Learn from foreign experiences in HLW management

《米国》2016会計年度の予算要求-高レベル放射性廃棄物処分関連に対して1億836万ドルを要求

米国では、2015年2月2日に、2016会計年度1 の大統領の予算教書が連邦議会に提出され、大統領府管理・予算局(OMB)のウェブサイトで公表されるとともに、エネルギー省(DOE)のウェブサイトでDOEの予算要求資料が公表された。DOEは、使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の管理・処分に係る「使用済燃料処分等(UNFD)プログラム」(UNFD、Used Nuclear Fuel Disposition)として、1億836万ドル(約117億円、1ドル=108円で換算)を要求している。ただし、ユッカマウンテン処分場関連予算の要求はない。

DOEの予算要求資料では、使用済燃料処分等(UNFD)プログラムとして、前年度までの「研究開発活動」(代替案を特定するための研究開発及び既存・将来の核燃料サイクルに係る放射性廃棄物処分等の研究開発)と「統合放射性廃棄物管理システムの設計に係る活動」の2分野に加え、「DOE管理の高レベル放射性廃棄物及び使用済燃料の代替処分オプションの検討に係る活動」が追加されている。なお、使用済燃料処分等(UNFD)プログラムの2016会計年度の予算要求額は、2015会計年度の歳出予算額と比較して3,686万ドル(約39億8,000万円)増加しており、DOEは、主な要因として超深孔処分のフィールド試験の開始などを挙げている。

2016会計年度の予算による実施事項のうち、使用済燃料処分等(UNFD)プログラムの「研究開発活動」については、7,536万ドル(約81億4,000万円)の予算要求額であり、以下の事項を行うとしている。

  • 産業界との協力による乾式実証キャスクの設計等
  • 産業界主導による高燃焼度燃料に係る乾式貯蔵の実証プログラムの支援等
  • 既存の輸送・貯蔵キャニスタ、貯蔵キャニスタの直接処分の技術的可能性
  • バリアの安定性等の評価のための熱力学データベース及びモデルの開発
  • 高燃焼度燃料の貯蔵及び輸送時における燃料や被覆管のモデル開発
  • 超深孔処分に係る掘削プロジェクトの地質学的情報等の評価(ボーリング孔のシーリング及び代替処分に係る廃棄物の標準設計の開発を含む)
  • 大口径の超深孔処分の可能性を実証するフィールド試験の開始(実験的なボーリング孔の掘削開始を含む)
  • 高レベル放射性廃棄物の坑道型地層処分などに関する結晶質岩、粘土層/頁岩(シェール)及び岩塩の主要な3岩種の評価(国際的なパートナーとの協力、フィールド試験を含む)
  • 高燃焼度燃料等の長期貯蔵及び輸送に係る技術的基盤の開発
  • 陸上・鉄道輸送時の燃料棒挙動の評価
  • 種々の処分関連の評価を支援する処分システムモデルと解析能力の開発
  • アイダホ国立研究(INL)の使用済燃料取扱い施設の更新

上記のうち、超深孔処分については、使用済燃料等の代替処分オプションの1つとしてDOEが調査研究を行っており、結晶質岩に5,000m以深のボーリング孔を掘削して、下部から2,000mの範囲に廃棄物を定置し、上部3,000mの適切な部分についてシーリングを行う処分概念が考えられている。2016年会計年度の予算においては、今後、応募によってフィールド試験のサイトを選定することとなっており、特性調査のためのボーリング孔の掘削を含めた試験が実施される予定となっている。

また、2016会計年度の予算による実施事項のうち、使用済燃料処分等(UNFD)プログラムの「統合放射性廃棄物管理システムの設計に係る活動」については、放射性廃棄物基金からの2,400万ドル(約25億9,000万円)を含む3,000万ドル(約32億4,000万円)の予算を要求している。本活動は、2013年1月にエネルギー省(DOE)が策定した「使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の管理・処分戦略」(DOE戦略)を支援するものとされ、以下の事項を行うとしている。

