Learn from foreign experiences in HLW management

《フランス》公開討論会の強化策である市民会議において市民パネルが地層処分プロジェクトに関する見解を公表

フランスにおける地層処分場の設置に関する公開討論会の一環として開催されていた「市民会議」は、その最終回に当たる第3回の2014年2月3日に、市民パネルによるプロジェクトに関する見解を取りまとめて公表した。この市民会議は、公開討論国家委員会(CNDP)が実施している公開討論会の強化策の一つであり、参加する17名のパネリストは、選挙人名簿などに基づいて無作為に抽出・選任されており、うち8名はプロジェクトから直接影響を受ける可能性のあるムーズ県及びオート=マルヌ県の住民である。

市民会議は、2013年12月~2014年2月の計3回で、各回とも土日をはさんで3日間で開催された。第1回(2013年12月開催)と第2回(2014年1月開催)の会議において、対立的な意見も含む多様な観点での情報提供を受け、第3回の市民会議では、パネリストが得た情報をもとに話し合い、地層処分場の設置に関する市民パネルとしての見解を報告書(全11ページ)に取りまとめた。地層処分プロジェクトに関する広範なテーマについて、市民パネルは、以下のような見解を示している。

○地層処分プロジェクトのスケジュール・条件

- 我々の考えでは、地層処分プロジェクトの実施を早急に決定する必要は無い。高レベル放射性廃棄物を処分する場合には少なくとも60年間は冷却しなければならない。この冷却期間を待つ間に、代替案を検討したり、実規模での地層処分場開発の試験を実施できると考えられる。

- 実規模での地層処分場開発の試験を実施し、回収可能性に係る問題などが解決できる見通しがあるならば、市民パネルは地層処分プロジェクトに反対しない。

- 地層処分場の設置のための現行の許認可手続きに係るスケジュールは、実規模での試験のフェーズを考慮したものとなっておらず、非現実的と考えられる。

○地層処分場に特有なリスク

- 火災、作業安全、換気、空気中への有害物質の拡散など、地層処分場に特有なリスクについては、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)によって研究が行われているが、さらなる検討が必要である。また、放射性廃棄物の安全な輸送方法については、地層処分場のサイト内まで鉄道で輸送する方法が適切であると提言する。

○回収可能性と可逆性

- 可逆性については、回収可能性の概念も含めて検討を行うべきである。回収可能性は可逆性の前提となるため、可能な限り長期にわたって回収可能性を確保することは、可逆性を考慮するための必須事項である。また、回収可能性の要件は、技術の進展等に伴って変更される可能性があり、地層処分場に定置後の廃棄物パッケージについても将来的に回収して要件の変更に対応できるようにすることが望ましい。

○地層処分プロジェクトと地層処分場の記憶

- ANDRAは地層処分場の設置場所に関する記憶を伝承していくため、人の手による芸術作品を設置することを検討しているが、作品がどの程度の期間残るのかが疑問である。プロジェクトに関する文書も残していく必要があるが、文書保管庫やそれを管理する組織も維持していくことも必要であるほか、文書を複数の場所・国に分散して保存すべきである。なお、プロジェクトの記憶の伝承形態とその実現性については、再評価・アップデートが必要である。

○地熱資源開発の可能性

- 規制機関である原子力安全機関(ASN)の地層処分に関する安全指針に従うと、地層処分場の候補サイトは地下資源を有するなどの特別な地域を避けて選定しなければならない。しかし、地層処分場の候補サイト地域における地熱資源開発の可能性については、様々な調査機関の見解が分かれている。ANDRAは資源量が経済的に開発に値するほど多くないとする一方で、地域情報フォローアップ委員会(CLIS)1 の委託により実施された調査では、資源量は開発可能な水準で存在するという見方もある。市民パネルは、候補サイト地域の周辺が地下資源を有する地域にあたるのか否かについて、さらなる調査を実施するよう提言する。

○人の健康や環境のモニタリングの重要性

- 地層処分場の周辺住民を対象としたモニタリングプログラムを導入し、年齢、サイトからの距離、サイトから放出される放射性物質を考慮し対象者を分類し、それぞれの区分に応じた明確な疫学的研究を行うべきである。

○地域開発への貢献

- 地層処分プロジェクトは、人口の減少や産業の衰退に直面しているムーズ県及びオート=マルヌ県における地域開発に貢献するものである。市民パネルは、交通・通信インフラ整備による地域開発、地層処分プロジェクト関連の人材育成・研究拠点開発、住宅や文化施設の整備等による生活環境の改善、将来性のある事業開発という4つの方向性に沿って、地層処分プロジェクトから得られるリソースを配分するのが妥当であると考える。

○地層処分プロジェクトの費用と資金確保

- 現時点では現実に即したプロジェクトの包括的な費用を把握できないため、市民パネルは費用については見解を示すことができない。なお、地層処分プロジェクトの費用については、今後、政府により正式に試算されることになっている。

 

今後、公開討論国家委員会(CNDP)は、今回の市民会議の終了を受けて、2013年5月から開始した公開討論会の全体の議事録及び総括報告書を2014年2月15日頃に取りまとめ、公開討論会の開催を付託したANDRAに提出する予定である

今回の市民パネルの見解の公表を受けて、地層処分プロジェクトを実施するANDRAは、2014年2月3日に、市民パネルに対するコメントをプレスリリースとして公表した。その中でANDRAは、実規模での地層処分場開発の試験を実施すべきとの市民パネルの指摘について、ANDRAが提示した地層処分場の段階的な開発の方針を補完するものであると評価している。ANDRAは、公開討論国家委員会(CNDP)からの公開討論会の総括報告書を受領した後、2014年5月15日頃までに地層処分プロジェクトへの反映内容を決定する方針である。

 

【出典】

  1. 2006年放射性廃棄物等管理計画法で設置され、地下研究所または地層処分場のある地域において、実施主体と地元住民との間の情報の仲介、放射性廃棄物処分に関する研究の監視、情報提供、協議に関する全般的な使命を担う組織である。 []

(post by yokoyama.satoshi , last modified: 2023-10-11 )