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《フランス》長寿命低レベル放射性廃棄物処分プロジェクトの進捗に関する報告書が公表

フランスの放射性廃棄物管理機関(ANDRA)は、2015年10月12日に、長寿命低レベル放射性廃棄物の処分プロジェクトの進捗に関する報告書を公表した。本報告書においてANDRAは、オーブ県のスーレーヌ・コミューン共同体1 における地質調査の結果、処分場の設置に適した特性を持つ粘土層の存在を確認し、地質調査を継続する10㎞2の区域を特定している。長寿命低レベル放射性廃棄物には、以下のような廃棄物が含まれる。

  • ラジウム含有廃棄物(主に希土類、ジルコニウム、ウランの鉱石の処理により発生)
  • 黒鉛廃棄物(主に黒鉛減速炭酸ガス冷却炉(GCR)の運転、廃止措置により発生)
  • アスファルト固化廃棄物等

今回ANDRAの報告書において、これらの長寿命低レベル放射性廃棄物の処分プロジェクトの進捗は、以下の通りとしている。

<長寿命低レベル放射性廃棄物の特性>

長寿命低レベル放射性廃棄物は、2013年時点で約9万m3が存在しており、フランス国内の放射性廃棄物の総量の6%、放射能量の0.01%を占める。同廃棄物には半減期の極めて長い核種(例えば、塩素36、半減期約30万年)が含まれていることから、深さ100m程度の地層中に処分するオプションも検討していたが、廃棄物の特性に関する研究が進み、新たに特定した放射能インベントリに基づき、浅地中処分(深さ約20m)を検討できるようになった。

<処分場のサイト選定>

ANDRAは、2008年に長寿命低レベル放射性廃棄物処分場のサイト選定の公募を開始し、2009年にはオーブ県にある2つの自治体(コミューン)であるオークソンとパール・レ・シャヴァンジュを選定した。しかし、両自治体とも自治体議会の反対を受けて、選定プロセスから撤退した。これを受けて政府は、ANDRAに対し、すでに原子力施設が立地しているサイト近傍の自治体、または2008年のサイト選定公募に応募した自治体における研究を検討するよう指示した。その後、すでに低レベル放射性廃棄物の処分場が立地しているオーブ県のスーレーヌ・コミューン共同体がサイト選定に向けた調査の実施を承諾したことを受け、ANDRAは2013年7月からスーレーヌ・コミューン共同体の50km2の区域において地質調査を開始した。調査の結果、浅地中処分場の設置に適した特性を持つ粘土層の存在を確認し、地質調査を継続する10㎞2の区域を特定した。

<処分場の設計>

長寿命低レベル放射性廃棄物の浅地中処分場の設計については、原子力安全機関(ASN)が2008年5月に公表した「長寿命低レベル放射性廃棄物処分のサイト調査に関する安全性の一般方針」に示された安全目標等に基づいて検討した。ANDRAは、①地表からの開削、②地下での処分スペースの掘削の2つのオプションのいずれかの採用に向けて、さらに研究を継続している。なお、ANDRAは、廃止措置に伴って今後発生する極低レベル放射性廃棄物についても、長寿命低レベル放射性廃棄物に隣接した区域における処分が可能であると考えている。

<プロジェクトの今後の計画>

ANDRAはスーレーヌ・コミューン共同体において特定された10km2の区域において、処分場サイト選定のための補完的な調査を2015~2016年にかけて実施する。また、処分場の設計に関する検討も継続し、特に、開削方式を採用した場合に、掘削した土を埋め戻した後の挙動について研究を進める。これらの研究結果に基づきANDRAは、2018年に処分場の設計案を作成し、設置許可申請書の提出に向けた作業を進める。

 

今回ANDRAが公表した報告書は、2013~2015年を対象とした「放射性物質及び放射性廃棄物管理国家計画」(PNGMDR)の施行に関する2013年12月27日のデクレ(政令)に基づいたものである。本デクレにおいては、ANDRAが2015年6月30日までに、黒鉛廃棄物とアスファルト固化廃棄物の管理シナリオ及び地表からの開削と覆土による処分プロジェクトのフィージビリティに関する報告書について、エネルギーと原子力安全の担当大臣に提出しなければならないと定めている。なお、フランスでは、2006年放射性廃棄物等管理計画法に基づいて、政府が3年間毎に「放射性物質及び放射性廃棄物管理国家計画」(PNGMDR)を策定することになっており、次の国家計画の策定は2016年の予定である。

