしてきた貢献への感謝とともに、今後も使用済燃料管理において重要な役割を維持し続ける必要性などを伝え、冷戦初期から米国の安全保障に貢献してきたネバダ州が、今後も主導的な役割を維持することへの期待を示したとしている。

これに対してネバダ州知事は、2017年3月27日付のプレスリリースを発出しており、ネバダ州は連邦政府機関と様々な問題で協力してきているが、ユッカマウンテンにおける処分問題は考慮する意思のない問題であるとして、今回のエネルギー長官との会談はユッカマウンテンに関する交渉の開始ではないことを表明している。また、ネバダ州選出の連邦議会議員数名も、2017年3月27日付のプレスリリースを発出しており、ユッカマウンテン計画には反対する立場を改めて表明している。

 

【出典】

 

【2017年3月31日追記】

米国のネバダ州知事は、2017年3月29日のプレスリリースにおいて、エネルギー長官との会談の後、ユッカマウンテン計画への反対を継続するために州が取るべき行動について、ネバダ州原子力プロジェクト室と協議したことを公表した。本プレスリリースの中で知事は、自身がネバダ州司法長官であった当時にユッカマウンテン問題の訴訟を提起したことなどを示した上で、ネバダ州における高レベル放射性廃棄物処分に係る連邦政府のいかなる取組みに対しても、訴訟を含む手段を尽くして反対することの他、ユッカマウンテン計画を復活させる動きを見直すよう政権に要求し続けることなどを表明している。

【出典】

 

【2017年4月18日追記】

米国のネバダ州知事は、2017年4月13日のプレスリリースにおいて、テキサス州がエネルギー省(DOE)及び原子力規制委員会(NRC)を相手取って、ユッカマウンテン処分場の許認可手続に係る予算を要求することなどを求めた2017年3月14日の訴訟について、訴訟参加の申立てを第5巡回区連邦控訴裁判所に提出したことを公表した。

ネバダ州知事はプレスリリースの中で、テキサス州の訴訟は、ユッカマウンテン計画に反対するネバダ州の力量を著しく削ぐものであるなどとしている。また、ネバダ州知事は、今回のネバダ州の申立ては、今後数週間、数カ月における一連の行動の一歩に過ぎないとしている。

この他、ユッカマウンテン計画に反対するネバダ州の動きとしては、ネバダ州選出のヘラー上院議員も、連邦議会上院歳出委員会の幹部議員に対して、ユッカマウンテン計画に対する予算計上を行わないように求める書簡を提出している。

なお、テキサス州による連邦政府に対する訴訟については、原子力エネルギー協会(NEI)及び原子力事業者7社が2017年4月5日に訴訟参加の申立てを行っている。これは、テキサス州の訴訟において、DOEとの契約に基づいて原子力発電事業者が拠出した放射性廃棄物基金について、処分場開発のために使用されていない状況に関連した救済請求の一部に、不当利得返還などの放射性廃棄物基金の制度破綻に繋がる項目が含まれている点について申立てを行ったものである。

【出典】

 

【2017年6月15日追記】

米国のネバダ州知事は、2017年6月14日付けのプレスリリースにおいて、エネルギー省(DOE)と原子力規制委員会(NRC)とに対してユッカマウンテン処分場の許認可手続に係る予算を要求することなどを求める2017年3月14日のテキサス州による訴訟について、訴訟却下の申立書を第5巡回区連邦控訴裁判所に提出したことを公表した。ネバダ州は、2017年4月12日に本訴訟への参加を求める申立てを行っており、第5巡回区連邦控訴裁判所は2017年5月19日に、これを認める決定を行っていた。

ネバダ州が2017年6月12日に提出した訴訟却下の申立書では、以下に示す理由から、テキサス州による訴えは却下されるべきであるとしている。

  • テキサス州の請求内容は、認められる可能性がない他、第5巡回区連邦控訴裁判所は本件の管轄権を有していない。
  • 予算に関するテキサス州の要求は、司法判断に適さない政治的な問題である。
  • 仮処分を必要とするような現状変更の理由がない。

ネバダ州知事はプレスリリースの中で、テキサス州の訴訟はユッカマウンテン処分場に係る許認可申請に関して、NRCの審査手続の短縮などを求めているが、仮に現政権や連邦議会がユッカマウンテン処分場計画を再開する場合には、NRCの審査手続におけるネバダ州の適正な手続の権利を断固として守り抜くとしている。なお、ネバダ州知事は、訴訟、NRCの審査手続及び法改正を通して、ユッカマウンテン計画に反対するための計画を策定済みであり、テキサス州による訴訟に対する訴訟却下の申立ては、計画された法的闘争の第一歩に過ぎないことを改めて表明している。

【出典】

 

【2018年6月4日追記】

米国の第5巡回区連邦控訴裁判所は2018年6月1日に、連邦政府は1982年放射性廃棄物政策法(1987年修正)に定められた高レベル放射性廃棄物処分に係る義務を果たしておらず、同意に基づくサイト選定プロセスの取組などは同法に違反しているとして、エネルギー省(DOE)及び原子力規制委員会(NRC)に対してユッカマウンテン処分場の許認可手続に係る予算を要求することなどを求めた2017年3月14日のテキサス州の訴訟について、ネバダ州の訴訟却下の申立てを認め、テキサス州の申立てを却下する決定を行った。

第5巡回区連邦控訴裁判所の決定文書では、テキサス州が違法などとした連邦政府の行為について、DOEによる同意に基づくサイト選定プロセスの取組はDOEの最終決定行為ではないこと、連邦控訴裁判所が第一審となり得るオバマ前政権の決定行為は数年前に行われたものであり、既に訴訟開始の最終期限の180日を過ぎていることなどを示した上で、テキサス州の申立ては適時性(timeliness)や終局性(finality)の訴訟要件を満たしていないために却下されるとしている。

【出典】

  1. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2018会計年度の予算は2017年10月1日からの1年間に対するものである。 []

(post by hiro.furubayashi , last modified: 2023-10-11 )