  • 廃止措置された原子炉サイトからの使用済燃料を受け入れるパイロット規模の中間貯蔵施設に焦点を当てた、中間貯蔵実施計画の策定
  • 同意に基づくサイト選定プロセスのための計画策定の継続
  • パイロット規模の中間貯蔵施設への使用済燃料等の大規模な輸送の準備
  • 使用済燃料等の輸送に係る地域等との協働による輸送計画の策定
  • 使用済燃料の輸送を準備するための廃止措置された原子炉サイトの評価の拡充
  • 輸送キャスクなど輸送関連の調達に関する活動の継続
  • 廃棄物管理システムにおける標準化・統合化の可能性の同定と評価
  • 使用済燃料輸送・貯蔵・処分の解析リソースデータシステムのデータベースの拡充
  • パイロット規模の中間貯蔵施設の一般設計のための安全解析レポートの完成とNRCからの追加情報要求への準備

さらに、2016会計年度の使用済燃料処分等(UNFD)プログラムで新たに提案された「DOE管理の高レベル放射性廃棄物及び使用済燃料の代替処分オプションの検討に係る活動」では、将来の意思決定のための情報を提供するものとして、DOEが管理する高レベル放射性廃棄物及び使用済燃料の一部の代替処分オプションの検討を行うとしている。

2014年2月に地下施設で火災事故及び放射線事象が発生した廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)については、復旧に向けた活動が行われており 、復旧活動を支援するためとして、換気システム、排気立坑の更新等の費用を含め、約2億4,300万ドル(約262億円)の予算が要求されている。

なお、原子力規制委員会(NRC)については、ユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可申請書の審査を実施しているものの、予算要求資料においてユッカマウンテン処分場の審査に関する予算は計上されていない。

【出典】

 

【2015年4月3日追記】

米国のエネルギー省(DOE)は、「軍事起源の高レベル放射性廃棄物の独立した処分に関する報告書」(2015年3月)を公表し、DOEが管理している軍事起源の高レベル放射性廃棄物及び使用済燃料の処分について、連邦政府が処分する責任のある民間の原子力発電所から発生する使用済燃料等の処分場計画と切り離して実施するとの方針を示した。これに対して大統領は、2015年3月24日に、DOEによる本計画を法律に照らして是認するとの覚書を公表した。

1982年放射性廃棄物政策法第8条では、費用対効果、保健及び安全、規制、輸送、社会的受容性及び国家安全保障に関連する要因を評価し、軍事起源の高レベル放射性廃棄物の処分場の開発が必要であると大統領が判断した場合、民間から独立した処分場を計画することができると規定されている。今回の大統領による判断は、本法に沿った検討・評価と位置付けられる。

「軍事起源の高レベル放射性廃棄物の独立した処分に関する報告書」においては、DOEが開発する軍事起源の高レベル放射性廃棄物の処分場は、米国の原子力の将来に関するブルーリボン委員会の最終報告書、DOEの「使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の管理・処分戦略」での方針に従って、段階的で、適応性があり、同意に基づくサイト選定プロセスにより立地を行うとの方針が示されている。また、早期に民間から独立した処分場を実現することにより、DOEの高レベル放射性廃棄物発生サイトでの貯蔵・処理・管理の費用の低減につながるとしている。

【出典】

 

【2015年5月7日追記】

米国の連邦議会下院は、2015年5月1日に、2016会計年度2 のエネルギー・水資源歳出法案を240対177(棄権14)で可決した。本法案では、ユッカマウンテン関連の放射性廃棄物処分予算として1億5,000万ドル(約179億円)、原子力規制委員会(NRC)のユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可手続の予算として5,000万ドル(約59.5億円)が割り当てられている。

2015年2月2日に公表されたエネルギー省(DOE)の予算要求では、2012年1月のブルーリボン委員会の最終報告書・勧告に基づいて2013年1月にDOEが策定した「使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の管理・処分戦略」を実施に移すための予算として、使用済燃料処分等(UNFD)プログラムの「統合放射性廃棄物管理システムの設計に係る活動」については、放射性廃棄物基金からの2,400万ドル(約28億6,000万円)を含む3,000万ドル(約35億7,000万円)の予算を要求していた。しかし、今回下院で可決された2016会計年度の歳出法案では、ユッカマウンテン計画の中止に繋がる活動への歳出を禁じる条項が規定されている。

