諸外国での高レベル放射性廃棄物処分

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カナダ カナダにおける高レベル放射性廃棄物処分

カナダにおける高レベル放射性廃棄物処分

全体構成(章別)


6. 安全確保の取り組み・コミュニケーション

6.1 地層処分の安全確保の取り組み

  • 地層処分の研究開発は1978年からカナダ原子力公社(AECL)の主導で開始されました。AECLは1994年に環境影響評価書(EIS)において、地層処分概念を連邦政府に提示しました。
  • 1998年に環境評価パネルによるレビュー結果と勧告が答申され、「技術的には可能だが、社会的受容性が不十分」との結論が示されました。その後、環境評価パネルの勧告に沿って、2002 年に「核燃料廃棄物法」が制定されました。

安全性の確認と知見の蓄積

カナダでは、2002年にカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立される以前は、核燃料廃棄物の地層処分研究はカナダ原子力公社(AECL)が実施していました。AECL は1994年10月に『カナダの核燃料廃棄物の処分概念に関する環境影響評価書』(EIS)を取りまとめており、処分概念の安全評価も行っていますが、EISでの安全評価は仮想的な処分システムに対するケーススタディと位置付けています。

EISの取りまとめ以降も、AECLとオンタリオ・パワージェネレーション社がそれぞれ1996年と2004年にケーススタディを実施していますが、規制機関のレビューを受ける形の包括的な安全評価はカナダでは今のところ実施されていません。

カナダでは、2007年に核燃料廃棄物の長期管理アプローチ“適応性のある段階的管理”(APM)の採用が決定しました。このアプローチを進めるカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が2012年3月に策定した実施計画では、規制当局との間で事前レビューの機会をもつために、2016年までの5年間のうちに、地層処分場の閉鎖後についての安全評価の準備作業を進める予定となっています。

核燃料廃棄物以外の安全評価の実施

カナダの原子力発電事業者の一つであるオンタリオ・パワージェネレーション社(OPG 社)は、自社の原子力発電所から発生する低中レベル放射性廃棄物の地層処分場(DGR)をウェスタン廃棄物管理施設(ブルース原子力発電所に敷地内)に建設する計画です。OPG 社はDGRプロジェクトを2001年から進めてきました。DGR で核燃料廃棄物(使用済燃料)が処分されることはありません。

2009年1月に、OPG社とカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、OPG社が行うDGRに係る許認可申請に向けて、NWMO が技術支援等を行う契約を締結しました。DGR関連業務に従事していたOPG社の人材がNWMOに移り、地質調査や安全評価、環境評価、地元とのコミュニケーションなどの業務をNWMO が継承しました。OPG 社は、DGRの許認可申請を2011年にカナダ原子力安全委員会(CNSC)に提出しました。この申請書に添付された環境影響評価書、予備的安全評価書などは、OPG社のためにNWMOが準備したものです。2011年にOPG 社は、追加的な地質調査や具体的な処分場施設の設計をNWMOに委託しています。

NWMOは核燃料廃棄物の処分実施主体ですが、OPG社の委託を通じて、異なる種類の放射性廃棄物を対象とした地層処分場の安全評価を実施しており、こうした活動はNWMOの能力向上にも役立っていると考えられます。


6.2 処分事業の透明性確保とコミュニケーション

  • 実施主体のNWMO は、核燃料廃棄物の長期管理アプローチの検討にあたって、約3年の国民対話と研究を踏まえて長期管理アプローチ案に反映しました。また、NWMO はサイト選定プロセスの実施にあたっては、影響を受ける利害のある地域社会と協力してサイト選定プロセスを開発・実施することを公約としています。サイト選定プロセスの策定においてNWMO は、関心を表明した自治体の住民がプロジェクトについて学習できるようにするために、自治体が行う支援活動に対して資金提供を行っています。

公衆の関与プログラム

2002年に制定された核燃料廃棄物法には、処分主体の設立目的が明記されました。これに基づき、カナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、①連邦政府に対して、核燃料廃棄物の管理のための複数のアプローチを提案し、②採用が決定したアプローチを実施します。NWMOがアプローチを提案する際には、その具体的内容や実施スケジュールに加えて“公衆の関与プログラム”を含めることが求められています。

NWMO は、約3年の国民対話と研究を踏まえて2005 年に取りまとめた最終報告書『進むべき道の選択』において「適応性のある段階的管理」(APM)アプローチを提案しました。このなかでNWMO は、アプローチの実施過程の節目となる、重要な意思決定ポイントを複数設定する(下図参照)とともに、それらの時点で行われる関与プログラムの性格と範囲も明確にしています。

実施の役目を持つNWMOは、段階的実施と適応を図る上で、専門家と一般市民の双方の参加が継続的かつ積極的、発展的であることが重要であり、それがNWMOの実施能力の向上につながると考えています。

