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《米国》超深孔処分のフィールド試験を実施へ

米国のエネルギー省(DOE)は、2016年1月5日に、超深孔処分のフィールド試験を実施することを公表した。フィールド試験は、ノースダコタ州のラグビーにおいて、16,000フィート(約4,900メートル)以深の結晶質岩に達する大深度ボーリング孔の掘削を伴うものであるが、今回、フィールド試験を行う契約者としてバテル記念研究所(Battelle Memorial Institute)、ノースダコタ大学、油田検層事業等を行うシュルンベルジェ社などからなるチームを選定したとしている。大深度ボーリング孔の適用としては、一部の高レベル放射性廃棄物の超深孔処分が考えられているが、地熱開発も候補とされている。大深度ボーリング孔のフィールド試験は、DOEの研究開発活動である使用済燃料処分等(UNFD)プログラムの一部として行われるものであり、2016会計年度のDOEの予算要求において、「大口径の超深孔処分の可能性を実証するフィールド試験の開始」が挙げられていた
本フィールド試験は、約20エーカー(約81,000m2)のノースダコタ州所有地において5年間のプロジェクトとして実施され、費用は3,500万ドル(1ドル=120円として約42億円)と推定されており、超深孔処分の実現可能性を見極めることが目標とされている。フィールド試験で実施される調査では、大深度における母岩の水文地質学的、地球化学的、地質工学的な特性の検証などが行われ、掘削時のデータ収集の他、掘削完了後には科学的試験が実施される。今回のフィールド試験では、放射性物質は使用されない。DOEは、米国にはノースダコタ州のラグビーと同様の、地質学的に安定した地層が広い範囲で存在する地域が多数確認されているとしている。

結晶質岩の基盤面までの深さ

米国における結晶質岩の基盤面までの深さ

2015年10月の放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)1 が開催した放射性廃棄物超深孔処分国際技術ワークショップで公表されたDOEの資料においては、超深孔処分のフィールド試験について、2015年7月9日に、サイトの確保を含む契約者の公募が行われ、2015年9月23日に提案が締め切られていたことが示されている。また、2016年9月に特性調査用のボーリング孔の掘削を開始して2017年2月に特性調査を完了し、2017年7月からフィールド試験としてボーリング孔の掘削を開始し、2019年には模擬廃棄体定置の実証試験を完了した上で、解析・評価報告書を発行する予定が示されている。
超深孔処分については、「米国の原子力の将来に関するブルーリボン委員会」の2012年1月の最終報告書において、「特に再利用の可能性が全く無い廃棄物の一部の代替処分オプション」として、大深度ボーリング孔の活用可能性を研究することが勧告されていた。DOEは、2015年3月に、軍事起源の高レベル放射性廃棄物を民間の使用済燃料とは分離して処分する方針を示しており、軍事起源の高レベル放射性廃棄物の一部は廃棄体も小さく、超深孔処分が有効との見解を示している。
なお、放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)は、2015年6月に公表した報告書の中で、超深孔処分に係る課題として、ボーリング孔のシーリング技術の研究、強固な人工バリアの必要性の評価などの実施を勧告している

超深孔処分の概念図

超深孔処分の概念図

【出典】

 

【2016年2月3日追記】

米国の放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)は、2016年2月1日に、エネルギー省(DOE)の超深孔処分の研究開発プログラムについて、評価報告書「DOEの超深孔処分研究開発プログラムについての技術的評価」を公表し、9項目からなる勧告などを行った。NWTRBは、1987年放射性廃棄物政策修正法に基づいて、エネルギー長官が行った高レベル放射性廃棄物処分に係る活動の技術的及び科学的有効性を評価することを職務として設置された独立の評価機関であり、本評価報告書は連邦議会及びエネルギー長官に提出された。

本評価報告書では、フィールド試験を含め、一部の高レベル放射性廃棄物の超深孔処分の実現可能性を評価するためにDOEが行っている活動について、NWTRBの気付き事項及び勧告が示されている。NWTRBは、2015年10月20日及び21日に、超深孔処分の国際技術ワークショップを開催しており、本ワークショップでは、DOEから超深孔処分概念が示され、フィールド試験の詳細などが議論されていた。

本評価報告書では、国際技術ワークショップでの議論も踏まえ、①超深孔処分の実現可能性に影響を与える技術的・科学的問題、②DOEのフィールド試験により超深孔処分の実現可能性の評価のために必要な技術的データや科学的知見が得られるかの2点を対象としている。NWTRBのプレスリリースでは、気付き事項及び勧告として以下の事項が示されている。

気付き事項:

  • 仮に、一部の高レベル放射性廃棄物の超深孔処分が実現可能となった場合でも、地層処分場の必要性は無くならない。
  • 規制枠組みの構築、受容可能なサイトの同定、及び5kmの大深度ボーリング孔の特性調査は、困難で時間が掛かる活動であり、超深孔処分施設の完成に必要となる時間は地層処分場と似たものになる可能性がある。
  • フィールド試験では、超深孔処分概念の実現可能性評価及びサイト選定に限定的な情報しか得られない。
  • 高レベル放射性廃棄物の大深度での取扱い及び定置に係る操業上の予測・限界は、模擬の放射性廃棄物を対象としたものとは極めて異なるが、超深孔処分施設の設計や超深孔処分概念の実現可能性評価には、こうした予測・限界の評価及び理解が最も重要である。