一方、ホワイトハウスは、下院で2016会計年度の歳出法案が採決される前の2015年4月28日に、本法案が成立した場合には拒否権を発動するとの意向を表明しており、その理由の一つとして、DOEのユッカマウンテン計画、NRCのユッカマウンテンの許認可申請の裁決手続への予算配賦等を挙げている。

米国では、1982年放射性廃棄物政策法において、エネルギー省(DOE)が1998年1月31日から民間の使用済燃料引取りを開始することが定められおり、原子力発電事業者との間で処分実施のための契約が締結されている。ユッカマウンテン計画の遅れから、DOEは使用済燃料の引取りを行えないため債務不履行状態にあり、推定債務額は226億ドル(約2兆6,900億円)になることが、2016会計年度の下院歳出委員会報告書で指摘されている。

なお、2014年2月に地下施設での火災事故と放射線事象が発生して復旧に向けた調査・対応が行われている廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)については、2016会計年度の歳出法案の軍事環境クリーンアップの中で、約2億8,586万ドル(約340億円)の予算が復旧に向けた活動のために計上されている。

【出典】

 

【2015年5月25日追記】

米国の連邦議会上院の歳出委員会は、2015年5月21日に、2016会計年度2 のエネルギー・水資源開発歳出法案(以下、「歳出法案」という)を承認し、上院本会議に提出した。本歳出法案では、使用済燃料の中間貯蔵について、前年度まで上院で検討されていた歳出法案と同様に、パイロット規模の中間貯蔵施設の開発等をエネルギー長官に命じる規定に加え、テキサス州やニューメキシコ州で提案されている民間施設でエネルギー省(DOE)が使用済燃料等を貯蔵することを認める規定が置かれている。なお、本歳出法案は、2015年5月1日に下院で可決された2016会計年度エネルギー・水資源開発歳出法案を、すべて上院案に置き換える形で修正したものであり、上院案にはユッカマウンテン関連の予算及び記述は残されていない。

今回上院本会議に提出された歳出法案に織り込まれた中間貯蔵関連の条項では、以下のような内容が規定されている。

集中貯蔵のパイロットプログラム(歳出法案第306条)

  • 使用済燃料等を中間貯蔵するため、政府または民間所有の1つ、または複数の集中貯蔵施設の許認可取得、建設、操業のためのパイロットプログラムを民間パートナーと実施することをエネルギー長官に許可
  • エネルギー長官は、歳出法施行後120日以内に、集中貯蔵施設の建設許可取得や輸送等の協力協定についてのプロポーザルを公募
  • 集中貯蔵施設の立地決定前に、立地サイト周辺等での公聴会の開催、地元州知事、地方政府等との書面による同意協定締結をエネルギー長官に義務付け
  • エネルギー長官は、上記プロポーザル公募から120日以内に、推定費用、スケジュール等を含むパイロットプログラム計画を連邦議会に提出
  • 本活動に係る資金の放射性廃棄物基金からの支出を許可

民間の中間貯蔵施設での貯蔵(歳出法案第311条)

  • エネルギー長官が保有、または引取義務を有する使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物を、原子力規制委員会(NRC)が許可した施設で貯蔵する契約を締結する権限を承認
  • 使用済燃料等の所有権は、本条に基づく貯蔵のための引取り時にエネルギー長官に移転
  • エネルギー長官と原子力発電事業者等との間で締結されている使用済燃料引取り等に係る契約を改定することを許可

米国では、1982年放射性廃棄物政策法において、エネルギー省(DOE)が1998年1月31日から民間の使用済燃料の引取りを開始することが定められおり、原子力発電事業者との間で処分実施のための契約が締結されている。今回上院本会議に提出された歳出法案の第311条は、この契約を改定し、処分ではなく貯蔵のために使用済燃料を引き取ることを認めるものである。

今回の歳出法案と同時に公開された上院歳出委員会報告書では、「使用済燃料処分等プログラム」(UNFD)の研究開発活動の予算として6,400万ドル(約76億2,000万円)が、上記のパイロット規模の中間貯蔵施設開発や民間貯蔵施設での貯蔵等を実施するための予算として3,000万ドル(約35億7,000万円)が計上されている。ただし、ユッカマウンテン処分場関連の歳出予算はゼロとなっており、原子力規制委員会(NRC)でのユッカマウンテン処分場の建設認可に係る許認可手続の予算も割り当てられていない。