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サイト選定における地元とのコミュニケーション

NWMOは2005年の報告書『進むべき道の選択』において、サイト選定プロセスでは「自主的に名乗りを上げる立地地域を特定することが、管理アプローチの実施に対する地域の協力と積極的関与の基礎を築く上で中核となる」と述べています。このことは、処分場プロジェクトの成功について国民が求めている水準の保証を提供するためには、サイトの技術的側面に対する確信だけでは足りず、影響を受ける個人と地元地域の社会的、文化的、経済的志向を尊重し続ける倫理的な方法でプロジェクトをダイナミックに展開する必要があるという考えが背景となっています。実施には、起こりうる影響について十分情報を持ち、NWMOと協力して主要な実施決定を具体化し、方向付けることに専心する地元の存在が前提であるという認識です。

地元の“自主性”(処分場を立地する意欲)を表明する方法は自治体側の問題であるとしつつも、表明された“自主性”の程度が立地を進める上で十分か否かの判断はNWMOの責任となると考えられています。こうした考えからNWMOは、影響を受ける利害のある地域社会と協力してサイト選定プロセスを開発・実施することを公約としています。


地元協議・コミュニケーションを支える財政支援

NWMOは、地層処分場のサイト選定プロセスを報告書『連携して進む:カナダの使用済燃料の地層処分場選定プロセス』(2010年5月)において公表しました。このなかでNWMOは、自治体とNWMO がプロジェクト受け入れに係る正式協定に調印する前までの複数の段階において、プロジェクトへの関心を評価することに市民を参加させ、広範囲の市民の関与が達成されるように働き掛けるとし、この目的で必要なリソース(人・資材・資金)を供給することを確約しています。

関心を表明した自治体の住民がプロジェクトについて学習できるようにするために、自治体が行う支援活動に対して、NWMOは資金提供を行っています。サイト選定プロセスへの関心を表明した自治体では、初期スクリーニングがおこなわれますが、その結果をレビューするために第三者の専門家を雇う費用や、地域の代表などが放射性廃棄物の貯蔵施設を見学するための旅費などをNWMO が負担しています。


6.3 意識把握と情報提供

  • 地層処分場のサイト選定を開始したカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、サイト選定プロセスへの参加に関心表明を行った自治体において、“ラーン・モア”(もっと学ぼう)プログラムと呼ばれる情報提供活動に取り組んでいます。

サイト選定プロセスにおける広報活動(情報提供)

2010年5月から開始されたサイト選定プロセス(165ページの表を参照)では、自治体がカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)に対して「知識を深めることの関心表明」を行うことで第2段階がスタートします。関心表明を行った自治体にでは“ラーン・モア”(もっと学ぼう)プログラムと呼ばれる情報提供活動が行われています。このプログラムは、サイト選定を行うNWMO が行っているものです。

このプログラムの重点は、自治体住民に向けて「適応性のある段階的管理」(APM)の全体像や進め方のほか、地層処分場のサイト選定プロセスがどのように進むのかといった説明です。こうした情報提供や、住民との対話を図るために、オープンハウスでの展示会のほか、住民グループや先住民族コミュニティなどの求めに応じた会合が開催しています。

展示会では、ポスターボードを使った説明や体験型展示、ビデオ上映が行われるほか、NWMOの専門家とコミュニティ代表者を交えた公開会合などの企画もあります。住民が寄せる質問や意見に対してNWMO の職員や専門家が直接応える機会を通じて、相互学習を図るねらいです。

サイト選定プロセスの第2段階では、当該自治体における地層処分場立地の潜在的適合性を評価するために、既知の情報に基づいた初期スクリーニングが行われます。ラーン・モア・プログラムでは、スクリーニング結果に関する説明や質疑応答も行われています。

国民意識と住民意識(主な世論調査結果)

NWMOは、社会調査プログラムの一環としてこれまでに2回(2005年8月と2008年11月)の全国的な世論調査を実施(外部の専門会社に委託)しています。2002年設立のNWMOの最初の仕事は、使用済燃料の長期管理に向けて、国民と協力して「社会に受け入れられ、技術的に優れ、環境責任を果たし、経済的に無理のない」管理アプローチを開発することでした。2007年6月にカナダの方針として“適応性のある段階的管理”(APM)が決定しました。世論調査は、管理アプローチの提案や適応性のあるようにアプローチを実施する上で、社会の懸念や関心を理解するためのツールとなっています。

これまでの世論調査での設問には、地層処分場の立地受け入れで生じる便益とリスクの捉え方だけではなく、原子力発電の将来、他の社会問題と比較しての核燃料廃棄物の管理の重要性に対する認識、APM の実施に関わるステークホルダーに対する信頼度なども含まれています。





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カナダ
hlw/ca/chap6.1363154801.txt.gz · 最終更新: 2013/03/13 15:06 (外部編集)