勧告:

  • 独立した専門家のレビュー
    DOEは掘削プログラムの設計・実施について、掘削や孔内作業(検層や孔井仕上げなど)、高レベル放射性廃棄物の取扱い機器の設計・運転に豊富な経験を持つ独立の専門家からレビューを受けるよう勧告する。
  • 包括的なリスク解析
    超深孔処分の実現可能性評価の一環として、掘削・定置プログラムの側面について、より包括的なリスク解析を完了するよう勧告する。
  • 地下地質の不均質性とデータ・解析結果の転用可能性
    DOEは、地下地質の不均質性の可能性及び大深度での複雑な原位置条件に関する技術的・科学的問題に対応することにより、超深孔処分オプションの実現可能性評価を強化することを勧告する。
  • 掘削前の物理探査による地下の特性調査
    フィールド試験には、掘削前に地下の構造及び物理的状況を詳細に描写する、地表からの物理探査を含めるよう勧告する。
  • ロバストな廃棄体、廃棄物容器、及び封入
    DOEは、超深孔処分概念の実現可能性評価及び関連したセーフティケースの構築の一環として、よりロバストな廃棄体及び廃棄物パッケージの安全上の利点を明示的に解析することを勧告する。
  • 操業上の安全戦略の構築
    DOEは、通常のボーリング孔作業と高レベル放射性廃棄物の遠隔取扱いを統合したフィールド試験の操業上の安全戦略を構築することを勧告する。
  • 回収可能性の要件の定義について規制機関との連携
    高レベル放射性廃棄物の超深孔処分の実現可能性評価の一環として、超深孔処分における回収可能性の要件の定義について、規制機関と協力・連携することに高い優先度を置くことを勧告する。
  • フィールド試験からサイト選定への透明性ある進め方
    フィールド試験は、サイト選定アプローチに関する知見を得ることに活用すべきものと勧告する。
  • フィールド試験の担当の主任研究員
    DOEは、工学的活動(特性調査ボーリング孔・フィールド試験ボーリング孔の掘削、模擬廃棄物の定置・回収など)やサイト特性調査活動の統合に責任を持つフィールド試験プログラムの主任研究員を置くことを勧告する。

【出典】

 

【2016年4月7日追記】

米国のエネルギー省(DOE)は2016年1月に、超深孔処分のフィールド試験プロジェクトの予定地としてノースダコタ州のピアス郡を選定していたが、ピアス郡は、2016年3月1日に、フィールド試験の受入れを拒否することを決定した。今回、本決定を示したノースダコタ州ピアス郡の郡政委員会の議事録が公開された。

ピアス郡では、フィールド試験プロジェクトの実施チームの一員であるノースダコタ大学エネルギー環境研究センター(EERC)らによる住民向け説明会が2016年2月15日に開催され、本プロジェクトは純粋に科学技術的な調査であることなどが説明されていた。公開された議事録によると、2016年3月1日に開催されたピアス郡の郡政委員会では、2,000を超える反対署名が提出されたこと、将来世代を守ることなどの理由から、ピアス郡における超深孔処分のフィールド試験プロジェクトの検討を中止するよう求める書簡をノースダコタ大学EERCに送付することが満場一致で決定された。

なお、エネルギー長官は、ピアス郡における動きを受けて代替のサイトを検討する取組を始めていることについて、2016年3月2日に連邦議会下院エネルギー・商務委員会で開催されたヒアリングで明らかにしている。

【出典】

 

【2016年5月12日追記】

米国のエネルギー省(DOE)が実施を計画している超深孔処分のフィールド試験プロジェクトについてバテル記念研究所は、現在、サウスダコタ州のスピンク郡でフィールド試験の実施を検討していることを公表した。これまでフィールド試験の予定地として選定されていたノースダコタ州のピアス郡は、フィールド試験の受入れ拒否を決定していた。今回、バテル記念研究所が率いる実施チームには、サウスダコタ鉱山技術大学(SDSMT)とサウスダコタ州の技術コンサルティング会社であるRESPEC社等が加わっている。

バテル記念研究所はスピンク郡について、地震・火山活動や石油・ガス掘削などによる擾乱を受けておらず、フィールド試験には理想的な母岩を有するとしている。一方で、スピンク郡を潜在的な最終処分地としては見なしていないとして、ダコタ帯水層と呼ばれる地下水が接近していること、放射性廃棄物処分には州知事の同意を必要とする州法が存在することなどを理由として挙げた上で、放射性廃棄物は持ち込まないこと、プロジェクト終了時にはボーリング孔は埋め戻すことなどを示している。

バテル記念研究所、サウスダコタ鉱山技術大学及びDOEは、既にスピンク郡で2度のパブリックミーティングを開催しており、今後もさらに地域からの声を聞き続ける意向を示している。