また、2014年2月に発生した火災事故及び放射線事象 の復旧に向けた活動が行われている廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP) については、約2億4,332万ドル(約290億円)の予算が割り当てられている。上院歳出委員会報告書では、予算問題による復旧遅延が生じることがないよう詳細な予算説明がDOEの予算要求書で示されていないことに不満があるとした上で、エネルギー長官が、安全な操業を予定通り再開するために適切な対応を取ること、WIPP復旧計画の詳細な予算を半年ごとに委員会に提出することを求めている。

なお、テキサス州で中間貯蔵施設の建設を行う意向を2015年2月に正式に表明したウェイスト・コントロール・スペシャリスト(WCS)社は、上院歳出委員会エネルギー・水資源小委員会で歳出法案が採択された2015年5月19日に、使用済燃料の貯蔵に係る民間事業者との契約を認めた規定は、テキサス州での使用済燃料の中間貯蔵施設の操業に向けた第一歩を超党派で実現したものとして、歓迎するメッセージをWCS社ウェブサイトに掲載している。

【出典】

 

【2015年10月2日追記】

米国の連邦議会は、2015年9月30日に、2016会計年度2 のうち、2015年10月1日から2015年12月11日を対象とした継続歳出法案を可決した。これは、エネルギー・水資源開発の分野を含めて、2015会計年度の予算を規定した包括歳出・継続予算法での予算と同レベルの歳出について、2015年10月1日から2015年12月11日も認めるとするものである。継続歳出法案による予算では、原則として前年度予算と同率で比例配分され、特段の規定がない限り、前年度で未計上の事業・プログラム等の実施は認められない。

今回可決された2016会計年度の継続歳出法案では、ユッカマウンテン処分場関連や廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)関連、中間貯蔵施設関連を含め、放射性廃棄物貯蔵・処分に関する特別な規定はない。

【出典】

 

【2015年12月24日追記】

米国の連邦議会は、2015年12月18日に、2016会計年度包括歳出法案を可決した。高レベル放射性廃棄物関連の予算については、本包括歳出法案の条文には記載されていないが、2016会計年度包括歳出予算法案説明文書において、「使用済燃料処分等プログラム」(UNFDプログラム)の歳出予算として8,500万ドル(102億円、1ドル=120円で換算)が計上されており、このうち「研究開発活動」については6,250万ドル(75億円)の歳出予算とされ、残りの「統合放射性廃棄物管理システム」についても予算要求に沿った形での継続が示されている。

ユッカマウンテン計画については、2016会計年度包括歳出法案及び説明文書に記述はなく、ユッカマウンテンでの高レベル放射性廃棄物処分場の開発や許認可手続に関する予算は与えられておらず、放射性廃棄物基金からの支出はゼロとされている。ただし、連邦議会下院の歳出委員会が公表した2016会計年度包括歳出予算法案(エネルギー・水資源開発)要約資料では、2015会計年度と同様に、政治的事項の一つとして、「ユッカマウンテンの将来利用の可能性を維持するための前年予算の継続」が示されている。

また、2016会計年度包括歳出法案説明文書では、放射線事象などにより操業停止している廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)について、復旧の取り組みを支援するためとして、DOE予算要求額より約2割多い2億9,998万ドル(約360億円)の歳出予算が示されている。

なお、2016会計年度の歳出予算については、会計年度が開始される2015年10月1日までに歳出法が制定されず、2015年12月11日までの継続予算が執行されていたが、2016会計年度包括歳出法の制定手続の遅れから、さらに2度にわたる継続予算決議が行われ、2015年12月22日までの継続予算の執行が承認されていた。

【出典】

  1. 米国における会計年度は、前年の10月1日から当年9月30日までの1年間となっており、今回対象となっている2016会計年度の予算は2015年10月1日からの1年間に対するものである。 []
  2. 上記の1.を参照。 [] [] []

(post by inagaki.yusuke , last modified: 2023-10-11 )