 

【出典】

【2016年4月20日追記】

フランスの原子力安全機関(ASN)は2016年4月6日、長寿命低レベル放射性廃棄物の管理研究に関する2016年3月29日付の見解書を発表した2  。ASNは今回の見解書において、長寿命低レベル放射性廃棄物の種類が多様であることから、それら全てを単一処分場で処分するには多くの課題があるという認識を示しているが、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が処分場の設置を想定している粘土層の機能(低透水性、水理地質学的条件、厚さ等)、処分場の操業中及び閉鎖後の安全性に関する予備的安全評価(廃棄物の化学的毒性による影響、廃棄物に含まれるウランやラジウムの放射性崩壊に伴って発生するラドンによる被ばく等)に関して、ANDRAが研究を継続するにあたっての要求や勧告を今後示す方針を表明した。

ASNは今回の見解書において、ANDRAが2015年10月12日に公表したANDRAによる長寿命低レベル放射性廃棄物の処分プロジェクトの進捗に関する報告書について、以下のような意見を示している。

  • 処分場を設置することを想定している粘土層の下には帯水層があるが、この帯水層への放射性核種の移行を防ぐために、粘土層のうち処分場を設置する面よりも深い部分の特性(厚み、均質性、低透水性等)に関する詳細な分析を行うべきである。
  • ANDRAは処分対象となる長寿命低レベル放射性廃棄物のインベントリを明確にする必要がある。
  • ANDRAは、長寿命低レベル放射性廃棄物の処分場に採用する技術オプション及び安全オプションをASNに提出したうえで、侵入リスクや放射性物質及び化学物質の拡散に対する防護について、慎重な決定論的安全評価アプローチに基づく予備的安全評価を提出すべきである。
  • ANDRAが想定しているスーレーヌ・コミューン共同体における処分場の設置を補完する措置として、ANDRAは第2の処分場の設置可能性を検討し、2017年半ばまでに、候補サイトを選定するための方法論を提出するべきである。

なお、フランスではASN等が2016年内に、2016~2018年を対象とした「放射性物質及び放射性廃棄物の管理に関する国家計画」(PNGMDR)を取りまとめる予定である。ASNは今回公表した意見書において、PNGMDRで規定する長寿命低レベル放射性廃棄物の処分プロジェクトのスケジュールに関して、ANDRAが提示していたものよりも慎重なものとする見解を示している。ASNは、ANDRAの安全オプションの提出が2021年末、処分場の設置許可申請を2025年末まで行い、処分場の操業開始を2035年にする案を示している。

【出典】

  • 低レベル長寿命放射性廃棄物の管理研究に関する2016年3月29日付のASN見解書第2016-AV-264号、Avis no 2016-AV-264 de l’Autorité de sûreté nucléaire du 29 mars 2016 sur les études relatives à la gestion des déchets de faible activité à vie longue (FA-VL) remises en application du Plan national de gestion des matières et des déchets radioactifs 2013-2015, en vue de l’élaboration du Plan national de gestion des matières et des déchets radioactifs 2016-2018
    http://www.asn.fr/content/download/102318/751420/version/2/file/2016-AV-0264.pdf
  • 2015年10月12日、ANDRA、長寿命低レベル放射性廃棄物処分プロジェクトの進捗に関する報告書、PROJET DE STOCKAGE DE DÉCHETS RADIOACTIFS DE FAIBLE ACTIVITÉ MASSIQUE À VIE LONGUE (FA-VL) RAPPORT D’ÉTAPE 2015
    http://www.andra.fr/download/site-principal/document/editions/rapport-etape-favl.pdf

 

  1. オーブ県の複数のコミューン(自治体)の広域行政組織 []
  2. 2013~2015年を対象とした「放射性物質及び放射性廃棄物の管理に関する国家計画」(PNGMDR)の施行に関する2013年12月27日のデクレにおいて、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)による長寿命低レベル放射性廃棄物の処分プロジェクトの進捗に関する報告書について、ASNが意見を示すべきことが規定されており、今回の見解書はこれに基づいたものである。 []

(post by eto.jiro , last modified: 2023-10-11 )