バテル記念研究所のウェブサイトでは、超深孔処分フィールド試験についてのページ、及びスピンク郡のフィールド試験の可能性を示すページが設けられており、プロジェクトの概要やよくある質問(FAQ)等の資料やポスター類に加え、州知事がサウスダコタ州におけるフィールド試験の実施の支持を伝えるエネルギー長官宛の書簡及びその返書が掲載されている。

【出典】

 

【2016年6月15日追記】

米国のエネルギー省(DOE)が実施を計画している超深孔処分のフィールド試験プロジェクトについては、新たな候補地としてサウスダコタ州のスピンク郡が挙がっていたが、2016年6月9日のスピンク郡の郡政委員会において、フィールド試験の実施は困難である旨を伝える書簡をバテル記念研究所に送付することを決定した。

今回公表されたサウスダコタ州スピンク郡の郡政委員会の議事録によれば、バテル記念研究所は公衆の支持を得ておらず、仮に申請が提出された場合にも、許可のために十分な賛成票を獲得する見込みはない旨の書簡を送付するとしている。また、本書簡は郡政委員会の総意とされている。さらに、本書簡を新聞で公表することを求める要求も、郡政委員会によって承認されている。

一方、超深孔処分のフィールド試験を計画しているDOEは、2016年2月1日に公表された放射性廃棄物技術審査委員会(NWTRB)の超深孔処分の研究開発プログラムに関する評価報告書において、フィールド試験を含むDOEの活動についての勧告がされていたが、NWTRBの勧告に対するDOEの2016年6月9日付けの書簡が公表された。この中でDOEは、NWTRBの勧告の多くはフィールド試験の計画に既に含まれていることなどを示している。

【出典】

 

【2016年6月28日追記】

米国のエネルギー省(DOE)が実施を計画している超深孔処分のフィールド試験プロジェクトについて、候補地とされていたサウスダコタ州のスピンク郡は、2016年6月10日付けの書簡により、スピンク郡でのフィールド試験の実施は困難である旨をバテル記念研究所に伝えており、この程、スピンク郡の書簡に対するバテル記念研究所及びDOEからの返書と合わせてスピンク郡のホームページで公表した。

2016年6月14日付けのバテル記念研究所及びDOEからの返書は、両者連名により出されたものであり、放射性廃棄物を取り扱わない科学的なプロジェクトである超深孔処分のフィールド試験に対して、スピンク郡からの支持が得られなかったことは残念であるとしつつも、スピンク郡の決定を尊重するとしている。

なお、バテル記念研究所及びDOEからの返書は、2016年6月21日に開催されたスピンク郡の郡政委員会で報告されており、出席委員によりスピンク郡ウェブサイトでの公表が要求されていたものである。

【出典】

 

【2016年12月22日追記】

米国のエネルギー省(DOE)原子力局(NE)は、2016年12月19日に、超深孔処分のフィールド試験プロジェクトについての新たな公募を行った結果、4社を選定したことを公表した。超深孔処分のフィールド試験については、2016年1月にバテル記念研究所が主導するチームが選定されていたが、当初の予定地とされていたノースダコタ州のピアス郡、次の予定地とされたサウスダコタ州スピンク郡の何れにおいても、地元の支持が得られずにフィールド試験は中止となっていた。DOEは、当初の公募プロジェクトを断念し、2016年8月に、公募条件を見直した上で改めて公募(以下「再公募」という)を行っていた。

2016年8月5日に公示された再公募プロジェクトでは、フィールド試験の候補サイトが将来の処分地とはならないことを明確にするとともに、地域コミュニティと連携することを重視した段階的なアプローチが取られている。フィールド試験の候補サイトは、最終的に1カ所に絞られるが、初期段階では複数の応募者が選定され、各々の候補サイトの地域での理解促進活動を行って、地方政府及び地域関係者の支持を得ることがプロジェクトの一部として位置付けられている。

今回DOEが選定した応募者及び候補サイトの立地州は、以下の通りとなっている。

  • AECOM社(テキサス州)
  • ENERCON社(ニューメキシコ州)
  • TerranearPMC社(ニューメキシコ州)
  • RE/SPEC社(サウスダコタ州)

DOEの再公募資料においては、プロジェクトの開始予定時期を2017年1月16日とし、プロジェクト期間を約5年としている。

【出典】

 

【2017年5月25日追記】

米国のエネルギー省(DOE)は2017年5月23日に、2018会計年度での予算上の優先度の変更により、これまで進めてきた超深孔処分のフィールド試験プロジェクトを継続せず、直ちにプロジェクトを実質的に終了させるプロセスを開始したことを公表した。2017年5月23日に公表されたDOEの2018会計年度の予算要求では、超深孔処分のフィールド試験に係る活動を含む「使用済燃料処分等研究開発プログラム」(UNFD研究開発プログラム)の予算を計上せず、同プログラムを廃止する方針が示されていた

【出典】

  1. 1987年放射性廃棄物政策修正法に基づいて行政府内に設置された機関であり、高レベル放射性廃棄物等の処分の技術的・科学的分野の独立した評価を行い、少なくとも年2回は連邦議会、エネルギー長官に勧告等を行う。 []

(post by inagaki.yusuke , last modified: 2023-10-11 )